[文書名] 第19回国際交流会議「アジアの未来」における岸田外務大臣スピーチ
みなさん,こんにちは。
御紹介預かりました外務大臣の岸田文雄でございます。本日は,この伝統ある「アジアの未来」にお招き頂き,誠にありがとうございます。本年のテーマは,「アジア新時代 連携への道〜共生の方策を探る」と伺っていますが,激動する世界の中で,台頭するアジアの将来を考えることは,誠に時宜に叶ったことだと考えております。私も,外務大臣就任直後の本年1月にフィリピン,シンガポール,ブルネイのASEAN諸国3カ国と合わせてオーストラリアを訪問し,この地域の力強い成長を実感した次第ですが,活気に満ちあふれた街の様子を目の当たりにして,アジアのダイナミズムとその源にある若者のエネルギーを体感しました。この訪問の中で,あるリーダーから「日本はもっと自信を持つべきだ」とのアドバイスを頂きました。今,私はこの言葉を肝に銘じて外務大臣の任に当たっています。
私はその後,様々な国を訪問させていただきましたが,どの会談においても,経済成長が著しいアジアに世界が注目し,そしてこのアジアがその中心的存在になりつつあることを改めて強く認識しました。安倍政権成立以来,第1四半期は,年率換算3.5%の成長を成し遂げ,株価も150%に値上がりし,日本経済は復活しつつあります。このことと相まって,このアジアに世界の関心が集まれば集まるほど,アジア及び世界における日本の役割への期待もまた一段と大きくなっていることを肌で感じています。
アジアの中でも,特にASEAN諸国は,文化的,歴史的にも関係が深い国々です。ご承知のとおり,本年は日本とASEANとの公式な関係が始まって40年を迎える記念すべき年であります。過去40年間,安定と繁栄への歩みを共にしてきたことを振り返りますと,非常に感慨深いものがあります。
それでは,このアジアは今どのような状況にあるのでしょうか。
まず,アジア,特にASEANは近年目まぐるしい成長を遂げております。私はこれまで議員交流の一環でベトナムを幾度となく訪問させて頂きました。3年前ハノイを訪問した際には,10年前と比べて様変わりした街の様子,目を見張る思いがありました。2012年のASEAN全体の経済成長率は5.7%を記録し,本年は引き続き5.5%の成長が見込まれています。経済成長を通じて,6億のASEANの人々の中で中間層がどんどん拡大しています。アジアは,グローバルな成長センターとして世界の発展を牽引しており,ASEAN全体のGDPは2011年には世界のGDPの3.1%を占めていますが, 1990年に比べて約6倍に伸びており,その位置付けは日に日に高まっております。
次に,アジアにおいて,経済の発展と共に社会の成熟化が進んでいます。ASEAN諸国の中には,豊かな経済や成熟した民主主義を達成した国もあり,また,あるいはこれに向かって順調に進んでいる国もあります。新しい環境を踏まえた日本とアジアとの関係が求められていると考えます。
また,メコン地域では,紛争の終結や社会の安定によって,安全保障環境が大きく改善されていますが,その一方で,東アジアにおいては北朝鮮の核・ミサイル開発の問題,あるいは海洋の問題など,アジア地域における平和と安定の定着に向けた課題が多いのも現実です。こうした不安定な安全保障環境を改善するための取組も当然必要です。
このようなアジアの変化を踏まえ,今年1月,安倍総理は「対ASEAN外交5原則」を訪問先のジャカルタで発表いたしました。日本とアジアの関係を新時代に向けてさらに強化するため,今後,この5原則を踏まえ,政治・安全保障,経済,文化・人的交流などあらゆる面で外交努力を行っていくつもりです。具体的には,第一に,世界経済の中心となったアジアのさらなる繁栄のための協力,第二に,アジアにおける豊かで成熟した社会を後押しするための協力,第三に,アジアにおける平和と安全を確保するための協力。そして第四に,人と人との交流や文化交流の推進。こうした取組です。
また,今申し上げた4つの内,第一に,繁栄のための協力です。アジアの繁栄は地域全体を貫くルール作りにかかっています。日本は,究極的な目標であるFTAAPの実現に向けて,TPP,RCEP,日中韓FTA等を推進し,アジア太平洋地域における高いレベルの貿易・投資ルール作りを主導していきたいと考えております。さらに,経済発展の基盤となる工学系学生の能力向上あるいは中小企業の育成にも引き続き取り組んでいきたいと考えております。
