データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本記者クラブにおける川口外務大臣政策演説〜激動する国際情勢の中での日本外交〜

[場所] 日本記者クラブ
[年月日] 2004年9月16日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

(冒頭)

 今日は激動する国際情勢の中での日本外交についてのお話をさせていただきます。このちょうど一年前にお話をさせていただいて、その後いろんなことが起こったわけですが、もう少しスパンを拡げて、その前からの一連の流れ、そして今後の課題ということでお話をさせていただきたいと思います。

 その前からということでいいますと、最もシンボリックな出来事は2001年9月11日の米国同時多発テロ(以下「9・11」)であったと思います。本当に不幸な出来事でしたが、これによって多くのことが変わりました。一つ明らかになったことは、新しい脅威、大量破壊兵器の拡散や、テロの脅威とか、そういったことが明らかに見えてきたということだと思います。

 日本にとってそういった問題は関係のないことではなく、日本人が自らの問題として受けとめたということですし、もちろん日本政府もそれを日本の問題として取り上げて、取り組んでいるわけです。より近いところで言いますと、イラク、アフガニスタン等で様々な展開があり、北朝鮮をめぐっても今多くのことが動いています。このポスト「9・11」

 の中で新しい形、新しいタイプの脅威の認識ということが、そしてそれに対して日本を含めた国際社会がどうやって取り組むかということが、すべての国にとって一つの課題になったということだと思います。日本はずっとそれに取り組んできまして、その中で日本が国際社会のリーダーとしての役割を、平和と安全を確保していくために果たしてきたということが、他の国にも十分に目に見える形になってきている、日本が国際秩序を作っていく時のリーダーであるということの認識が出来てきているということが、不幸な「9・11」をめぐる様々な取組の中で一段と明らかになってきているのではないかと思います。

 そういった動きがある一方で、日本はアジアに対しては格段の取組を今までしてきているわけです。アジアの平和と繁栄のための日本の努力ということも、ずっと続けてきておりますが、またここ2、3年で大きく動いているということが言えると思います。その背景としてもちろん、欧州が拡大をしたとか、アメリカ大陸においてNAFTAを通じて北米と南米が繋がっていくような動きが見えてきているなど、世界が非常に変わってきているという状況があり、これを反映して、日本も東アジアコミュニティを造りましょう、と今動いてきているということがあります。アジアと一緒に歩んできているという側面が、もうひとつ大きな、今までとは異なった部分であると思います。

 もちろんアジアへの取組も、先に申し上げた新しい形の脅威への取組という側面を無視して考えることはできない、そういう意味で二つは繋がっているとも言えますが、今日はこの二つ、一つは新しい脅威についての取組、そしてもう一つはアジアへの取組、これらを中心にお話をさせていただきたいと思っています。

(新しい脅威)

 まず、新しい脅威への取組ということですが、これは言うまでもなく、例えば北朝鮮において起こっていること、それからパキスタンのカーン博士の話によって明らかになった核の闇ネットワークの存在、そしてイラン等との問題もあります。今、世界が大変な勢いでグローバル化している中で、我々も情報を早く受け取りますけれども、テロリストたちも、情報その他からグローバリゼーションのメリットを受けており、今までのように国と国の間の脅威を考えているだけでは十分ではなくて、地域あるいは人から地域、人への脅威という観点でこの問題が出てきていると言えます。これに取り組むために一番大事なことは、各国の足並みが乱れない、国際社会が一様に取り組んでいくことだと思います。

(日本の取組)

 日本の取組は色々ございます。一つは、自らやるということで言えば、テロ関係の条約が12本ありますけれども、それらを全て日本は締結しています。またPSIと言われる「拡散に対する安全保障構想」のコアグループのメンバーとして、今年の10月には東京湾で各国を招いて海上阻止訓練も行うことになっています。

