[文書名] 第62回国連総会における高村正彦外務大臣一般討論演説
議長、御列席の皆様、
まず、スルジャン・ケリム総会議長の就任を御祝い申し上げます。また、ハヤ・ラシード・アル・ハリーファ前議長の指導力に対して高い敬意を表します。
私は、国連が直面する多くの課題に対処する上で潘基文事務総長が示している献身と指導力を高く評価します。
新たな課題に直面し、国連は、加盟国が国連で意見を交すという姿から、国連自らが行動する姿へと変わる必要があります。21世紀において、能動的な国連が求められているのです。私はこうした変化を実現しようとする事務総長の決意を賞賛します。
このような国際環境の中、我が国が能動的な外交に取り組んできたことは偶然ではありません。私達の姿勢は共鳴し合うものであり、日本と国連は協働することができますし、また協働していかなければならないのです。
本日は、気候変動とアフリカという、日本と国連が最高の協力を行うことができる二つの分野を強調したいと思います。また、国連がこうした課題に効果的に対処するために、国連改革、特に安保理改革が必要であることに触れたいと思います。
議長、
グローバル化の中、国際社会は国境を越える新しい課題に直面しています。特に気候変動は、現在ばかりでなく未来も含めた人類全体の危機に繋がります。今こそ、我々皆が、脆弱な国々へ配慮しつつ、次世代のため行動する時です。国家間の不和や対立を超えて、共通の課題に共に対処するよう転換を図ろうではありませんか。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、地球温暖化は疑いのないものであり、世界の指導者達は、拡大する課題に対処するため、思い切った、新たな政治的決断をする責任を有しています。
このような責任を念頭に、我が国は、今年5月に地球温暖化に関する我が国提案を発表し、革新的技術の開発と低炭素社会の実現に向けた長期的な展望の共有を提案しています。また、すべての主要な温室効果ガス排出国を含む新たな枠組み作りのための中期戦略を提唱しています。2013年以降も途切れなく気候変動に対処していくことが必要であり、私は、事務総長のイニシアティブの下、9月24日に開催されたハイレベル会合において、各国の政治的意志が示されたことを高く評価します。我が国としても、明年のG8北海道洞爺湖サミットを通じて国際的な合意作りに貢献し、その成果を国連プロセスの中に反映させていく考えです。
我が国は、エネルギー効率を改善し、国内総生産が倍増する中でも原油消費量を削減することによって、国際的な競争力を獲得してきました。我々は、環境保全、エネルギー安全保障、経済発展を共存させる鍵となる、我が国の技術と経験を共有する用意があります。
同時に、我々一人ひとりが、理念にとどまることなく、日々の生活を改めなければなりません。我が国は、クール・ビズに加え、各家庭の二酸化炭素排出量の削減を目標とした新たな国民運動を展開しています。また、「もったいない」の精神、「3Rイニシアティブ(Reduce, Reuse, Recycle)」も、このような目的に資するものです。我が国は、生活様式を改めるための運動を、地球規模に拡大していく考えです。このために、我が国政府は、パブリック・フォーラムを通じた、企業、学界、NGO、その他の多様な主体との対話を重視するとともに、国連グローバル・コンパクトとも協力していきます。
議長、
我が国のもう一つの優先分野は、アフリカの開発です。現在、アフリカは全体として前向きな変化を遂げています。これまでの紛争地域の中には、平和が定着しつつある地域もあります。同時に、天然資源の有無にかかわらず、多くの国が力強く成長しています。
アフリカが元気な大陸、希望と機会の大陸となるためには、紛争の予防・解決に加え、三つのことが特に重要です。まず何より、経済成長を加速・維持することが必要です。次に、ミレニアム開発目標の達成、平和の定着や民主的統治を通じて、人間の安全保障を確保しなければなりません。最後に、環境や気候変動問題への対処も必要です。
我が国は、第4回アフリカ開発会議(TICADIV)を来年5月に横浜で開催します。1993年に初めて開催されたTICADは、誰に対しても開かれたプロセスです。そして特に、アフリカ諸国のオーナーシップと国際社会との真のパートナーシップを重視しています。TICADIVでは、先に述べた三つの分野が議論の焦点となり、アフリカの開発のために、国際社会の知見や資源を結集する新たな機会となるでしょう。そして、アジアとアフリカの南南協力は、TICADプロセスの重要な特徴であり続けるでしょう。
アフリカの平和なくして、世界の平和と繁栄はあり得ません。我が国はダルフール情勢を看過することはできません。世界最悪の人道危機を前に、我が国は約8,500万ドルの支援を実施してきました。また、我が国は、国連・AU合同ミッション(UNAMID)の設立を歓迎すると共に、同ミッションの早期展開、ダルフールにおける政治プロセスの早期進展を期待しています。我が国は、アフリカにおける平和と安定の定着に向けた貢献を一層拡充していきます。
議長、
平和は開発や人間の安全保障への道を開きます。しかし、平和は簡単に実現できるものではありません。イラクを例に挙げれば、同国は治安改善や国民融和のために奮闘しておりますが、平和の基盤が脆弱です。我が国は、自衛隊の派遣や最大50億ドルのODAによる支援を通じ、イラクの人々の復興努力を支援しています。
アフガニスタンの復興支援についても、我が国は、アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)と緊密に協力して、武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)や非合法武装集団の解体(DIAG)などの分野でこれまで主導的な役割を果たしてきました。アフガニスタン復興に貢献するため、本年6月には、国連と協力してDIAG会議を東京にて開催しました。
