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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第47回日米財界人会議における前原外務大臣スピーチ

[場所] 東京(於:帝国ホテル)
[年月日] 2010年10月7日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳,(12時30分〜12時45分,15分程度)
[全文]

米倉議長

ブテル議長

御列席の皆様,

 本日は,第47回日米財界人会議の開催にあたり,両国の財界を代表する皆様方の前でお話ができることを,大変光栄に思います。この会議が日米関係の緊密化に果たされてきた役割に敬意を表するとともに,主催者の日米経済協議会及び米日経済協議会の皆様に心より御礼申し上げます。

(冒頭)

 外務大臣を拝命して3週間が経ちました。私は,前職で国土交通大臣を務めさせていただきました時から一貫した問題意識を持ち,外務大臣としての仕事にあたっています。それは日本が,人口減少,少子高齢化,大規模な財政赤字に苦しむ中で,日本の国力をどのように高め,国益を追求していくかということです。その意味で今,日本にとって一番大切なことは,米国や周辺諸国との連携,安定の中で経済活動を活性化させていくことです。こうした問題意識に基づき,私は経済外交を中心に据えて,日本の外交を進めてまいります。具体的には,FTA/EPAの促進,資源の安定供給確保,食料安全保障,インフラ海外展開を外交の中でしっかりと推進していくことが大事だと考えています。日本の環境・省エネ技術や安全・安心技術を海外に展開することを通じて日本経済を活性化させていきたいと考えます。

 申し上げるまでもなく,こうした経済外交の前提となるのが,盤石な安全保障体制です。我が国の安全保障の基礎であるとともに,アジア太平洋地域の安定と繁栄を支える共有財産である日米同盟を更に深化させることが必要です。私は来年,政治家として20年の節目を迎えますが,この間一貫して,日米同盟の強化を訴えてまいりました。日米安保条約の締結から50年を迎えてなお,東アジアにおける安全保障環境は不安定・不確実性を抱えており,引き続き日米両国が共同で地域の安全保障上の問題に対処していくためにも,日米安全保障体制を中核とする日米同盟の重要性は揺るぎません。

(日米関係の現状と課題)

 先月の国連総会出席の機会に,菅総理はオバマ大統領との間で,日米同盟を安全保障,経済,文化・人材交流の三本柱でさらに深化・発展させていくことを確認しました。私自身もクリントン国務長官と会談し,アフガニスタン・パキスタン支援,イランの核問題,気候変動,核軍縮・不拡散といった課題に対し,日米が協力して対処していくことで一致しました。山積するグローバルな課題を前に,民主主義や市場経済という価値観の共有に支えられた日米同盟は,日米両国にとってはもちろんのこと,日米が協力して地域,さらには国際社会全体に貢献していくという観点からますます重要になっています。

 経済面でも,世界経済を取り巻く環境が引き続き厳しい中,両国経済のみならず,世界経済の新たな成長を実現するため,日米両国が緊密に連携し,主導権を発揮していくことが重要です。この日米財界人会議の歴史は民間企業同士による対話や官民連携が両国の関係を緊密化させてきたことを示しています。政府としては,日米双方のビジネス界の要望も踏まえ,前向きな共同作業により,互いに制度調和・貿易の円滑化を図り,日米協力を推進することにより,両国の競争力強化,雇用創出,経済成長へと繋げていくことが必要だと考えています。また,新興国やその他の第三国において両国のビジネス界が共通して直面する課題への対処においても連携を進めてまいります。

 また,我々の経済的パートナーシップの新たな分野として期待されるのが,高速鉄道,クリーンエネルギー,原子力発電などです。私は国土交通大臣を務めていた際に,ワシントンやシカゴにおける高速鉄道セミナーの実施やラフード運輸長官をはじめとする方々を訪問するなど,日本が世界に誇る高速鉄道技術を率先して紹介してまいりました。先の外相会談でも,クリントン国務長官に,訪日の際にはぜひ新幹線に乗っていただき,その素晴らしさを体感していただきたいとお話をしたところです。

 クリーンエネルギーについては,ニューメキシコ州で多数の日本企業と米国研究機関が共同で,スマートグリッドの実証実験を実施し,また,沖縄やハワイといった島嶼地域におけるエネルギー効率向上のためにタスクフォースを立ち上げるなど,協力体制を築いております。

 さらに,原子力発電の分野では,両国間の長い協力の歴史があります。新たな展開といたしましては,米国において,日本企業が関与する原子力発電所の建設プロジェクトが,複数予定されており,さらに協力が深化することを期待しております。

 こうした日本の技術を米国において活用することは,日本の経済の活性化のみならず,米国の雇用とグリーン成長につながると考えます。また,日米同盟が一段と多層的になり,深化することにもつながります。

(アジア太平洋地域における日米協力)

 次に,アジア太平洋地域における日米協力につき,3点述べたいと思います。

 第一に,私は,この地域の平和と繁栄にとって,米国の積極的な関与が不可欠な要素であると考えています。米国が東アジア首脳会議(EAS)に来年から正式に参加することや,ASEANやAPECを重視する姿勢に示されるこの地域へのコミットメントを大変心強く思っています。忘れてはならないのが,日米同盟が,米国がこの地域におけるプレゼンスを確保する上で不可欠な基礎をなすものだということです。私は,日米同盟を強化することで,アジアの平和と繁栄の基盤をより強固なものにしていきたいと考えています。

 第二に,ご承知のとおり,日米は,本年及び来年のAPEC議長として,今緊密な協力を行っています。そのような中,来月の横浜でのAPEC首脳・閣僚会議において,日本は議長として,ボゴール目標達成評価の土台に立ち,アジア太平洋の将来像を共有し,地域経済統合や成長戦略の具体化に関する議論をまとめてまいります。また,APECビジネス諮問委員会委員と首脳との対話などを通じ,財界の皆様の貴重なご意見を積極的にフォーラムに反映させたいと考えています。APECにおける日米協力は,ジェンダーに関する問題,食料安保,グリーン成長に関するものなど幅広い領域にわたります。日本は,来年の議長である米国と連携し,今年の成果を来年へとつなげ,さらに実り豊かなものとしていくため,力を尽くしてまいります。

 第三に,APECと密接に関連し,アジア太平洋地域の経済統合に向けた重要な枠組みとなり得るのが,TPP(環太平洋連携協定)です。我が国のTPP交渉への参加の検討を含め,私は外務大臣としてFTA/EPAをできる限り推進したいと考えています。政府内でも,APEC首脳会議までに「包括的経済連携に関する基本方針」を決定するようにとの菅総理の指示に基づき,現在閣僚レベルでの検討を進めています。

(結語)

 今回の日米財界人会議は,APECの機会に予定されるオバマ大統領の訪日を1か月後に控えての開催となります。我々は,日米同盟の更なる深化のための具体策を検討しているところです。皆様におかれましては,両国の関係をさらに強固にし,両国ひいては世界の経済を活性化するための,積極的な御提言やメッセージを頂戴するのを楽しみにしています。

 御清聴ありがとうございました。