 日本の取組をいくつか整理して言えば、一つは国際秩序を作っていくための取組、今申し上げたようなPSIとか条約関連、あるいは軍縮、不拡散関係の国際的な枠組み作りのための取組ということが挙げられると思います。もう一つ、アジアの国に対しては二つに大きく分けられると思っています。一つはアジアの制度作りに日本が支援をしているということです。これはアジアの国々に必ずしも輸出入、入国管理が十分にあるわけではありませんので、そういったところの制度作りの支援をしていくというものです。もう一つは人作り、いわゆるキャパシティビルディングと言っていますが、研修員の受け入れ等そういった問題に取り組める人材を育てる支援しています。ちなみに研修員で言いますと、大体今300人以上の研修員をアジアの国々から受け入れていますし、コンピューターを使ったシステムである指紋照合の機械といったものをフィリピンに無償供与をするといったこともやっています。

(中東政策)

 もう一つ大量破壊兵器の拡散あるいはテロという文脈で言いますと、日本の政策の大きな柱が中東政策であると思います。テロという点で言えば、中東地域を切り離して語れないということもあり、この地域が平和であって、繁栄し、安定していく、基盤ができていくことは、国際社会や日本にとって重要です。この地域に何か問題があれば、貿易や海外活動が非常に大事な我が国にとっても大きな問題があるということですし、石油の供給を日本は非常に多くこの地域に依存していますから、そういった意味でも重要で、中東政策というのは日本にとって戦略的に重要であると思います。

 これを大体どういうことでやっているかということを申し上げますと、一つはODAの活用ということがあります。また、イラクではODAの活用に加えて、自衛隊が平和の定着、国造りということで、人による協力を行っているわけでして、これらの協力については、イラクやアフガニスタンを含めた中東についての日本の対応が世界から高く評価されていると思います。

 もう一つイラクについて申し上げる時にぜひお話をしたいと思うのは、国際的にまとまってこのイラクの問題に対応していくために日本が積み重ねてきた努力についてです。例えばその一端を申し上げますと、我が国はフランスやドイツとともに周辺のアラブの国々を巻き込んでイラクに支援をするということで、第三国協力というものを進めようとしています。

 フランスとはスポーツや文化の面の支援として日本と一緒に協力をしましょう、ということでやっていますし、ドイツとの関係では警察官育成等の分野で協力のあり方を検討しているところであります。また、ヨルダンとエジプトとはイラクの医療支援を一緒にやっています。近隣のアラブの国々からは、ぜひ日本と自分たちも第三国協力をやりたいという話もきています。

 アフガニスタンについても日本は、平和の定着と国造りと、それから洋上における艦船への給油という面で支援活動をしています。支援の金額はイラクほどではありませんが、本年4月に今後4億ドルをアフガニスタンに拠出することを表明し、その一部を含め現在8億ドルの拠出実績がありますし、これから先は選挙が大変重要な課題でありますので、そこにも支援していくということを考えています。

 そういったイラク、アフガニスタンのように今起こっている問題に加えて、より根本的に重要である問題として、日本が中東から遠い地域でありながらずっと力を入れてきているのが、中東和平の問題です。さらに、日本と中東は距離が遠いということもあるがゆえに、双方の人々の相互理解、そして文化交流ということも重要だと考えていまして、中東地域との対話も様々にやっています。中東和平に向けての日本の一つの取組として申し上げれば、パレスチナに対して日本は三つの観点から支援を行っています。

 一つは人道的な観点から、パレスチナの人達の困っている状況を助ける医療等があります。さらにロードマップが成就をした暁には、二つの国家が平和裏に並存をするということであるわけですから、その時にパレスチナが一つの国家としてきちんとした能力をすぐに発揮できるようにするために、パレスチナの改革の支援をやっています。三番目はイスラエルとパレスチナの間の信頼醸成をしていくことが大事ですので、日本で両者を呼んで会合をするようなこともやっています。

(平和の定着、民主化支援)

