データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] JETプログラム25周年記念シンポジウム玄葉外務大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 2011年9月8日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 本日,このように大勢のご参加を得まして,シンポジウムの機会が得られたことを大変有意義に思います。

 私は国家戦略担当大臣を務めていた頃から,孔子の言葉をかりれば,国力というのは兵・食・信,すなわち外交・安全保障,そして繁栄,そして価値の総体だと申し上げてきました。文化を含む価値とは,重要な戦略課題の一つです。そして,日本の地域社会に根ざしたJETプログラムは,国際交流・相互理解を深め,文化を含む日本の価値を対外的に発信していく上で,大変貴重なツールです。

 この25年の間に,日本と諸外国の交流は大きく発展しました。そうした中でも,JETのプログラムの意義は,むしろ高まっています。一つは,最近,日本の若者が内向きになっている,留学生が減少していると言われており,いかに日本でグローバル人材を育てるかということが重要な課題となっています。そうした中で,JET参加者との出会いを通じて,留学を志望する方々が多数いらっしゃいます。JETのプログラムは日本のグローバルな人材育成という面でも有効なツールなのです。

 二つ目として,JETプログラムは諸外国に日本の現状を理解していただく上でも大きな効果があります。3.11の東日本大震災後,一時的に外国からのお客様が減ってしまいました。再び多くの訪問者をお迎えするには,これまで以上に海外への発信というものに力を入れていかなければなりません。そうした中で,一時帰国されたJET参加者の大半も今は日本に戻られて,復興のただ中にある各自治体や学校の活動を支えておられます。私は福島の出身ですが,福島県にも,各自治体から要望のあった56のポストにJETの新規参加者が配置されたと聞いております。

 世界が被災地の復興に注目しています。日本は必ず復興します。その復興・再生に向け,困難に立ち向かう日本人の姿,そして日本人が有する誠実さ,そういった価値というものを改めて発信していくべきだというふうに考えております。そのためにも,日本社会の実情に通じ,地域社会と深い絆で結ばれているJET参加者や卒業生の存在は心強い限りです。ぜひお力添えをお願いしたいと思います。

 東日本大震災後,多くの国でJETの同窓会組織が発起人となり,復興支援活動が行われました。また,JET経験者一人一人が日本と出身国の架け橋になっていただいています。中には,政府要職で対日関係に携わる例もあります。このように,世界中に張り巡らされたJETという縁が結ぶネットワークは,我が国の貴重な財産です。こうした方々の中に震災の犠牲となられたテイラー・アンダーソンさんとモンゴメリー・ディクソンさんの尊いご遺志と日本に対する愛情が生き続けていることに深い感動を覚えています。

 今後ともJETプログラムが日本の国際交流において主導的な役割を果たしていくためには何が必要なのか,本日のシンポジウムで有益な議論が行われることを心から期待しております。