データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 川口外務大臣演説,「アナログ貿易から光ファイバー貿易へ」‐日印経済関係の将来の方向性‐

[場所] デリー(インド商工会議所連合会)
[年月日] 2004年8月13日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.モディ会長、カンワル副会長、カルラ事務局長及びご来賓の皆様、昨年1月に引き続きインド側の温かい歓迎のもと2度目の公式訪問が実現し、再び皆様と一堂に会することが出来たことを喜ばしく思います。また、このような昼食会に再びお招き頂きましたFICCIに感謝申し上げます。

 さて、今回貴国を再度訪問することを決意した大きな理由の一つは経済関係の強化にあります。皆様ご承知のとおり、2000年に森総理が貴国を訪問した際に日印グローバル・パートナーシップの構築に合意いたしました。そして、昨年、私はそのグローバル・パートナーシップの強化のために訪問し、それから一年半の間に日本からは石破防衛庁長官等が訪印し、関係強化が進んできました。そして、昨日、私はナトワル・シン外相と安保理常任理事国入りについての相互支持を含め、国連改革で協力していくことに合意しました。こうした協力は日印関係における大きな進展を表していますが、関係強化が政治・安全保障分野のみならず、経済関係にも及ぶ必要があることを強く認識しております。最近日本では、経済ビジネスパートナーとしてのインドへの関心が急速に高まっています。新生銀行がインドのi-flexソリューションズが開発したシステムを導入したことが、「通常の銀行の10分の1のコストと3分の1の開発時間でシステムを刷新できた」と報道されたことなどが、そのきっかけの一つとなっていると思われます。

 私はこうした関心の高まりを背景に、今回の訪問を決意しましたが、今年の夏は日印経済関係にとって大変暑い夏になりそうです。今回、インド新政権発足後、私が初の日本側閣僚としてインドを訪問することになりましたが、8月中にも、中川経産大臣、茂木IT大臣を含む経済関係の要人訪問が目白押しです。日本側は日印間の貿易額が印中貿易や印韓貿易より少なく、またインドITSoftware輸出の内、対日輸出は4%にしか満たないとの現状を変えたいとの気持ちで一杯なのです。現状のアナログ回線並の交流を早急に光ファイバー並に変える必要があります。そして日本側は今こそこれらの課題に取り組むための機が熟していると考えています。

2.しかしながら、日印経済関係の現段階は、例えてみれば、お互い関心はあって、できればもっと仲良くなりたいと思っている2人が、どうも相手が自分と異なる面がまず目についてしまって躊躇したり、相手に注文をつけてばかりいる段階とでもいえるのではないでしょうか。

 いまや、全世界が資本主義に移行し、世界各国が自国を魅力的にすることで海外投資を呼び込む競争が展開しています。投資をしようとする側は、投資先の選定にあたって、インド映画の女優並にラブ・コールを厳しくチェックするようになってきております。日本企業もその例外ではありません。こうした状況にあってインド側からは、一体どういうメッセージを日本企業に送信すべきでしょうか。実は、日本企業の進出度合いを示す一つのいいリトマス試験紙として、寿司がどの程度普及しているかが挙げられます。まず、寿司が、きちんと形よく相手に届くためには、道路を初めとしたインフラが整備されてなければなりません。鮮度を保つための保冷システム、そして安定的な電力供給ももちろん不可欠です。わが国は、こうした分野、すなわち運輸セクター、電力セクターにおいて経済協力を行い、外国企業にとっての投資環境改善のための協力を積極的に行ってきました。我が国はデリーメトロが既に日印友好関係の象徴となっていることを喜ばしく思っており、今後もこうした協力を行っていく用意があります。

 次に、恋人を待たさないことはどの国でも重要であります。許認可手続きで恋人を待たすのは得策ではありません。私がきいたところ、ある日本企業が州の間で製品を輸送した際、飛行機で2時間かかるところが、州間の移動の許認可手続きのため、150日かかったという話がありました。幸いにも、この時は寿司の輸送ではなかったのですが、日本のビジネスマンを呼び寄せるためにも、寿司を州の間で早急に輸送できるようにする必要があると言えるでしょう。時に、現状ではインドは一つの経済圏(single economic space)になっていないということを聞きますが、一つの経済圏に近づくことはインドをより魅力的にするでしょう。