 それから別の切り口からもう一つ言いますと、日本がテロあるいは大量破壊兵器の拡散への取組として行っている政策の一つの大きな柱というのは、平和の定着、民主化支援と言われるものです。これには3つの要素、つまり、和平のプロセス、国内の治安改善、その先に重要である復興人道支援の3つが切れ目なく続くように考えるということで、日本としてできる支援をやっています。アフガニスタンではDDR、武装解除から元兵士が社会復帰をするための地域コミュニティ造りというところまでも視野に入れてODAを積極的に使っています。アチェやスリランカといったアジアの国や地域に対しても日本はこうした努力をしていますし、遠くアフリカにおいても平和の定着ということは重要ですので、そうした観点からの政策も行っています。

 そういった平和の定着をもう少し広い視野で見た時に大事なことは、それぞれの国が民主化そして市場経済化という過程を通りながら国が繁栄するような形にもっていくということです。その意味で、日本が非常に戦略的な観点から外交をやったのが、中央アジアへの外交でした。これは「日本+中央アジア」という形の対話を作りましょうということでした。中央アジアの国々は国によって差はありますけれども、今、ロシアから独立して国造りに必死に努力をしている中で、それぞれの国の規模が小さいゆえに、一緒になって取り組むことを慫慂したいという観点から、麻薬、テロ、水、エネルギー、環境問題等においてみんなが一緒に取り組んでいくことに日本は積極的に支援をしていきます、というメッセージを発出したわけです。もちろん、中央アジアのそれぞれの国々との二国間の関係を日本は持っており、これを大事にさらに強化をしていくということもやっていきたいと思います。このように、国際社会におけるテロや大量破壊兵器の拡散に対して、日本は一緒にリーダーシップをとって取り組んでいます。

(アジア外交)

 それからもう一つの柱であるアジアについては、日本がアジアの一員として今コミュニティビルディングに一生懸命になっているということを申し上げましたが、1977年の福田元総理によるスピーチと、小泉総理が2002年の1月のASEAN諸国訪問に際してシンガポールで行ったスピーチの2つ比較をして考えると日本のスタンスの違いが一番はっきり表れると思います。小泉総理は、日本とASEANの国々双方は、率直なパートナーとして共に歩み共に進む、一緒に歩んで一緒にやるのです、ということを言われたわけです。それに対して福田元総理がおっしゃられたメッセージというのは、ASEANの「良き協力者」である、ASEANと「特に親しい友人である」というメッセージでありまして、隣人としてASEANを一緒に支援していきます、ということであり、つまり今は一緒に歩み一緒に進んでいき、一緒に東アジアコミュニティを造っていきましょう、という形になっているということです。

 昨年の12月に東京で、ASEANの首脳がみなさん揃われて日本との会議を行いました。ASEANの首脳が域外でサミットを持ったというのは初めてで、そういった意味では大変画期的ですし、ASEANの国々が、30年にわたる日本のASEANに対してのコミットメントをきちんと評価しているということの表れであると思います。その場でも東京宣言というものを出しましたが、そこで東アジアコミュニティの構築を希求するということが確認されました。

 日本のアジア外交の中でもう一つ大きな柱というのは、日中韓の三か国がこの東アジアコミュニティ造りの中で大きな役割を果たし、大きなリーダーシップをとっていることです。日本にとって中国はもちろん大切なパートナーでありますし、韓国についても民主化や市場経済化をともにシェアをする大事な仲間であるわけです。この日中韓は今までASEANの会議の時に、それに引っ付けた形で日中韓の首脳会談をやっていました。この日中韓ということをより独自なものとして扱うということが重要であると私は考えまして、日中韓が独自で会合を開くということを始めました。昨年の10月には、日中韓の首脳の共同宣言というものも初めて出ました。その共同宣言の中では、日中韓の会議をやっていきましょう、そして三国の外務大臣に日中韓の動きを常にレビューして、この会議を引っ張っていく役割を課しましょう、ということを三首脳が謳われているわけです。それを受けて第一回の日中韓の外務大臣会合を中国の青島で今年の6月に開いて、私が議長をいたしました。今後、日中韓の外務大臣が集まって交互に議長をやっていくという枠組みが立ち上がったということになります。すでに環境、財政、経済、エネルギー等色々な分野で日中韓の枠組みはできていますので、そうしたことを外務大臣のレベルでまとめて首脳会議に報告をする形になっています。

