データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] MDGsハイレベル会合・分科会1「貧困と飢餓」‐中曽根弘文外務大臣ステートメント‐

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2008年9月25日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

議長、御列席の皆様、

はじめに

 外務大臣に就任後直ちに、国連で日本を代表して発言の機会を得たことを嬉しく思います。MDGsの達成という地球規模の課題について、日本は持てる力を発揮して、真剣に取り組む決意であることを、先ずは申し上げます。

「貧困」との闘い:現状と課題

議長、

 貧困は、開発途上国における保健や教育の劣悪な状況の原因であり、またその結果でもあります。この分科会のテーマであるMDG1「貧困撲滅」とは、単に8つの目標の一つであるに留まらず、MDGs全体を包含する広範な目標です。

 本年の「MDGs報告書」によれば、極度の貧困を2015年までに半減させるという目標は、我々の手の届く範囲にあります。しかし、問題もあります。世界全体の統計が改善する一方で、サブサハラ・アフリカの貧困者数は実は増えています。食料価格高騰の影響は、1億人もの人々を更に困窮に追いやっています。紛争や弱いガバナンスが、経済成長を実現しそれを維持しようとする人々の手を縛る事態を、我々は目の当たりにしています。

 これまでの取組から教訓を得て、前に進むべきです。MDGsは、貧困削減への「道標」を提供してはくれますが、2009年以降にそこに到達する方法を見出すのは、あくまでも我々です。

貧困と飢餓の循環を打ち破るための視点

議長、

 本年、第四回アフリカ開発会議(TICAD IV)及びG8北海道洞爺湖サミットにおいて、我が国は国際社会の叡智を結集しつつ開発戦略の設定を主導しました。その中で、貧困と飢餓の循環を打ち破るための拠り所として一貫して重視してきたのは、次の2点です。

 まず、脅威に晒されている人間ひとりひとりに着目し、保護と能力強化をもって人間それぞれの持つ豊かな可能性を実現しようとする「人間の安全保障」の理念です。そこから導かれるのは、保健、水、教育、ジェンダーといった開発の各分野間の相乗効果を図る「マルチセクトラル」なアプローチ。そして、途上国からドナー、新興経済国、国際機関、民間財団、企業、学界に至るまで幅広い関係者の力を結集する「全員参加型」のアプローチです。

 また、途上国のオーナーシップに裏打ちされた持続的な経済成長が、「底辺の10億人」を底辺から救い出すのに重要な役割を果たしていることは言うまでもありません。

 「人間の安全保障」と「成長」に通底するのは、人々が自らの手で思うまま未来を切り開くことを可能にすべしとの確信です。国際社会は、これらの考え方に基づいて、一致協力して開発課題に取り組むべきです。

2008年以降を見据えて:日本の取組

議長、

 我が国は、本日のハイレベル会合に臨むにあたり、TICAD IV及びG8サミットを通じ、既に様々なイニシアチブを打ち出したところです。幾つかご紹介します。

 MDGsへの歩みが遅いサブサハラ地域を抱えながら希望と機会の地として潜在力を発揮しつつあるアフリカ大陸を支援すべく、我が国が2012年までの対アフリカODAの倍増を表明したことを、この場の多くの方は覚えておられるでしょう。

 昨今の食料価格高騰への対応としては、本年1月以降、約3億ドルの緊急支援を表明し、着実に実施しており、更なる取組を検討していきます。より長期的には、農業生産の向上を目指し、アフリカにおける農業指導員5万人の育成や、今後10年間でのアフリカのコメ生産量倍増に取り組みます。

 貧困削減には多面的な努力が必要であり、日本はまさに、保健、教育、水・衛生に包括的に取り組む考えです。既に、我が国は、アフリカにおける10万人の保健人材育成と、世界エイズ・結核・マラリア対策基金に対する当面5.6億ドルの拠出を表明しています。また、30万人の理数科教員能力向上にコミットし、うち3分の1はアフリカ向けです。また、アフリカにおける学校1000校の建設や650万人への安全な飲料水の提供を表明しています。

結語

議長、

 今日一日を生き延びるだけではなく、次の世代に渡せるような希望に満ちた世界を創ることが、国際社会共通の願いです。2015年までのMDGs達成は、難しくはありますが、達成可能な課題です。我が国としては、自らの約束を着実に実行しつつ、応分の役割を果たしてしていく考えです。

 ご清聴ありがとうございました。