[文書名] 前原外務大臣生物多様性ハイレベル会合 開会式演説
議長、
御列席の皆様、
本日はこの重要な会合の開催にあたり、ダイス議長のリーダーシップに深く敬意を表します。40億年の生命の歴史の中で、かつてない急速なスピードで地球上の生物が絶滅し、生物の多様性が失われています。
日本列島の約3分の1に当たる面積の森林が毎年地球上から消失するなど、このままのペースで生態系の破壊が進行してしまえば、近い将来に人類は、現在享受している自然の恵みの多くを永遠に失う恐れがあります。そうなれば将来世代にそれを引き継ぐこともできません。
国際生物多様性年の今年、私たちは、このような生物多様性の消失が、他でもない人間活動によって引き起こされたものであると理解すべきでしょう。そして、この損失を止めるべく新たな行動を開始し、また私たちの行動を変えることが求められていると自覚すべきです。
議長、
本年10月、日本は愛知県名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を開催し、この新たな行動の開始に世界全体で合意することを目指します。
同会議では、各国が国家戦略を策定するための指針として、2020年、2050年までの世界共通の目標を設定することが課題です。将来の世代が自然の恵みを受け継ぐには、向こう10年間の集約的な行動を具体的に示すことが重要です。
また、遺伝資源の利用と利益配分、遺伝子組換え生物の分野で、新たな国際ルールの合意に向けて交渉します。特に,前者の交渉は、遺伝資源を利用する側と提供する側で異なる利害はありますが、新たなルールに合意されれば、生物生息域の保全に向けた資金の流れが円滑化され、地球全体の利益に資する画期的な合意となります。
この会議での合意に向けて、日本は議長国として最大限の努力をしますが、全ての締約国の支持を求めます。
議長、
日本は、世界全体での取組に向けて、日本独自のイニシアティブで貢献を果たします。
まず、本国連総会で「国連生物多様性の10年」の決議採択を提唱します。これは,向こう10年間の集中的な行動を生物多様性条約の枠組にとどまらず、国連システム全体で進めることを求めるものです。
同じく本総会では、「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の議決を目指します。このプラットフォームが設立されれば、生物多様性の保全に向けた政策に科学的な根拠が与えられ、政策の重要性の理解が広く得られると期待できます。
議長、
また、農林水産業などの人間の営みを通して醸成されてきた各地域の自然環境について、その保全と持続可能な利用を進める国際的な取組も開始します。「SATOYAMAイニシアティブ」と称してCOP10で提唱しますが、世界各地で培われてきた経験や取組を国際的に共有するものです。日本の知識、経験を活用して、他国への支援も実施していきます。
そのほか、日本はCOP10で新たに世界共通の目標が合意されれば、各国での国家戦略の策定、その着実な実施に向けて、途上国を支援するための対策を提示していく意向です。日本が有する情報や技術も活用した支援策となるよう、そのための検討を各国とも協議しつつ進めていきます。
議長、
日本は、古くから自然の恵みを生活や文化に巧みに利用し、自然と共生した暮らしに価値をおいてきました。生物多様性の損失により地球、人類が危機的な状況にある中、その原因である人間の生活、活動を自然と共生した形に変えていくことが急務です。
日本は自然と共生してきた経験を最大限に活かし、COP10を契機に開始される世界的な行動を、各国の先頭に立って実施していくことを約束します。
来る10月、「自然との共生」をテーマに開始されるCOP10で皆様と再会し、議論することを楽しみにしています。