データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回日米露三極有識者会合出席者との夕食会(前原外務大臣挨拶)

[場所] 飯倉公館
[年月日] 2011年1月17日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 日本側出席者を代表致しまして第2回日米露三極有識者会合のため,米国及びロシアからお越しになられた皆様を心から歓迎致します。主催者である日本国際問題研究所(JIIA),米国戦略国際問題研究所(CSIS)及びロシア世界経済国際関係研究所(IMEMO)は,それぞれ外交・安全保障分野を中心に約50年に及ぶ調査・研究活動の実績を有するシンクタンクです。そのような三カ国のシンクタンクが協力・連携して,アジア太平洋の安全保障環境全般に関する会合を持てることは大変有意義なことだと考えます。昨年に続き第2回会合が開催されるのも,各参加者が日米露三極の協力のあり方について高い問題意識を持っている証といえるでしょう。

 とくに,本日の会合には,先日訪米した際に講演の場を提供していただいたハムレCSIS所長や,ディンキンIMEMO所長をはじめ,私が国会議員になって以来,様々な場面で忌憚なく意見交換をさせて頂いている専門家の皆様が出席をされており,大変心強く感じています。2日間にわたる会合が率直かつ建設的な意見交換の場となることを期待し,私の本会合のテーマに関する考えを少しお話させていただきます。

(日米露三極有識者会合の意義)

 まず,ダイナミックに変革するアジア太平洋地域における三カ国間協力の前提について一言申し上げます。日本の立場としては,強固な日米同盟の存在と,アジア太平洋の主要プレーヤーであるロシアとの信頼関係が,協力の基礎です。日米露三極有識者会合は,専門家の方々が深い見識を持ち合い,日頃現場で政策形成や外交交渉を行っている私たちと共に地域の安全保障上の課題を中長期的視点で議論する場であり,このような基礎を補強し,更なる平和と繁栄の道筋を示す試みとして重要です。

 日米,日ロ,米ロ,それぞれの二国間関係は,世界の潮流の影響を受けながら固有の歴史的経緯の中で今日の関係を築きました。とくに日米関係は,アジア太平洋のみならず世界の中でも最も重要な同盟関係を築き上げました。私は,先週米国を訪問し,クリントン国務長官との間で昨年9月に外務大臣に就任して以来,4回目となる会談を行いました。協議を重ねる中で日米両国が同盟関係を基礎にこの地域の発展のために幅広い分野で協力していくことの必要性について認識を深め,確認しあうことが出来たと思います。日米両首脳も,昨年11月の横浜APECの機会に行われた日米首脳会談で日米同盟の深化はもとより,アジア太平洋地域における協力やグローバルな課題への対処における協力の重要性を確認しました。

 日ロ関係は,領土問題に関する両国の見解が対立しているため平和条約が締結されていない状況にあり,両国関係の真の意味での発展を目指すべきです。この地域の戦略環境は,日露両国のより緊密な協力を要請しています。私としては両国政府間の相互信頼の下でこの問題の解決を図るとともに,経済及び国際舞台での協力を発展させていきたいと考えています。とりわけ経済関係については,新生ロシア誕生以降,両国の本格的な協力が始まっていますが,両国の潜在力に鑑みればまだまだ十分ではありません。今後,資源,環境,省エネといった分野での協力を進める余地が十分にあります。

 米ロ関係は,20世紀後半の世界を東西に分けた冷戦を経て,昨年4月,米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)がオバマ・メドベージェフ両大統領の間で署名され,昨年12月,米上院で批准が承認されました。また,昨年11月の北大西洋条約機構(NATO)・ロシア理事会ではミサイル防衛について今後ロシアとNATOが協力を進めていくことが確認されました。日本はこのような米ロ両国の協力関係の進展を歓迎します。

 それぞれの二国間関係を日米露三極の協力に発展させることにより,線を面にした協力が構築され,地域間協力に寄与することになるでしょう。さらには,この3極での協力が,アジア太平洋の新秩序を形成していく重要な舞台となる可能性も秘めていると考えます。その過程における日米露三極有識者会合の果たす役割は大きいと考えます。

