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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICADⅤ閣僚級準備会合 全体会合1「TICADⅤの成果文書」 岸田外務大臣基調演説

[場所] 第2セッション基調演説
[年月日] 2013年3月16日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 ありがとうございます。

 日本は,この度の会合を迎えるに先立ち,昨秋の高級実務者会合を通じ,また,アフリカ連合委員会や在京アフリカ外交団等を通じてアフリカ諸国の皆様の声をお聞きしてきました。日本国内でも,民間企業や市民社会の声を聴取してまいりました。その中で,アフリカの更なる成長に向けて我々が何をすべきか,有意義な御意見や御提言をいただきました。

 日本は,TICAD Ⅴの成果文書は,TICADに参加するアフリカ各国,国際機関,産業界,市民社会等の期待と要望を正しく反映すべきものであると考えます。TICAD開催国として,日本は責任をもって成果文書案のとりまとめを行ってきました。以下,望ましい成果文書の要点につき説明いたします。

 第一に,アフリカ諸国は共通して,開発援助の重要性もさることながら,貿易・投資を促進すべきと訴えています。一方,日本の民間企業は,アフリカの市場としての将来に大きな期待を持ち,進出する意欲を有しています。このアフリカ側の期待と民間企業の意欲をしっかりと繋ぎ,民間セクターが主導する成長の実現を目指したいと考えます。

 成長を支えるためにはインフラの整備に力点を置くべきことも共通の認識でした。インフラは,生産市場と消費市場,そして国と国を結節し,経済規模を拡大させるようなものであるべきです。市場の結節を,地域規模,ひいては大陸規模に展開させていけば,成長の恩恵を社会の隅々,そしてアフリカの隅々にまで行きわたらせることができます。

 また,職業教育や高等教育等,雇用につながる教育が,特に若者や女性の機会と可能性を拡大し,経済活動の新たな担い手を生み出すことの重要性も指摘されました。アフリカに知の集積が構築されれば,経済活動の起爆剤となる技術革新を,アフリカ自身の手で生み出すことも可能となります。これらの人材や知識もまた,成長を支えるインフラと言えます。

 民間企業の投資促進のためには,ふさわしい法制度整備やその適切な運用を始めとする,ビジネス環境整備が必要です。これは日本の民間企業からも強い要望が寄せられています。アフリカ自身の手で,公的機関の能力向上に努めつつ,投資家にとって魅力的な環境が創出されれば,アフリカ経済の高い潜在性と相まって,世界の投資家の耳目をアフリカに集中させることが可能となるでしょう。

 次に,アフリカの労働人口の大部分を占める農業従事者がしっかりとした力をつける必要性も指摘されました。そのためには,従来の食料安全保障や栄養の観点に加え,農業従事者の所得の向上を通じて生活水準の改善を図り,成長につながる新たな消費市場を創出することが望まれます。農業が「食べるための農業」に加え「稼ぐための農業」になれば,アフリカ全体の貧困削減・経済発展にもつながると考えます。

 この取組にあたっては,農作物の生産,貯蔵,流通の各段階で,農作物の付加価値を高めていく手法も有効です。また,女性や小規模農家等の農業の担い手の力を高めていくことが不可欠との指摘も正鵠{せいこくとルビ}を得ています。

 一方,昨今のアフリカにおける気候変動がもたらす負の影響は,成長を実現する上での大きな課題として懸念されています。適応策や防災対策などを通じ,アフリカの成長を持続可能でより強靭なものとすることが急務です。この観点から,日本は気候変動に強靭な開発戦略策定のイニシアティブに貢献するとともに,今後具体的な施策を実施していきたいと考えています。

 更に,アフリカに暮らす人々が,社会の各層において,保健,水・衛生,教育等の適切なサービスを享受することができれば,成長を下支えする基盤は盤石なものとなるでしょう。

 そして,人々が安心して経済社会活動に取り組める平和で安全な社会もまた,成長の基盤です。アフリカを平和の大陸とし,信頼できる国家と政府を創り,安全な社会を実現するための主役はアフリカ自身です。我々がその力を信じ,育み,共に歩むことが必要です。また,国連安保理改革等,平和を守る国際社会の仕組みを整える努力も忘れてはなりません。

 これらの戦略的方向性を包括する指針として次の三点が挙げられると考えます。

 まず,アフリカの更なる成長を目指すにあたっては,大陸アジェンダを始めとするアフリカ自身のイニシアティブを推進する取組でなければなりません。次に,アフリカの現在と未来のためにも女性と若者の主流化を一層推進すべきです。そして,何より大切なことは,人間の安全保障の理念です。即ち,人間一人ひとりを恐怖や欠乏から解き放ち,個人の豊かな可能性の実現を図るという理念です。

 日本は,この人間の安全保障の考え方こそ,ポスト2015年開発目標策定に向けたビジョンを支える重要な理念として相応しいと考えます。TICADプロセスを通じて,現行MDGsの達成を最重要課題として取り組むと同時に,効果的なポスト2015年開発枠組み策定に向けて,アフリカと共にリーダーシップを発揮していきたいと考えます。

 以上に述べた考え方に基づき,本日,閣僚の皆様に成果文書の素案をお示ししています。この成果文書案は,躍動するアフリカの成長に向けた強い決意と,そのための方途を示すものとなります。この文書を通じて,世界に対して,TICADからの強いメッセージを送ろうではありませんか。

 日本としては,TICADⅤにおいて,アフリカにおける更なる成長を実現するための,新たなアフリカ支援策を示します。そのために,現在,日本は官民一体となって,その具体化に取り組んでいます。

 日本は,AUが推進している大陸アジェンダに注目しています。アフリカ大陸全体の発展のために,アフリカ各国の首脳が政治的意志を発揮している大陸アジェンダを,日本としても積極的に支援していきます。同時に,各国の多様な開発ニーズに応える,きめの細かい支援を推進します。

 本セッションは,TICADⅤで我々の首脳が採択する成果文書を議論する重要な機会です。是非閣僚の皆様から忌憚ない御意見をいただき,成果文書に反映させたいと考えます。

 ありがとうございました。