 91年の経済自由化以降、インド政府の努力の結果、こうした点は改善されつつあります。しかし、より大きな視点から言えば、インドが今後、貧困層を含めた全国民の生活水準を民主的に向上させて発展していくことができるかどうかは、人類史的にも意義深く、その意味でも、我々はインド新政権が、貧困削減の必要性と、インフラ整備や労働法・税制改革、民営化などの経済改革の推進を通じた経済成長とをいかにバランスさせていくのか、その経済政策に注目しています。そしてその成否は日本との経済関係にも確かなインパクトを与えます。日本がインドの経済パートナーとして果たしうる役割は強調しすぎることはないでしょう。

3.他方、インド側に言わせれば、日本企業は初めて取引を行う企業とは非常に慎重につきあい、極端にリスクテイクに慎重である、あるいは日本の企業経営者は新しいソフトウェア・システムの導入に積極的ではない等の批判もあるでしょう。しかし、日本の人々はインド人の傑出した能力、ソフト開発におけるコストの低さ、および、これまでの実績をよく知っています。日本企業ももし引き続き競争力を維持しようとするなら、インド人の才能を生かし、パートナーを組まなければならない時代が到来しています。実は、これまでにも、日本企業がインドに関心を示した時期はありました。それは、80年代に日本が元気だったときにインドへの投資が進んだ時です。今成功しているマルチ鈴木などはその時からインドに進出したのです。しかし、残念ながらその後日印間にタイミングのずれが生じます。つまり、せっかくインドが経済自由化を行い、その成果が開花し始めた90年代には、日本経済がやや長めの風邪を引き、90年代の半ばにはアジア通貨危機が訪れました。その結果、日本企業は海外投資や企業内IT化に消極的になってしまったのです。また、日本企業にとってのインドのイメージが、98年の核実験により低下し、対インド投資を巡るリスクが2002年の印パ危機により高まったのも事実です。

4.しかし、タイミングの問題は解消され、私達はいまや日印経済関係の転機にさしかかりつつあります。日本経済が好転し、企業の投資マインドがやっと上向きはじめています。インドとの関係でも例えばエイザイが本年夏にムンバイに進出することを決める等、新たな兆候が見られますが、こうした動向は日本企業の対世界投資の動きと一致しています。また、IT産業でも日本で新しい技術、新しい企業が出始めています。特に注目すべきは、ユビキタス・コンピューティング等の新たな技術革新が進んでいることです。いまや、我々の準備は整ったのです。それをインドが引きつけられるかどうかが問われているのです。そして、インド側にも歓迎すべき動きが顕著です。11月にムンバイで開かれるインディアケム2004においては日本がパートナーカントリーとして指定されています。またこの秋には日本企業をインドに誘致すべく、FICCIと日本商工会議所が東京でDestination Indiaを開催する予定です。今こそ、日印両国はお互いをOPPORTUNITYとして捉え、具体的行動に移す時が来ているのです。私は、両者がお互いがそれぞれをもっと研究し、理解し、コミュニケーションの仕方を工夫することによって強力なパートナーになれると信じます。こうした認識から、私は今回の日印外相会談で日印間で共同スタディー・グループ(JSG)を立ち上げ、関係強化の方策につき研究を行うことを提案し、合意を得ました。

5.私はインドには多くの魅力があると確信しています。ジェット・エアでのサービスなどはその良い例です。インドの、あるいはインド「人」の素晴らしい魅力が日本でより広く知られるようお手伝いできる機会を歓迎します。インドはもっと日本に微笑みかけて頂きたく思います。相手を満足させるよう意を用いることを日本人は重視するのです。「Customer satisfaction:お客さま指向」というのは、民間企業を経験した私が外務大臣になって最初に外務省に対しても言ったことの一つです。これが外務省における考え方を改善する役に立ちました。

 Miguel de Cervantesの有名な言葉に"Tell me what company you keep, and I'll tell you what you are."というものがあります。私達がお互いに友人関係を強化していく中で、経済関係の一層の拡充へ向け実効的な措置を取り、お互いが更に魅力的になるように助け合っていかなければなりません。皆様、今日この場で皆様に聴いて頂きましたこのビジョンは、ドン・キホーテ的な夢に過ぎないものなのでしょうか?私はそうは思いません。日印両国は真のパートナーだとお互いが胸を張って言える日は夢などではなく、今形づけられつつある現実なのです。

 ご静聴ありがとうございました。