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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] OECD東京政策フォーラムにおける麻生外務大臣演説:開発のための投資

[場所] 東京
[年月日] 2006年7月20日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 グリア事務総長。この度の訪日を心より歓迎致します。本日、グリア事務総長と共に、「OECD東京政策フォーラム」を開けますこと、大変嬉しく思っております。また、黒田アジア開発銀行総裁、フォーラムのパネリストの皆様、並びにご列席の皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠に有り難うございます。

 本フォーラムの冒頭に、私からひとつ、議論の前提となるような問いかけをさせて頂こうと思います。それは、「グローバル化が深まる中でOECDは今後如何にあるべきか」ということです。本日は、さらに「開発のための投資」という考え方をお話しするつもりですが、その前にこの問いに対します私の考えを述べたいと思います。

1.OECDの重要性、OECDの今後の活動への期待

 OECDと言えば、私などの古い記憶によりますと、もともとマーシャル・プランの調整機関として生まれ、冷戦中は、民主主義諸国の結束を固める政策協調の場となって、ひところはメンバー国の経済をあわせると、世界のGDPの8割を占めたと聞きます。またOECDが出すメッセージは、GATTですとかG7サミットの議論に強い影響を及ぼしてきました。

 今でもOECDは、経済政策・分析、開発、貿易・投資といったいろんな分野で活発に活動しております。特に加盟国間の相互審査、ルールづくりといった働きを通じて、いわゆる「先進国基準」づくりに貢献していると考えられています。

 しかしながら、世界の圧倒的多数の地域で、すなわち東アジアを除いてはイデオロギー対立という冷戦は終わりました。また、経済のグローバリゼーションは日増しに進んでいます。さらに、中国やインドなど、いわゆる新興経済の台頭も、まことに著しいものがあります。このように世界が大きく変貌して参りますと、いかに優れた組織であっても、いや優れた組織であればあるだけ、自らの存在理由を常日頃から問い直していかないといけない・・・、さもないと、影響力にかげりが生じないとも限りません。

 では、新しい国際状況の下で、OECDはどうあるべきなのか。私は、3つポイントがあると思います。

 まず第一に、OECDをOECDたらしめている独自性とか、あるいは「比較優位」がどこにあるのかを改めて把握し直し、そこを重点的に強化すべきだと考えます。具体的に言いますと、マクロ経済分析、ルールづくりの機能、そして加盟国間の政策の相互審査という、OECDの原点をしっかり押さえること、それが何よりもまず重要なのだろう、と考えます。

 第二に、中国やインド等の新興経済を国際標準のルールに取り込むために、OECDは大きな貢献ができるはずです。

 ご承知のように、今、新興国がどうも逸脱することの多い分野がいろいろあります。知的財産権とか輸出信用、ODAあるいは環境といった分野ですが、ここで新興経済を、OECD諸国と同じルールの下においていかないといけない。美しい地球を残すため、あるいは公正な競争、世界経済の持続的成長を実現していくために、そのことが欠かせないのであろうと思います。

 第三は、OECDのグローバル化の勧めです。すなわち、ヨーロッパを中心につくられてきたOECDの歴史をはなれて、真の意味で「世界のOECD」となることです。きっとその必要は、OECDの皆さん自身が感じているのではないでしょうか。

 OECDには今、ヨーロッパ以外の発想を取り込んでいく努力も必要なのだろうと思います。例えばトヨタのカンバン方式。これはサプライ・チェーン・マネジメントとか、工程間分業といった経営上のイノベーションを次々生み出しまして、グローバル経営のインフラを作り出しました。こういう、一国単位の枠を超えてゆくダイナミズムを、OECDは十分とらえ切れておりましたでしょうか。こういう新しい息吹というもの、欧州以外でいろいろ起きている動きを積極的に分析し、理解し、取り込んでいけるか否かが、OECDが現在のカラを破り、地球規模の普遍性を持った組織になれるかどうか、決めていくだろうという気がします。

 地球規模の普遍性を追求していくOECDを、我が国として大いに支援することはいうまでもありません。

2.「開発のための投資」活動の重要性

 さて、本フォーラムのテーマである「開発のための投資」について、簡潔にお話しいたします。

 アジアに暮らす私たちにとりまして、貯蓄を投資に回し、企業を育て、みんなで成長していくという発想はごく自然なものです。東アジアや東南アジアの成長の経験は、民間投資が成長の牽引役になった成功例でしょう。しかし世界的に見ると、このいい意味での「アジア的生産様式」は、まだよく理解されていないのかもしれません。特に西欧の一部には、援助イコール・チャリティーと考えたがる国があります。それらの国々は、投資のないところに持続的成長はない、という真理がなかなか飲み込めませんでした。投資を育てようと思うと、いろんなインフラを、物理的にも人材面でも、着実に整えていかないといけません。そこが、いわば投資と成長を結ぶ隠されたリンクなわけです。

 お手元に資料をお配りしている「投資政策枠組み:PFI」は、PFIといっても、皆さんおなじみのPrivate Finance Initiativeではありません。Policy Framework for Investmentであります。これは、一般市民が参加することなしに国造りや成長は実現しないという考え方に基づき、日本がOECDで提案し、日本が作成会議の議長を務めて作成してきたものです。その成果物は、いわば日本の開発理念を投資という切り口から示したものになりました。まさに、投資を開発のエンジンとしてきたという、アジアの経験を世界で共有するものに他なりません。

 このように考えて参りますと、企業の皆さんが現地政府と話をする機会などに、PFIの要素を引用し、投資環境の改善について一緒に考えるというような形で、活用していただけるのではないかと考えています。

 私は、常々、海外で活躍されている日本企業の方々は、我が国を代表して経済外交を担っておられる日本の使節であると感じております。また同時に、進出先の政府や一般市民の方々とともに汗を流し、いわば国造りのために土地を耕しているのだと考えています。

 そうした皆さんには、是非とも、PFIを大地に打ち込むクワとしつつ、その国の人々とともに、豊かな実りを分かち合っていただきたいと思います。

 日本政府としても、そのような日本企業の努力を、幅広い外交活動を通じて、また、OECDのような国際機関の活動を通じて、後押ししてまいりたいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。