[文書名] 『国際連合加盟50周年記念 人間の安全保障国際シンポジウム:紛争後の平和構築における人間の安全保障‐人道支援から開発への移行』における麻生外務大臣による開会の辞
グテーレス国連難民高等弁務官、デルビシュ国連開発計画総裁、緒方国際協力機構理事長、お集まりの皆様、
本日は、御多忙の中、御参加頂きましてありがとうございます。今回のシンポジウムを主催する外務省を代表しまして一言ご挨拶申し上げます。
本年、我が国は国連に加盟して五十周年を迎えます。そうした節目の年であることを踏まえ、本日のシンポジウムは、特に「国際連合加盟五十周年記念」と銘打ちました。今後の日本と国連の関係を考える上でふさわしいテーマとして、「紛争後の平和構築における人間の安全保障」を取り上げることといたしました。
平和構築につきましては、以前行わせていただいた講演の中で、平和構築の担い手を育成するために「寺子屋」を作る構想についてお話しさせていただいたことがあります。本日のシンポジウムは、こうした平和構築の担い手に是非とも持って頂きたい、「人間の安全保障」という理念に光を当てたいと思っております。
紛争が終わったばかりの現場というところにおきましては、国が荒廃し、「国家による安全保障」が十分に機能していない場合がほとんどであります。だからこそ、個々人、そしてコミュニティといった草の根レベルでの保護と能力強化に正面から取り組む、「人間の安全保障」が不可欠ということになります。
平和構築の課題は多岐に亘ります。まずは、和平の促進や、難民また国内避難民などへの人道支援、国内の治安の確保など、紛争再発を防ぐための「平和の定着」への取組などなどが必要です。そして、政治・司法・行政制度の整備や経済インフラの整備、保健医療や教育の改善などを通じ、民主的で自立した「国づくり」を進めていくことになります。このような移行期にこそ、人間を中心に位置づけた「人間の安全保障」、これを現場で具体的に実践していくことが求められるのです。
人間の安全保障は、何も平和構築に限った考え方ではありません。緒方JICA理事長が共同議長を務められた「人間の安全保障委員会」は、「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」をその定義としています。この考え方は、二十一世紀の世界が、直面する様々な課題に対処していく上で、中心に据えるべき包括的な概念であると存じております。
本日パネリストとして御参加頂いているグテーレス難民高等弁務官、デルビシュ総裁、緒方理事長は、現場で人間の安全保障を実践に移していくことの難しさを、まさに現場の実感として持たれているのではないでしょうか。難しいからこそ、政府、国際機関、市民社会等を含む国際社会が一丸となって取り組む必要があります。
緒方理事長は、かつて国連難民高等弁務官としてご活躍された際、民族紛争で疲弊をいたしておりましたルワンダや旧ユーゴスラヴィアにおける平和構築のため、人々の和解と共存を目指すプロジェクトの形成に尽力されました。平和構築を人々の問題としてとらえ、人々の目線に立って支援を行う‐こうした緒方理事長の実践が、今日、各国政府や国際機関の平和構築の取組に多くの指針を与えております。
最後に、日本政府といたしましては、国連加盟五十周年を機に、人間の安全保障の理念を、平和構築を始め、国際社会が直面する諸課題への取組に更に活かしていく決意であることをを申し上げ、本日のシンポジウムの成功を祈念し、開会の挨拶とさせて頂きます。
ご静聴有り難うございました。