 アジアに関しては東アジアコミュニティの他に、経済面では地域連携の動きが沢山あります。安全保障面、政治面では、この地域全体ではARFが動いていますし、先に申し上げた日中韓外務大臣会合もそういった役割を果たすわけです。それから重要な文化面、人の面での交流ということを考えますと、日韓がワールドカップを境にますます親しくなってきていますが、ASEANとの間では昨年、日本とASEANとの交流年ということで、ASEANの国々が一月ずつ担当をして、その国と日本との間の交流のプログラム、歌やダンスや音楽会その他諸々の催しをいたしました。中国との間での人の交流ということでいいますと、2002年が日中国交正常化30周年でしたので、この年を日本年、中国年とお互いに位置づけて、色々な催しをいたしました。

 観光振興ということで日本は今、多くの観光客が日本に来ていただきたいと思っていますが、その中でアジアの国々からはかなり大勢の人が日本に来てくださるようになると思っています。すでに日中間では約350万の人の往来がありますし、日韓間でも370万人以上が往来をしています。

 細かい地域的なそれぞれの国との関係について、一つ重要な、新しく力を入れているものとしてインドとの関係があります。私は外務大臣になってから二度インドを訪問しております。インドという国は、世界で最大の民主主義国家です。先般、政権が代わりましたが、選挙によって非常に民主的に代わっている、そして市場経済をもっている国でもあります。今でこそ人口は10億で、中国の13億よりも少ないですが、今後インドが世界で第一位の人口を持つ国となり、中国を凌駕する経済規模を持つだろうということは、ある民間企業の予測にも出ていますけれども、そういった大きな潜在的な可能性を持っている国であって、日本として経済面、政治面でインドと非常に親しくしていくことが重要だと思っています。インドとの間では、「グローバルパートナーシップ」とお互いの関係を位置付けていますが、今後さらに連携を深めてそれを一段と高いレベルに持っていくことが大事であると考えています。

 さらにもう一つ加えますと、ロシアとの関係も重要であって、シベリア開発等の日本とロシアの協力も、アジアにおけるロシアということを考える時に非常に重要であると思います。ロシアとの間では行動計画の下で、6本の柱を立てて色々なことをやっていますが、一つが北方四島の帰属の問題の解決をして平和条約を結ぶことであり、これを成し遂げた暁には、ロシアと日本の関係はさらに深まっていくと思っています。

 次に、今後の課題については沢山ありますが、二つに絞ってお話をさせていただきたいと思います。

(国連改革)

 一つが国連改革です。これは今まで申し上げてきたように、日本はすでに国際社会のリーダーとして取組を行ってきたことは、各国がみんな等しく認めているところであると思います。国連を改革して安保理の常任理事国になるということは、日本はそれによってさらに国際社会でリーダーシップを発揮することができ、大きな国際社会全体のための取組をしていくことができるようになる場が与えられるという意味で、重要であると思っています。国連が出来てから大分時間も経ち、世界の情勢も変わった中で、今の国連のあり方が現在の世界を反映しているかどうかについては、どの国も大きな疑問を呈しており、そういう意味で昨年に引き続き、今年の国連総会においても、この点について大きく議論がなされると思います。小泉総理ご自身もこの点について日本の大きな決意を述べられると伺っています。

 国連改革というのは、日本との関連だけでなく、さらに国際的な問題、テロと拡散の問題に加え、感染症、貧困の対策、ミレニアム開発目標等に取り組むために国連はどうあるべきか等色々な課題があり、そういったことも含めて国連の場で議論されることになると思います。

 日本は今まで国連改革に向けた取組を行ってきており、このモメンタムを使って国連の改革を行い、日本が常任理事国になるには、今が非常にいい機会であり、この機会を十分に活かすことができなければ、しばらくそういったチャンスは遠のくだろう、という問題意識を持って、この問題にあたっているのです。

