データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原子力安全及び核セキュリティに関する国連ハイレベル会合 玄葉外務大臣スピーチ

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2011年9月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

メルカダンチ共同議長

各国元首・政府首脳,諸閣僚の方々

 1.冒頭,本日このセッションにお集まりの全ての方々に対し,歓迎の意を表します。ブラジルのメルカダンチ科学・技術・イノベーション担当大臣と共に共同議長を務める日本国外務大臣の玄葉です。日本外交の責任者として,また福島に生まれ育った福島選出の国会議員として,未曾有の大震災と原子力事故に際し,国際社会からいただいた支援,示された連帯に,深甚なる謝意を申し述べたいと存じます。

 2.3.11の大震災と原子力事故は私の人生観を大きく変えました。何よりも,severe accidentやテロ攻撃に対する準備を決しておろそかにすることができないということを文字通り痛感しました。私は,このような機会を通じて,今回の教訓を世界中が活かせるようにして欲しいと願います。

 3.原子力発電所の事故に対し,我が国は総力を結集し,懸命に収束に努めてきています。我々は,事故の徹底検証を行い,世界最高水準の安全性を確保していきます。他の原発についてもストレステストを実施します。また,中長期的には原発の安全性を高めて活用しながら,依存度を引き下げていきます。我が国の科学者は,事故の後,懸命に事実を収集し,解析し,分析しています。また事故の早急な収束とともに,原子力の安全を高め,放射能の心配のないその利用の方途を,日夜,探求しています。政策の責任者は,それらを考慮し,将来の方向性を定めていかなければなりません。

 4.事故の現場は,私の生地から40キロのところにあります。人々は放射能の人体への影響を心配しています。同時に,福島県民を始め,被災地の方々は,安全が確認された農産品や水産品が排斥され,安全な観光地まで敬遠されていることに,深い悲しみを感じています。風評被害によって復興が阻まれているのです。

 5.国政に携わる者として,私は,日本人の几帳面さと高い先端技術を駆使し,断固たる決意を以って除染のための活動を徹底的に行っていくことが重要と考えます。しかしたとえそれに成功したとしても,人々の間には漠たる不安が残ることでしょう。そうした不安に対しては,科学的客観性を基礎に,科学的知見を結集して説明し,人々をそうした不安から解放することが必要であります。これはまた,風評被害の防止にも役立つと考えます。

 6.このため,世界の諸国及び国際機関の代表の集う国連総会の場で,私にはお願いしたいことがあります。それは,放射能の人体への影響について,科学に基づく理解を築く努力に協力してもらいたいということです。原子力に関する国際社会のリテラシーを高めるため,IAEA,WHOや各国にある知見を一つに統合して一般市民にわかりやすく発信していただきたいのです。

 7.人類の歴史は,新しいエネルギー開発に向けた挑戦の歴史でもあります。化石燃料に乏しい我が国は,世界に率先して,新たなエネルギー社会を築いていかなければなりません。我が国の誇る高い技術力をいかし,規制改革や普及促進策を組み合わせ,省エネルギーや再生可能エネルギーの最先端のモデルを世界に発信したいと思います。

 8.最後に,私は,福島の再生なくして日本の再生はないとの強い思いに立ちつつ,今回の事故の当事国の外務大臣として,全力でその責務を担い,役割を果たしていきます。このセッションにおける議論が国際的な原子力安全の強化に役立つよう活発な議論をお願いし,共同議長であるメルカダンチ大臣にマイクロフォンをお返しします。