平和構築のためには、紛争終結から復興支援に至る役割を果たすため、国際社会が切れ目のない包括的な取り組みを行うことが不可欠です。我が国は、平和構築委員会の議長国として、このような国際努力に一層貢献していく決意です。そのための具体的な取り組みの一つとして、現場の様々なニーズに対応できるアジアの文民専門家を育成するために、我が国は「広島平和構築人材育成センター」を立ち上げたところです。
自由で公正な選挙及び民主主義も、平和の定着を図る上で不可欠です。我が国は、民主化を推進するための支援を惜しみません。我が国は、東ティモールやシエラレオネなど多くの国々に対して選挙監視団を派遣している他、ネパールに対しても、選挙関連の支援を実施すると共に軍事監視要員を派遣しています。
ミャンマーにおけるデモへの取締りにおいて日本人一名を含む死傷者が発生した事態は極めて遺憾です我が国は、ミャンマー政府が最大限の自制を示し、強圧的な実力行使をしないよう求め、対話を通じて事態を解決することを強く求めます。
民主主義と並んで、法の支配は平和と繁栄の基礎となります。国際社会における法の支配を推進するため、我が国は来月国際刑事裁判所(ICC)に加盟すると共に、開発途上国での法制度整備支援を行っていきます。
国連の下での規範設定を主体的に進めるため、我が国は、本年2月に強制失踪条約に署名し、また本日、私は障害者権利条約に署名しました。
議長、
我が国がこうした取り組みを進める背景には、自由や人権、民主主義、法の支配といった基本的理念に基づき、国際的な課題に対処すべきという信念があります。
特に、人間の尊厳はその根幹をなすものです。北朝鮮による拉致問題は、人間の尊厳に対する重大な挑戦です。拉致被害者とその家族が再会し、幸せを味わえるよう、国際社会が拉致問題の一刻も早い解決を求める力強いメッセージを発出することが不可欠です。我が国は、日朝平壌宣言に則った対話を通じて、拉致問題の解決と共に「不幸な過去」の清算にも取り組む考えです。また、人権状況の改善を期待し、今次国連総会での「北朝鮮の人権状況決議」の採択を目指します。
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散も、人類が一致して注意を払う必要のある課題です。このような観点から、我が国は、安保理が北朝鮮やイランに関する一連の諸決議を全会一致で採択したことを歓迎します。今後、関連決議の完全な履行を通じて、国際社会の意思を具体的行動に移していくことが、我々すべての責任です。我が国は、六者会合を通じて朝鮮半島の非核化を実現すべく引き続き努力していきます。また、イランが国際社会の一致した声に耳を傾け、濃縮関連活動を停止するよう引き続き求めていく考えです。
核軍縮へもたゆまぬ注意を払うことが必要です。私は、唯一の被爆国として核軍縮に向けた国際的な取り組みを強化するという我が国の決意を、ここに改めて表明します。我が国は、核兵器の全面的廃絶に向けて具体的な措置を打ち出した核廃絶決議案を、本年も国連総会へ提出します。
テロの問題は一層複雑化しており、息の長い取り組みが求められています。この関連で、安保理決議第1776号が採択されたことを歓迎します。我が国との関係では、責任ある国際社会の一員として、引き続きインド洋における補給支援活動の継続が可能となるよう努力していく考えです。また、我が国は、国連グローバル・テロ対策戦略を支持します。更に、テロに対処する法的枠組み強化のため、包括テロ防止条約交渉の早期妥結に向けて、各国が最大限の柔軟性を示すことを期待します。
議長、
国際の平和と安全に対する多様な脅威に直面し、安保理は、以前にも増して重要な役割を果たすようになっています。安保理がその期待される責務を果たせるよう、我々は安保理の代表性を高め、より効果的なものとすることが必要です。
そのため、私は、常任・非常任双方の議席の拡大を通じて安保理の早期改革を目指す我が国の決意を新たにします。
安保理改革なくして国連改革が成就することはあり得ません。第62回会期においても、アル・ハリーファ前総会議長が築いた改革の機運を強化していく必要があります。今会期中に、政府間交渉を通じ、具体的な成果を達成できるよう、すべての加盟国が協働しなければなりません。
議長、
今必要なのは、変化を待ち続けることではなく、変化を起こすことです。国連に何を期待するかではなく、我々が国連をどのように活性化していくか、が問題なのです。
新しい課題に対処するための国連の機能強化を実現していくことが必要です。先に述べた安保理改革に加え、国際の平和及び安全の維持に関する国連の機能強化に向け、我が国は積極的に関与していきます。また、我が国は開発、人道支援、環境、そして人権の分野において、国連システムがより一貫性を持って、実効的に機能できるようにするための取り組みを支持します。同時に、国連マネジメント改革の側面でも、具体的な成果を上げることが必要です。
この関連で、2005年に世界の指導者達が長期に亘り死文化している「敵国」条項を国連憲章からできるだけ早期に削除することを決意し、新たな一歩を踏み出したことを想起したいと思います。
来年は、日本が国際的な取り組みの表舞台となります。横浜におけるTICADIV、洞爺湖におけるG8サミットを通じて、喫緊の国際的な課題に立ち向かうための指針を示し、1年後のニューヨークに確かな実績を持ち帰りたいと思います。世界をより良くするために国連と緊密に協力するという我が国の揺るぎない心構えを改めて確認し、演説の結びとさせて頂きます。
ご静聴ありがとうございました。