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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第15回南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議 高村正彦外務大臣メッセージ

[場所] コロンボ(スリランカ)
[年月日] 2008年8月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 15回目を数えますSAARCの首脳会議が、ラージャパクサ議長のご指導、スリランカ政府による準備のよろしきを得、開催の運びに至りましたことをお慶び申し上げます。

 南アジアは豊穣なる可能性を秘めており、その潜在力を開花させるため「コネクティビティ」が必要です。同時に、可能性の実現を阻む障害もあります。実はこれらの点はすべて、皆様方がお互い議論を尽くされ、納得をしておいでのことばかりであります。

 一つの証拠は皆様自身、SAARCが「宣言する段階」を越え、「履行のステージ」に入ったと言っておられるということです。近しい友人の言葉としてお聞きいただければと思いますが、わたくしは、ただいまSAARCに必要なことは皆様自身、何か事業を一緒にしてみることであろう、それによって、成功体験を共有することであろうと、強く思います。

 皆様がもっておいでの可能性として最も豊かなるものとは、同時に今後皆様が成長していくうえで、いちばん大切になってくるものであります。今回の首脳会議でも議論されると伺っておりますが、それはエネルギー、とりわけ電力資源の開発と、その協力の可能性にほかなりません。

 世界の屋根と称される峨々(がが)たる山系をもつ南アジアですから、水力を使った発電に、稀に見る潜在能力があるのはもっともであります。現状に比べ、約6倍の電力を生み出す余地が水力にはあるのだと伺いました。加えて天然ガスも、近年いよいよ注目を集めていると承知しております。

 資源に乏しい国から見ますと、南アジアの潜在力には、実に羨望の念を禁じ得ないものがあります。これを開花させますとどれほど皆様の暮らしが向上するか、皆様とて想像なさらないはずはありません。

 しかも事は、とみに緊急の度を増しているように思えます。一つには南アジアで進みつつある人口の膨張、とりわけ都市人口の爆発によって、また一つには、世界的なエネルギー市況の高騰によって、南アジアが豊かに有する電力資源の活用は、いましも焦眉の急と言えるのでありますし、逆に申せば、歴史に稀な、開発の好機を迎えたとも言えるわけであります。

 今こそ、いわゆる「コネクティビティ」を強くしていくべき時であります。けだし電力という資源ほど、コネクティビティいかんによって、すなわちネットワークの粗、あるいは密の度合いによって、利用の効率が高くも、また著しく低くもなる資源はないわけであります。

 ここにおいてコネクティビティを阻む障害とは、雲を突く山脈(やまなみ)にあるのでなければ、千尋の谷にあるのでもありません。皆様自身のご議論にしたがいますならば、皆様の心のうち、その「マインドセット」にこそあるのであります。SAARCをしてこの障害を少しでも低くすることができますなら、果実は電力、資源の協力に留まりません。地域協力全体を推し進め、南アジアがもつ偉大な潜在力を真に解き放っていくうえで、大いに資するであろうと存じますし、またそれが日本とSAARCとの経済関係を強化させることにも繋がるものと信じております。

 幸いにしていま南アジアには、おのおのの国、地域を安定に導く流れが生まれ、その流れはやがて合流し、一本の大河になろうとしているのだとはいえないでしょうか。

 例えば本年に入ってからだけでも、ブータン、パキスタン、ネパールが選挙を経験し、民主的統治に成熟を与えつつあるではありませんか。ちなみにこの3カ国すべてに対しまして、我が国は選挙監視団を派遣しました。ネパールでは、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)に軍事監視要員を送っています。カトマンズには先月宇野治大臣政務官を派遣し、国造りを支援する日本政府の方針を直かにお伝えしたばかりであります。

 モルディブやバングラデシュも近々選挙を実施しますが、民主主義の定着に向けた努力を後押しすべく、我が国としてこの両国に支援を惜しむものではありません。バングラデシュに対するこの方針は、イフテカル・アーメド・チョードリー外務担当顧問に去る2月、日本へおいでいただきました際、わたくしから直接申し上げたところでもありました。

 我が国は「平和協力国家」として、世界で平和の作り手になることを国是にしつつ歩んでおります。わたくし自身、去る5月にパキスタンとアフガニスタンを訪問し、両国を可能な限り支援することをお伝えしました。また我が国が主催したG8北海道洞爺湖サミットやG8京都外相会合でも、G8としてアフガニスタンとパキスタンの支援に力を注いでいく方針を打ち出しました。当地、スリランカでは、恒久的平和の実現に向けた努力が一歩ずつ進んでおります。これを大いに支えていくというのが、今までと同様、日本政府の変わらぬ方針であります。

