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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] MDGsに関するアジア諸国閣僚級非公式会合 前原外務大臣発言

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2010年9月21日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 経済成長を通じたMDGsの前進はアジアの成功経験である一方,格差是正が今後の課題です。MDGsをマクロで達成しても,最脆弱層が取り残されるような社会は公正感を欠き,安定し得ません。日本を含む国際社会が提供する支援を,途上国が社会的公正と安定のために活用することが真のMDGs達成に不可欠です。

 こうした考え方を踏まえ,アジア諸国からのメッセージとして,マクロとミクロの視点をバランスよく持つことの重要性を強調すべきであると考えます。

 まず,MDGs達成に向けては,国レベルでの経済成長を追求するマクロの視点が重要です。アジア諸国の経験は,経済成長こそがMDGs達成に大きく貢献することを示しています。日本は,アジア諸国の経験も踏まえつつ,経済成長の促進に資する支援を一貫して実施してまいりました。

 例えば日本は,ADBとの協調融資を通じ,経済成長にとり不可欠なインフラの整備をアジア各国において支援してきました。また,金融・経済危機に際しては,2009年4月のロンドン・サミットにおいて最大2兆円の対アジア貢献策を発表し,アジア各国の成長力強化を支援しました。

 また,アジアの経験は,格差是正のために人間一人ひとりに着目するミクロの視点を併せ持つことの重要性を示しています。アジアに暮らすすべての人々が,経済成長の恩恵を十分に受けてきたわけではありません。都市と地方の差,収入の差,教育水準の差などにより,同じ国に生まれたとしても人々の暮らしには格差が生じています。

 このような格差を是正することは,社会的公正と安定を実現し,MDGs達成を容易にするために,重要な課題です。

 日本は,1997年のアジア通貨危機に際し,アジア諸国で社会的弱者の問題が顕在化したことなどをきっかけに,人間一人ひとりに光を当てる人間の安全保障の視点を重視するようになりました。

 このような考え方の下,日本はアジア諸国での格差是正に向けた努力を支援しています。例えば,2009年からベトナムの貧困地域において,各家庭に電気や水が行き渡るような支援を行い,成果を上げているところです。

 アジア地域の中にも,南アジアなど,MDGs達成に向けた進展が遅れている国々があります。我々は,アジアの連帯の中で協力を進め,地域全体におけるMDGs達成を目指していきましょう。また,我々の経験と教訓を世界の他の地域にも活かし,世界全体でさらにMDGsを進める努力に,各国・各機関が連携して参加していくことが重要と考えます。