(日米露三カ国が直面する共通の脅威と挑戦)

 今回の会合では北朝鮮情勢,極東・東シベリアにおけるエネルギー安全保障,そして東アジアの海洋秩序を中心に議論が行われると伺っております。これらはいずれも,アジア太平洋地域全体を視野に入れた日米及び日ロの協力関係を語る上で,非常に重要な要素です。特に,北朝鮮の内政及び核の問題は,極めて時宜を得たテーマであり,厳しさを増す朝鮮半島情勢を含め,アジア太平洋地域の安全保障環境を様々な角度から分析し議論することの意義は大きいと思います。

 昨年3月の韓国哨戒艦沈没事件,同年11月の韓国・延坪島に対する砲撃事件,そしてウラン濃縮計画の公表をはじめとする北朝鮮の度重なる挑発行為は,アジア太平洋地域の安全保障環境に引き続き不安定な要因が存在していることを,日本国内はもとより世界中に改めて広く知らしめました。昨年12月の日米韓外相会談でも確認したとおり,北朝鮮問題の平和的解決のため,北朝鮮が自ら続けている挑発行為をやめ,具体的行動をとり,国際社会に向き合うことが大事であり,このような認識に立って,今後取り組んでいく考えです。その中で北朝鮮に影響力を有する中国やロシアとも連携することが重要です。更に,日本は,北朝鮮との間に拉致問題も抱えており,この問題についても北朝鮮の建設的かつ誠意ある対応が必要です。

 緊迫する朝鮮半島情勢に加え,昨年,アジアでは領土・海洋をめぐる問題が多発しました。また,大量破壊兵器や弾道ミサイル拡散,国際テロリズム,海賊行為など,グローバルな課題への対応も差し迫った問題です。さらに,新たな安全保障上の課題として,海洋,宇宙,サイバー空間の安定的利用に対するリスクへの対応も求められています。

 アジア太平洋地域の戦略環境は変わりつつあり,日本,米国,ロシアはそれぞれ大きな課題に直面しています。このような認識の下,昨年12月,日本政府は民主党政権下で初めて防衛計画の大綱を改訂しました。新しい防衛大綱では,国内の基盤としての動的防衛力を整備していくこと加え,日米同盟を新たな安全保障間環境にふさわしい形で深化・発展させていくこと,また,国際社会における多層的な安全保障協力,特にアジア太平洋地域における協力を強化していくこと,を我が国の基本方針として位置づけています。

(アジア太平洋地域の課題としてのエネルギー問題)

 アジア太平洋の戦略環境は,今述べたような脅威を抱えていますが,その一方で大きな機会(opportunity)の時代に差し当たっていると考えます。中国やインドをはじめアジアの新興国の急速な成長は,アジア太平洋だけではなく,世界に大きな市場と成長の機会を与えています。また,これに伴い,世界のエネルギー需要にアジアが占める割合は拡大を続けており,2030年には約4割に達するとの予測もあります。

 アジアの経済が活発になり,エネルギー需要が増加するに伴い,資源獲得のための競争が激化することが予測されます。現在見られる領土・領海の問題も資源獲得をめぐる緊張の兆候であるといえます。この緊張をうまくマネージしていくことは,私たち三カ国の将来の鍵を握るといっても過言ではないでしょう。