 わたくしは隣人として、南アジアにぜひとも安定を勝ち得ていただきたいと祈念するものであります。これを目的として歩んでいく行路において、インドが果たす役割の大きさはあえて多言を要しません。日本として、インドと協力する大切さもまたしかりであります。平和の構築と、その定着、そして政治社会の安定を得たうえですと、コネクティビティの強化にも弾みがつくに違いあるまいと思います。しかも事柄は、安定を目指す営みがコネクティビティを強くし、コネクティビティの強化を図る努力が平和の構築と定着、地域の安定をもたらすというように、互いに因となり、果となりあう相乗効果をもつのだといえるのではないでしょうか。

 でありますからこそ、コネクティビティを高めていく一歩を、どんな小さなものであれ、始めてご覧になることが無駄になるまいと思うのであります。

 我が国は、去る6月にイスラマバードにおいて、「エネルギーと域内連結性」をテーマとするシンポジウムを開きました。この日・SAARCシンポジウムでは、今後わたくしたちが取り組むべき優先課題につき貴重な提言がまとまりました。けれども参加者から聞き及びますところ、シンポジウムはかえって域内対話の必要性を一層浮き彫りにしたとのことであります。ならばこそ、我が国は、今後もSAARC各国をはじめ皆様の参加を得ながら、このようなシンポジウムを継続し、域内の対話を促していきたいと考えています。

 加えてわたくしは、専門家、大学院生から大学生、高校生に至る全レベルにまたがって、日本とSAARCの間に人と人の交流を進めていきたいと考えております。

 ただいま我が国は、南アジアの各国から資源・エネルギー分野の専門家、水利や防災のエンジニアをほぼ例年、20ないし30名、日本にご招待しております。このような取り組みを今後さらに強化してまいりますし、南アジアで日本語の普及に努めてくださっている教師の方々や、日本語を学ぶ意欲に溢れる方も、70名ほど日本に御招待し、更なる研鑽を積んで頂きたいと思っています。

 同じように深めてまいりたいのが、高等教育分野における日本とSAARCの知的交流であります。本年度からは、SAARC諸国の理工系大学院生を計30名程度日本にお呼びする事業も始めます。2週間の滞日期間中、各地の研究機関を訪問してもらい、日本側研究者と交流してもらうためであります。また、本年度はSAARC諸国から計80名ほどの大学生・大学院生にお越しいただき、日本国内の大学や企業でインターンをしてもらうつもりでおります。

 未来のSAARC指導者たちにも、日本政府は「投資」をしたいと思っています。それが、SAARCの高校生たちをお呼びする事業です。昨年度は40人の高校生諸君に来てもらいました。今年はSAARC各国からそれぞれ10人、計80人の高校生に来てもらう予定です。2週間、日本各地の一般家庭に泊まったり、同世代の高校生と交流したりしていただくことになっています。

 わたくしは、このようにしてお呼びしているSAARC諸国からの参加者に、「ひとつのクラスを共にした」という「アラムナイ(同窓)意識」をもっていただけることを主たる目的として掲げながら、これらの招聘プログラムに工夫を重ねていきます。資源・エネルギー分野の専門家をお呼びした場合、SAARCの専門家同士に濃密な議論、豊かな経験ができるよう、意を砕いてまいります。

 日本を、SAARCの皆さんにとってひとつの有意義な場にして欲しいのであります。SAARCの実務家たち、科学者とその候補者たち、さらには20年先のSAARCのリーダーたちにとって、幾多の発見や驚き、喜びや、時には苦労を共にすることのできる場とすることであります。何よりも、自由で闊達な議論を一緒にしていただくことによって、お互い同士をより一層理解し、長く続く友情を培っていただく場とすることであります。それによって、皆様のうちにあるといわれる心の壁が少しでも低くなり、南アジアの豊穣な可能性にふさわしいマインドセットが生まれていくきっかけができますなら、日本として幸いこれに過ぐるものはありません。

 最後に、SAARCはいよいよ物事を実行していく段階に入ったのであると、皆様自身おっしゃっておいでです。今を去る15年前、1993年に、我が国は「日本・SAARC特別基金」を設けました。それ以来、SAARC発展の一助となるのを一心に目掛けてきたわたくしども日本人にとって、これほど勇気づけられることはありません。

 日本は、地域の成長を目指して歩む皆様の営みにおきまして、これからも変わらず頼ってもらえる国でありたいものだと願っております。