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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD閣僚級フォローアップ会合 全体会合(「横浜行動計画の進捗状況と将来の課題」)における中曽根大臣スピーチ

[場所] 東京
[年月日] 2009年3月21日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

閣下

代表団の皆様

並びにご列席の皆様

(冒頭)

 TICAD IVを開催し、「横浜宣言」と「横浜行動計画」を発表したのは昨年の5月でした。その数カ月後、世界は100年に1度と言われる金融・経済危機に見舞われました。今、国際社会はこの危機を克服しようと必死の努力を行っています。翌々週には、2回目の首脳会合がロンドンで開催されます。折しも、我々は、ここハボロネに参集し、TICAD IVのフォローアップを行おうとしています。

 本日、私は、まず共同議長の1人として、これまでの「横浜行動計画」の履行状況を総括させて頂こうと思います。その上で、この危機の中、TICADの精神を共有するアフリカ諸国と開発のパートナー達は今後如何に協力を進めていくべきかについて私の考えをお話ししたいと思います。

(世界金融・経済危機のアフリカへの影響)

 世界的金融・経済危機がアフリカに与えるインパクトについて、今、最も危惧されているのは、アフリカがこの危機の深刻な影響を受け、近年目覚ましい成長を遂げてきた経済が減速し、MDGsの達成が大きく後退する恐れがあるということです。

これは、開発パートナーとアフリカ諸国のこれまでの努力が水泡に帰すことを意味し、何としても避けなければなりません。

(「横浜行動計画」の履行状況)

 皆様のお手元の「年次進捗報告書2008」は、TICAD IV開催時から約9か月にわたる「横浜行動計画」の履行状況をまとめたものです。

 金融・経済危機が開発パートナー国の経済を大きく揺るがしているにもかかわらず、多くの分野で進捗が見られました。私は、フォローアップの初年度として大変良いスタートを切っていると確信したところです。

(成長の加速化)

 まず、TICAD IVの1本目の柱である成長の加速化の分野について申し上げます。

 第一に、アフリカとの貿易・投資を促進するため、のべ180名の企業・政府関係者からなるミッションがアフリカ12カ国を訪問し、採るべき措置についての提言を含む報告書をまとめました。日本政府は更に6カ国を招待して東京でシンポジウムを開催しています。

 これに加え、本年、さらなるミッションの派遣を企画しています。また、観光分野については、アフリカ・アジア・ビジネス・フォーラムの枠組みで、本年6月にウガンダにおいてセミナーの開催が予定されています。

 第二に、2012年までの対アフリカ向け民間投資倍増のため、TICAD IVで約束された総額25億ドル規模の金融支援に関してですが、JBICは、日系企業の投資促進等のため、既に計7.4億ドルを承諾しました。

 第三に、3億ドルの円借款をアフリカ開発銀行に供与済みであり、資金難に直面しているアフリカの民間セクターが活用可能なファシリティとなっています。

 第四に、サブサハラ・アフリカ貧困層の70%が農業に依存して生活しています。農業の振興に一役担うコメの生産高の10年倍増を目指す「アフリカ稲作振興のための共同体」が既に着実な活動を開始しています。

 第五に、広域運輸及び電力インフラの整備においては、例えば我が国が5年間の無償資金協力・技術協力として表明した支援額のうち、既に約36%に相当する額につきコミットメントが行われています。

(MDGsの達成や平和の定着)

 次に、2本目の柱であるMDGsの達成や3本目の柱である平和の定着の分野について申し上げます。これら人間の安全保障の確立のために極めて重要な目標を後押しするため、多くのプロジェクトが始動しています。詳細はここでは触れませんが、25ページに及ぶ進捗状況リストの約半分がこの2つの分野での進捗によって占められています。

(環境・気候変動問題への対処)

 続いて、4本目の柱である環境・気候変動分野での進捗として、クールアース・パートナーシップを挙げたいと思います。これは、排出削減と経済成長を両立させ、気候の安定化に貢献しようとする途上国を支援する我が国のイニシアティブです。アフリカの半数以上にあたる27か国がパートナーとなったことを嬉しく思います。

(パートナーシップの拡大)

 TICADプロセスにおいては、南南協力、特にアジア・アフリカ協力の推進を強化することが重視されています。この9カ月の間にアフリカ諸国と新興ドナーとの協力、市民社会、民間セクターとの連携等、新たなパートナーシップの拡大に向けた取組がなされています。今回の会合で日本とアフリカの民間セクター及びNGOの代表に発言者として参加して頂いているのもその証左です。