 このような観点からも,天然資源に富む極東・東シベリア地域の資源開発・生産プロジェクトにおける日ロ協力の推進は,アジア太平洋地域全体の安定的なエネルギー供給確保に資する取り組みの一例であるともいえます。また,日本は代替エネルギーの開発に一層力を入れていく一方,資源・エネルギーの安定供給先として極東・東シベリア地域の開発に注目しています。ロシアにとっても,アジア太平洋の目覚ましい経済発展の環境作りに貢献し,そこから生まれる経済利益を共に享受していくためには,極東・東シベリアの発展は必要条件といえるでしょう。また日本との協力は,資源依存型の経済からの脱却を促し,経済近代化のための改革を推進させる上で有益といえるでしょう。日本のエネルギー効率は世界トップクラスであり,ロシアとの比較でいえば,エネルギー効率の差は約1対17です。例えば,この部屋の明るさに必要なエネルギーは,ロシアでは17倍ということになります。昨年11月,ラヴロフ外相と会談した際に,私がアジア太平洋地域での日ロ協力を進めていくことが日本の戦略的利益であり,同時にロシアの戦略的利益にもなる,と述べたのもこのような考え方に立ったものです。

 また,エネルギーの安定供給を長期的に確保するためには,世界のエネルギー事情をめぐる様々な動きを的確に把握し,戦略的な観点から将来に備えた対策を講ずる必要があります。米国におけるシェールガスをはじめとする非在来型天然ガスの開発により,天然ガスの輸出国及び輸入国は,自国のエネルギー安全保障政策の見直しを行う必要に迫られています。明日の会合では,これらのエネルギー安全保障を左右する様々な要因や各国の対応についても率直に意見を述べあい,アジア太平洋地域において日米露三カ国のいかなる協力が可能になるのか,具体的に検討していただけることを期待します。

(アジア太平洋の新秩序に向けて)

 アジア太平洋諸国が,これまで述べてきた安全保障上の様々な課題を克服し,地域全体の平和と繁栄を実現するために,日米露が果たす役割とは何でしょうか。私は,アジア太平洋を平和の海にしていくため,海上航行の自由を確保していくための協力を日米露を始めとした関係国間で行っていくことが,その重要な役割の一つだと考えます。貿易の航路を自由で開かれたものにし,世界の成長センターであるアジア太平洋の経済発展を実現していくことが必要です。また,私たちは,それぞれが比較優位にある分野において積極的にイニシアティブをとり,三カ国で補完的な協力関係を構築・強化していくことを心がけるべきではないでしょうか。そこで日本が果たすべき役割は,多様性豊かなアジア太平洋地域の諸国が協調しながら共に発展していくことを目指して,法の支配,民主主義,人権の尊重,自由で公正な貿易・投資ルールや知的財産権の保護といった制度的基盤を整備し,新たな開かれた地域秩序の形成を主導していくことにあります。

 昨年,米国とロシアが東アジア首脳会議(EAS)への参加を表明したことは,この地域の平和と安定に対する両国の積極的な関与を示すものであり,日本としてこれを歓迎しています。両国の参加を得て,従来の経済分野での取り組みに加え,政治及び安全保障の分野においても,EASの下での地域協力の取組が進展することを期待します。

 域内の経済連携については,昨年の横浜APECにおいて「地域経済統合」,「成長戦略」,「人間の安全保障」を中心とした「横浜ビジョン」を示し,具体的な成果を得ることが出来ました。これらの成果が,本年及び明年の議長である米国,ロシアへと引き継がれ,着実に実施されるよう三カ国が連携を深めていく必要があります。今後も,アジア太平洋地域の平和と安定に向け,経済,政治,安全保障を含む幅広い分野で,日米露三カ国間の補完的な協力関係を強化していくことが大事です。さらにはこの協力関係を新しいアジア太平洋の新秩序の構築に向け枢要な役割を果たす関係に発展させていくことが,私たち三カ国のみならず地域にとって極めて重要だと考えます。

(結語)

 皆様,食事中の長い挨拶は無粋でありますので,私のご挨拶をこの辺で終わりにさせていただきたいと思います。明日の会議も長丁場であると思います。日本ではよく「腹が減っては戦はできぬ」と言いますが,是非,明日の議論にも備えて,大いに召し上がって下さい。そして明年の第3回会合開催を経て,三極有識者会合より有益な政策提言,料理に例えるなら美味しい料理のレシピが提示されることを心待ちにしております。三カ国の更なる友好と発展,そして皆様のご健勝とご活躍を心から祈念してもう一度乾杯を致しましょう。