 今、アナン事務総長の下で日本の緒方さんもメンバーとして入っている国際的なパネルにおいて、どうやって国連の改革ができるかを議論して頂いています。日本は非常任理事国と常任理事国の両方が拡大する形で、安全保障理事会が改革されることが重要だと思っています。

 実際、日本がやってきたことについては、世界の国々が非常に評価をしており,日本が常任理事国になるということはもっともである、と言っている国がほとんどであり、私の知る限り、日本が常任理事国になることに明示的に反対だと言っているのは北朝鮮ぐらいであると思います。つい数日前にイギリスの外務大臣とも電話で話をしましたが、イギリスもこれを支持すると言っています。もちろんアメリカを始め、殆どの国がそう言っています。

(経済の基盤づくり)

 もう一つの課題というのは、テロの問題にしても、大量破壊兵器の拡散の問題にしても、それらに取り組むにあたって大事なことは、国際社会が経済の繁栄が起こり続けるような経済の基盤を世界に作るということにあると思います。そういう意味で、ODAによる支援も大事であり、貿易や投資を通じた経済の発展も大事であると思います。

 特に、アジア諸国は日本にとっても貿易、投資のパートナーであり、そういった国々と良好な経済関係を持っていくことが重要でありますので、今いくつかの国々と経済連携協定の作業を進めています。今、韓国、マレーシア、タイ、フィリピンと交渉を行っているところです。そして間もなく小泉総理は、メキシコにおいて、同国との間の自由貿易協定の署名をなさることになるだろうと思います。

 ODAを活用することも重要ですが、今、世界の国々は、投資、貿易も同様に重要だというふうに考えていると思います。先般、タジキスタンに参りましたが、同国はついこの間まで内戦があって、我々も秋野さんの事件で非常に痛ましい思い出がある国ではあります。しかしその後は、同国も落ち着いて経済発展をしたいと思っており、同国の外務大臣と話をしましたところ、もちろんODAについての話も色々ありましたが、ぜひ日本の企業に投資、貿易をしてほしい、韓国もアラブの国もアメリカもヨーロッパも来ている、来ていないのは日本だけだ、ということをおっしゃられました。ウズベキスタンでも、アフリカの国々も、もちろんアジアの国々もそう言っています。そういった形で日本との連携を深めたいとみんな思っているということです。

 さらに経済基盤の強化を整備していくことで言いますと、我々がみんな認識しているとおり、日本は一次エネルギーに乏しい、海外に資源を依存している国であり、そういった意味では資源が安定的に供給されるということが重要です。そうした中で海洋をめぐる日本の権利をきちんと確保していく、そしてシーレーンの安全を確保するということが重要であることは論を俟たず、このための取組も行っています。

 最後に二つほど申し上げたいことがあります。

(外務省改革)

 一つは日本が今取り組んでいる改革について、私が外務大臣に就任した時に小泉総理から、あなたの第一の仕事は外務省の改革だ、と言われたわけですが、その改革を霞ヶ関を先駆ける改革としましょうということを合言葉に、外務省が一丸となって取り組んできて、この夏には機構の改革も行いました。霞ヶ関を先駆けるという意味で、例えばどういったことをやっているのかということを申し上げますと、いくつかのポストについて外務省は公募をやっています。人事については、霞ヶ関ではどこでも大抵は、人事当局があなたはここに行きなさい、と張りつけるのが現状ですが、外務省では100ぐらいの公募ポストを選んで、一定の基準を満たす人には、自由にその仕事に手を挙げてもらっています。それをさらに審査をして、本当にそのポストに相応しいということであれば、その人にやってもらうということをしています。これを行っているところは他にはないと思います。さらに大使を含む幹部への民間人の登用ということも相当にやっています。

 また、例えば民間で国際経験豊富な方が大勢いらっしゃいますので、シニア領事ボランティアとして、海外にいる日本の人が非常に多い中で、そういった民間の方々にも知恵を頂くべく、海外に赴任して頂くということもやっています。