ご列席の皆様

(今後の日本の支援)

 こうして見てみますと、「横浜行動計画」は、もともと「元気なアフリカを目指して」策定されたものですから、世界的金融・経済危機という新しい局面にあっても、有効な処方箋を提供してくれていることに改めて気づかされます。

 TICAD IVで、我が国は、2012年までにアフリカ向けODAを倍増すること、また、民間投資を倍増すべく支援することを表明しました。

 アフリカの同僚の皆様の中には、日本も危機の打撃を受け、この公約が守られるのだろうかと心配されている方もおいでかもしれません。しかし、私は、この場で改めて、我が国がTICAD IVの約束を必ず実施するとの決意を表明します。特に、5年間で最大40億ドルの円借款を実施することを改めて確認します。

 昨年秋以降の世界的な金融・経済危機の影響は少なくとも今後2年間はアフリカ諸国にも及ぶと思われます。このことを考慮して、上述の円借款を機動的に活用するとともに、無償資金・技術協力についても、我が国の約束を着実に実施すべく当面20億ドルの支援をできる限り早期に実施することを目指します。

 これにより、インフラ整備、人材育成、農業といった分野で、経済成長をより強力に促進します。また、MDGsの達成に向けて、コミュニティ開発、教育、保健、水・衛生等といった分野におけるアフリカ諸国の取組をより強く後押しするとともに、持続可能な成長の実現のため、環境分野の支援をより一層拡充・強化していきます。

 我が国は、こうした支援策の具体化・実施に向け、本年前半までに100件を超える協力準備調査を集中的に実施する予定です。

ご列席の皆様

 我が国は、金融・経済危機がアフリカに与える影響に、より直接的に対処する支援も行っていきます。

 例えば、この3月、我が国は、約3億ドルの食料・人道支援などをアフリカに対して実施することとしました。今後、この危機が広がる中で、最も深刻な影響を受けるのは社会的弱者であるからです。また、感染症対策として、アフリカが大きく裨益する世界エイズ・結核・マラリア対策基金に対し、来週約2億ドルを拠出します。

 さらに、我が国は、IMFに対する最大1000億ドル相当の融資や30億ドル規模の「途上国銀行資本増強ファンド」等の施策を打ち出しており、アフリカ諸国もこれを活用することができます。また、アフリカの金融システム等を強化するため、金融分野での人材育成支援も実施します。

ご列席の皆様

(アフリカ、他のドナーの役割)

 ここまで、日本がどうする用意があるかを述べてきました。しかしながら、TICADは、開発パートナーが一方的にコミットメントを表明する会議ではありません。アフリカ自らの「オーナーシップ(自助努力)」を国際社会がパートナーとして支援する、これがTICADプロセスの理念であり、今や国際社会共通の理念です。

 TICAD IVの約束を効率的かつ効果的に実施するためには、アフリカ諸国の迅速かつ緊密な協力が必須です。今後、金融・経済危機の影響として、財政収入、外国直接投資、民間資本流入、海外送金はいずれも減少することが懸念されています。これらを減らさないため、また、開発資金を最も効果的に活用するためには、アフリカの同僚の皆様方ご自身の努力が不可欠なことは言をまちません。

 私は、すべてのアフリカ諸国が、自国の開発政策を力強く推進するための優先的資源配分、成長に資する優良案件の形成等、とるべき措置を率先してとり、「オーナーシップ」を最大限に発揮されることを強く期待します。

 また、他の開発パートナー国、機関については、アフリカへの援助を縮小することなく、我が国と同じ決意でもって、これまで以上に積極的に取り組むべき、と声を大にして呼びかけたいと思います。

ご列席の皆様

(ロンドン・サミットに向けて)

 我々は、これから2日間にわたって行われる議論を踏まえ、ロンドン・サミットへのメッセージを発出したいと思います。麻生総理は、このメッセージを携え、サミットに臨み、アフリカの代表者とともに、「アフリカの声」を首脳間の議論に反映させたいとの意向です。

 これから行われる会合において、有益かつ建設的な議論が展開され、力強いメッセージが発出されることを心より期待し、私の演説を終えさせていただきます。

 ご清聴有り難うございました。