[文書名] 原子力安全に関する福島閣僚会議 我が国主催者(玄葉外務大臣)演説
各国及び国際機関の代表の皆様,
天野国際原子力機関(IAEA)事務局長,
御列席の皆様,
(冒頭)
1.東日本大震災の発生から1年と9か月余りが経ち,本日,ここ福島に世界各地から皆様をお迎えし,この会議をこうして開催できることは,被災地の方々の不屈の精神,事故の収束に当たってきた現場作業員の方々の奮闘,そしてこれを支えるべく日本全国,そして世界中から示された温かな連帯と支援の結晶であります。日本国民を代表し,全ての関係者に対し,改めて心からの敬意と謝意を表します。
2.東京電力福島第一原発事故が発生して以来,国際社会は,原子力安全の強化を喫緊の課題として取り組んできました。昨年6月,原子力安全に関するIAEA閣僚会議が開催され,9月には,原子力安全に関するIAEA行動計画がコンセンサスで承認され,世界中で今,様々な努力が行われております。この過程において,今回の共催者でもあるIAEAが果たしてきた主導的役割と,天野事務局長のリーダーシップに改めて敬意を表します。
3.日本は,原発事故の収束に国家の総力を挙げて取り組み,今もなお,事故からの復旧と再生に向けた闘いを続けています。私は,この福島の土地で生まれ育ちました。事故の現場は,私の生地から40キロほどの場所にあります。その点で,私は,今回の事故に当たり,国政に携わる者として,また,福島に生まれ育った者として,今回の事故がもたらした悲劇を誰よりも痛感し,そしてこの悲劇を乗り越え,被災された方々の生活を再建し,被災地の復興を果たすとの強い決意を胸に秘めた者の一人であります。今回の会議を通じ,また,今回の福島への訪問を通じ,こうして世界中からお集まりいただいた皆様に,大災害を乗り越え,復興と再生に向けて着実な歩みを続ける人々の意思,強靱さを是非感じていただきたいと思います。福島の人々は,復興のビジョンをもって,今までよりも更に良い地域にする,そういう再生を必ず果たすという思いで,今も厳しい闘いに全力で立ち向かっております。避難生活を余儀なくされている方々,放射線の影響に不安を覚える方々は今も多くおられます。今回の会議を通じ,私は,世界の叡智を被災地に集めたい,そして,被災地の取組をぜひ世界に発信したいと考えています。私は,今回の会議を,廃炉,除染と汚染された廃棄物の処理,健康管理等,国際社会との協力を更に強化する契機としたいと思います。この観点から,今回の会議に際し,健康や除染等の分野において,福島とIAEAとの協力が強化されていくことは大変喜ばしいことであり,日本全体でこれをしっかりと支えてまいりたいと思います。福島の再生なくして日本の再生はありません。国家の総力を挙げ,また国際社会との協調を通じ,事故からの復旧と被災者の方々の生活再建,被災地の復興に向け最大限の努力を行う決意です。国際社会の皆様におかれても,“科学的かつ客観的な情報”に基づき,この日本の取組を引き続き御支援いただければ幸いです。
4.世界のいかなる場所においても,原発事故を二度と繰り返してはなりません。この強い決意の下,日本は,今回の事故の知見と教訓を共有します。本日は,事故への対応,原子力安全の強化に向けた措置,そして事故の経験から世界にいかに貢献していくのかを述べ,この3日間の皆様の御議論の端緒としたいと思います。
(事故対応関連)
5.まず,原発の復旧状況です。昨年来,各原子炉と使用済燃料プールの安定的冷却状態を確立し,これを維持してきています。また,事故発生時に比べ,放射性物質の放出の大幅な低減を達成しています。現在は,廃炉に向けた中長期的な措置を着実に進めているところです。原子炉内の状態を把握し,破損した燃料の取り出しを行い,廃炉を進めていくこの作業は,国際的にも未経験の作業となり,長い年月と新たな技術が必要になると考えられます。これには,国内外の知見を広く集め,活かしていくことが必要であり,日本は,世界と協力し,世界に開かれた形でこの作業を進めてまいります。その観点から,日本は,明年にIAEAの国際専門家ミッションを受け入れます。
6.また,このようなオンサイトの施設の安定化を受けて,オフサイトにおいては避難区域が縮小し,既に帰還の取組を開始した市町村も出てきています。しかし,先ほども申し上げたとおり,いまだに多くの方々が厳しい避難生活を続けていることもまた事実です。今後の大きな課題は除染です。私は,住民の方々にできる限り元の生活を取り戻していただける環境を整える責任を強く自覚しております。除染と並び,賠償や健康の問題も含め,住民の生活再建に国家として全力で取り組む覚悟です。
7.日本が経験したこの事故への対応から得られる知見と経験を積極的に共有していくことは,必ずや今後の世界の原子力安全の向上に資するものと思います。日本は,事故を経験した国の責務として,事故対応の経験を活かした廃炉,除染,原子力安全等の研究開発や,放射線の健康影響の評価の分野で積極的に貢献してまいります。日本は,IAEAと協力し,事故の知見と教訓,廃炉の進捗を引き続き共有します。日本は,廃炉に関する国際的なアドバイザリー・グループの立ち上げの検討をIAEAに要請する考えです。