 さらに、国民の皆様方からのメールあるいは電話を受ける専門の部署を作っておりまして、そこでは、そういったことについてどのようなご意見を国民の皆様がお持ちかということも日常ベースで把握をしていますので、本当に外務省の行っている政策についての反応が、一挙手一投足、非常に敏感な形でフィードバック頂いています。

(ODAの重要性)

 さらにもう一つ申し上げたいことはODAの重要性であり、今まで申し上げたような平和の定着や東アジアコミュニティ造りに日本が果たしている大きな役割として、ODAによる支援があります。このODAというものが、いかに世界の中で評価をされているかということの一例をお話させていただきます。

 先般、キルギスに参りました時のことですが、外務大臣が行けば外務大臣と会談をするのが通例にもかかわらず、キルギスでは外務大臣との会談を飛ばして、大統領との会談というものがありました。首都ビシュケクにあるマナス空港、ビシュケクと第二の都市であるオシュとの間の道路は日本の支援で出来たものである、また日本は医療支援において特に女性の支援をしていますが、産婦の死亡率、子供の死亡率が大幅に減った、こういうことを日本がみんなやってくれた、という話を私にされました。そして、その夜はたまたま独立記念日の前夜であり、戸外で大勢人が集まって、キルギス人の中央アジアにおける今までの動きについての歴史を、歌や芝居やその他で表現をするという催しがあったのですが、同大統領は、ぜひ日本のあなたには少しでもいいからその場に来てください、とおっしゃったのです。私は、それでは参りましょう、といざそこに行きましたら、催しの途中に大統領の演説があり、その演説の中で、先ほど大統領が私に言われたこと、つまり、道路、飛行場その他一つ一つ挙げて、日本はこれらを支援してくれているのです、我々は民主化、市場経済化をしながら国を造っていかなければならない、そういう時のモデルが日本には沢山あります、またそういう国が我々の努力を支援してくれているのです、今そこに日本の外務大臣がいます、と述べられ、私も大変に嬉しかったし、感激も致しました。

 このように、日本の方々がおそらく思っていらっしゃるよりはるかにODAというものは、世界の中で感謝され役に立っているということが言えると思います。切手やお札にしたりしているところも沢山ありますし、中国についても、日本国内に色々な批判はありますが、ODAについては日本に非常に感謝をしているということも、共産党指導者層などの上層部から政府の役人まで皆さんおっしゃっています。

 そのODAが実は2000年、たった4年前まで日本はアメリカを凌駕して、実績ベースでは世界一の拠出額でした。その時アメリカのODA額は日本の七割強に過ぎなかったというわけです。今はどうなっているのかと言いますと、アメリカはその後ODAを増やしまして、昨年2003年の実績でいいますと、日本はアメリカの実に六割弱である56%、下手をすれば半分になってしまうような額になっています。

 なぜそうなったかと言いますと、2000年から2003年に向けて日本のODAはずっと減り続けていったことがあるわけです。もちろんODAの財源は税金ですから、効率的に使うといった様々な改革を進めていかなければいけませんし、そういった改革も外務省の改革の中で、ODAの大綱を見直す等色々なことを致しましたが、ODAの重要性について一度ぜひご認識を新たにして頂きたいと思いまして、今申し上げた訳です。

(結語)

 最後に、今回あえて触れませんでしたが、米国は日本にとって唯一の同盟国であり、国際協調と並んで日米の関係が重要であるということについては、言を俟ちません。日米関係は幸い、今至上かつてないほど良い関係、最も良い関係です。日本はそういった関係を大事にしながら、米国の重要な同盟国として、米国に対して言わなければいけないことはきちんと言っていく、ただ同盟国ですから、できるだけ効果があるように静かな形で、しかしはっきりと色々なことを言っていくという考えであり、実際に日米関係がそういった形で動いているものと思います。

 ご静聴ありがとうございました。