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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岡田外務大臣APECシンポジウム開会式挨拶

[場所] 東京
[年月日] 2009年12月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

お早うございます。海外からお越しの皆様にはようこそ東京へお越しくださいました。本日のAPECシンポジウムをもって、2010日本APECが事実上キックオフ致します。その重要な機会にまさにご挨拶をする機会を得たことを大変うれしく考えております。

2010年に日本がAPEC議長を務めていくことを踏まえ、私は今、外務大臣として、アジア太平洋地域の連携の強化と一層の連帯感の醸成のため、APECをより一層有効な場とするために何ができるのか、創造的に思考し、またいろいろな方々と本格的に議論を開始しているところです。

APECが誕生してから20年が経過しました。その間、世界情勢・国際経済情勢は、APECが設立当初の想定を超える変化を遂げました。グローバル化や相互依存関係の飛躍的進展、更にこうした状況が各国の経済社会、そして人々に重大な影響を及ぼしうることが顕著になりました。もはや一国のみで自分の運命をコントロールすることが出来ないことは明らかです。APECがこうした21世紀の課題に取り組むことができる枠組になれるよう、その意味を再構築することが今求められているのではないでしょうか。

私の座右の銘は「大器晩成」です。人間で言えば、APECという組織は成人を越えました。来年はボゴール目標の評価の機会となり、大きな節目となります。これまでの土台に立ち、21世紀のアジア太平洋地域の繁栄にとって真に意味のある存在としてAPECが潜在力の花を開かせていくためには、一度しっかりと立ち止まってこれまでの歩みを振り返ることも必要でしょう。

我が国が2010年APECのテーマとして掲げているのは「チェンジ・アンド・アクション」です。すなわち、APECが今後も重要な役割を果たし続けることができるよう、必要な「チェンジ」を構想し、それを具体的な「アクション」に移したいという発想です。

当然、「チェンジ」を掲げても、これまでのAPECの実績や成果を否定するものではありません。シンガポールAPECにおいて深められた議論をしっかりと継承し、更に羽ばたかせていきたいと考えます。また、「自由で開かれた貿易・投資」というAPECの中核的アジェンダを推進するための羅針盤のような役割を果たしてきた、ボゴール目標ですが、2010年に先進エコノミーが目標達成年を迎えます。今後のAPECの姿を考える上で、まずは透明性と信頼性を確保してこのプロセスを進めることが議長である日本の使命です。ボゴール目標の下、先進エコノミーとしてどこまで達成できたかを評価するだけでなく、何が足りなかったかについても検討しながら、次の目標に向けて議論していきたいと考えます。改めて、ボゴール目標策定に指導力を発揮したインドネシアの先見性を評価するとともに、こうした土台に乗って、APECの進むべき道を更に明らかにしていきたいと思います。

更に、ダイナミックに成長を続けるアジア太平洋地域のエネルギーを如何に持続させ、それを地域全体として如何に取り込み、またどう解き放っていくか、地域全体の中長期的な成長戦略策定を念頭に、道筋について議論を深めていきたいと考えます。

地域経済統合に関しては、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の交渉開始について強く提言されています。FTAAPの具体化を考えるに当たっては、アジア太平洋地域において様々な形で展開する経済連携を視野に入れ、それらをどう束ねていくかも考えなくてはなりません。日本APECでは、APECワイドのFTAにつながるような共通認識の醸成が必要との声に耳を傾け、シンガポール首脳会議で指示された「あり得べき道筋の探求」を具体化すべく、議長として議論を指導していきたいと考えます。また、先般、オバマ大統領が訪日時に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への「関与」を発表したことを歓迎します。TPPはAPECの経済連携と密接に関連する構想であり、日本もこれに高い関心を持ち、今後の関与のあり方を検討していきたいと考えます。

また、人間及びその共同体の尊厳を保ちながら、アジア太平洋が安心してビジネスに取り組める地域であるとのメッセージを発信していくこともきわめて重要です。食料安全保障や防災、保健などの分野で、人間の安全保障の取組を一つでも多く具体化していきたいと考えます。さらに、地域のより衡平な発展を図るため、経済・技術協力を深める必要があると思います。

「変化」のための「変化」、あるいは「行動」のための「行動」になってはなりません。しかし、多少思い切った形でAPECの改革について議論してみてはどうでしょうか。そして、重複を避け、一層効率的に活動し、わかりやすい成果を目指すことも重要です。

私は、先日シンガポールで開かれたAPEC閣僚会議に出席し、APECが直面している課題にどのように対処していくのかについて、次の議長としての日本に対する強い期待を感じました。シンガポールの成果の上に立ち、更にその次の議長である米国にうまくバトンを引き継いでいけるよう自分としても汗をかいていく所存です。

今日と明日の2日間にわたり開催される今回のシンポジウムは、ビジネス界、学界など幅広い層の方々にお集まりいただきました。アジア太平洋の未来像という大きな方向性から明日の生活に役立つ具体的成果を目指して、自由闊達にAPECの今後について議論する機会となると信じます。来年を「チェンジ・アンド・アクション」というテーマに沿った議論を進めていこうとする日本APECにとって、きわめて意義深いイベントと位置づけられます。

今回のシンポジウムが、日本APECのみならずアジア太平洋の明るい未来にとって、意義深い船出の出発点となることを期待します。年が明けてから「APEC号」の舵取りを担っていく一員として、何よりもこの雄大なる船旅を楽しみながら、幅広い層の方々の知見や協力を得てAPECが進むべき航路図を描き、有意義な一年となるよう努力していく所存です。

最後に、今回の訪日が、皆さんにとって充実した滞在となることも祈念しながら、開会の挨拶とさせていただきます。