(我が国における原子力安全強化)
8.次に,日本の原子力規制体制の強化について述べます。今回のような事故を二度と繰り返さぬために,日本は,原子力規制体制を抜本的に改革いたしました。原子力利用の推進と規制を分離し,独立して中立公正な立場から原子力安全規制に関する職務を担うために,原子力規制委員会を創設しました。今後,この原子力規制委員会が,事故の教訓を踏まえ,新たな安全基準を策定し,不断にこれを向上させ,日本の原子力安全を確保していきます。
9.日本は,過去半世紀以上にわたる原子力の平和的利用の経験があります。先人達により連綿と継承されてきたこの長年の経験と,今回の原子力災害に対処した新たな経験の双方を踏まえ,原子力安全の分野において国際貢献を果たすにふさわしい人材を育成し,今後とも原子力規制行政の不断の向上に努めていきます。
10.この観点から,原子力規制委員会が現在取り組んでいる事故を踏まえた新たな安全基準等が作成された際には,日本は,IAEAの統合規制評価サービス(IRRS)ミッションを速やかに受け入れ,この新たな規制行政を国際的見地からも確認するとともに,事故を踏まえた日本の新たな規制の在り方を国際的な原子力規制行政にも資するよう努める考えです。
(原子力安全強化のための国際協力(3分野における我が国の具体的国際貢献))
11.続いて,国際的な原子力安全の強化に向け,日本がいかに貢献していくかです。第一に,知見と教訓の共有による国際貢献です。今回の事故については,既に昨年二度にわたり,詳細な事故報告書をIAEAに提出しています。また,政府と国会がそれぞれ設置した事故調査委員会を始めとして,官民のあらゆる角度から今回の事故を徹底的に検証し,これらの報告を世界に公表してきています。そこで得られる知見や教訓は,我が国の規制機関はもとより世界の規制機関にとっても活用できる有益なものであると確信します。
12.第二に,規範構築の分野における国際貢献です。原子力のより高い水準の安全を世界的に達成し,維持する重要性はますます高まっています。この一つの要となるのは,IAEAの安全基準です。日本は,事故の知見と教訓を踏まえ,この基準の見直しの議論に貢献してきており,今後得られる更なる知見と教訓についても,IAEAの安全基準の強化に資するべく,積極的に取り組んでまいります。加えて,日本は,原子力安全関連条約の強化に向けた議論にも積極的に参画します。この点に関し,日本は,本年8月に開催された原子力安全条約の特別会合において,米国等,同様の考えを持つ国々と共に,全ての国が原子力安全の強化のためにとるべき措置を特定した「原子力安全の強化に向けた行動志向の目的」の決定を主導しました。この文書で特定した行動に日本は完全にコミットすることを表明します。そして,各国が同様の対応をとることを強く奨励します。
13.第三に,緊急時援助の分野における国際貢献です。日本は,今般の事故の初期段階から各国と連携し,提供いただいた物資を活用し,派遣された専門家に活躍いただきました。こうした経験を踏まえ,日本は,IAEAの緊急時の「対応援助ネットワーク(RANET)」の強化に向けた提案を行う等,事故時の国際的な対応の強化に向けた国際社会の取組に積極的に貢献しております。事故の防止に向けた貢献のみならず,万が一にも事故が起きた際の緊急事態における備えにおいても,日本は世界を主導してまいります。諸外国で原子力や放射線の緊急事態が発生した際に,我が国が備えた知見,さらには今回の事故から得られた知識や経験を活用するため,我が国の専門家をRANETに登録し,緊急事態への準備と対応の世界的な備えの一端を担う考えです。
(結語)
14.「福島の再生なくして日本の再生なし」,この想いを胸に刻み,私は,被災した住民の生活を守り,支え抜く決意です。福島の人々,特に女性や子どもたちは,放射線による健康への影響について不安を感じています。人々の不安を軽減させ,解消させるため,国際社会の科学的知見を集めることが重要です。日本は,原子力事故の起きた地を再生させ,「ふるさと」を甦らせるために,全力で取り組みます。これは世界に例を見ない挑戦です。日本は,必ずや,人々の笑顔があふれる,美しく豊かな土地を取り戻す,そう強く決意しています。福島で安心して子どもを生み,育てることができるよう,また,福島で安心して働き,生活できるよう,私は先頭に立って福島を甦らせる決意です。ピンチをチャンスに転じる「逆転現象」の考えで,震災の経験を福島の再生と更なる活性化につなげてまいります。以上の決意を申し上げ,今回の会議の主催に当たっての私の挨拶といたします。
御清聴ありがとうございました。