そして第二に申し上げた豊かで成熟した社会のための協力ですが,ASEAN全体が豊かで成熟した社会となるためには,域内に存在する格差を埋めていくことが重要です。そのためにも,官民上げて地域の連結性強化あるいは経済連携の深化を推進しつつ,域内の格差是正を図っていきたいと考えています。さらに,2015年のASEAN共同体構築を支援し,成長著しいメコン地域との協力を引き続き推進していきます。
先を行く国々との間では,経済成長の先駆者としての経験をいかし,これまでの伝統的なインフラあるいは人材育成支援等といった分野から,裾野を広げて,環境対策,保健衛生対策,社会保障制度の構築,更には災害管理まで幅広く協力をしていきたいと思います。特に保健につきましては,このたび「国際保健外交戦略」を策定し,保健を日本外交の重要課題と位置づけ,アジアを含めユニバーサル・ヘルス・カバレッジの促進に貢献していくこととしたところです。このような課題は個々の国を超えるものであり,これらの対策が今後ますます重要となってきます。
そして第三の取組,平和のための協力です。アジア太平洋地域の安全保障環境は近年厳しさを増しています。アジアの未来を明るいものにし,この地域の平和と繁栄を維持するためには,これを不透明にさせる事態への対処や平和への支援が必要となります。
その中でも,地域の一番の懸念は北朝鮮問題です。国際社会の強い反対を無視し続けるかたちの北朝鮮による核・ミサイル開発は地域の平和と安定への深刻な脅威となっています。我が国としては,米国や韓国といった国と引き続き連携しながら拉致,核,ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて,「対話と圧力」の方針を貫いていきます。
また,韓国は日本にとって基本的な価値と利益を共有する重要な隣国です。現下の東アジアの安全保障環境にかんがみ,日韓関係を深化・発展させていくことは,日韓両国にとって重要であるのみならず,地域の安定にとっても重要です。隣国同士,時に困難な問題が生じることはありますが,大局的観点から,日韓関係をマネージし,協力案件を育て,政治レベルを含む対話と協力を進めたいと考えています。
南シナ海,東シナ海においては緊張が高まっております。この地域のみならず,国際社会にとっての共通利益は「開かれ,安定した海洋」であることは明らかです。「力」ではなく,「法」による支配を通じ,従来からの秩序を維持し,そして航行の安全・自由を確保することが地域の平和と繁栄には不可欠です。
また,中国なくしてアジアを語ることはできません。ご存知のように,我が国にとって日中関係は最も重要な関係の一つであり,日中関係がこの地域のみならず世界に与える極めて大きな影響や地域・国際社会の安定と繁栄に対して有する大きな責任は改めて述べるまでもありません。その中で,日本は常に「戦略的互恵」の観点から,個別の事案が全体を損なわないような姿勢を堅持しています。日中韓FTA交渉,日中防衛当局間の局長級協議を実施するなど,実務レベルでの協議を積み重ねており,今後,政務レベルの対話を含めた幅広いレベルの対話につなげていくことが重要だと考えています。日中両国は国際社会の平和と繁栄に共に責任を有しており,日本側は常に対話の扉を開いております。
民主主義を着実に進めているミャンマーや,フィリピンのミンダナオ和平プロセスを引き続き強く支援していくことも,地域の安定に不可欠だと考えています。
そして第四に,日本とアジアが新しい段階に進むにあたっては,人と人との交流と文化交流の促進が極めて重要です。
今や,情報通信速度が飛躍的に高まり,インターネット上で瞬時に海外の情報が得られ,様々な国の人々と知り合いにもなれるようになりました。しかし,実際にお互いの国を訪問し,その土地の名産を味わい,多様で豊かな文化を体験することが,お互いへの深い理解と信頼関係を育みます。こうした交流が活発になり,観光や文化,ひいては豊かな社会の礎となる教育に関しても協力を深化させていくことが,アジアの多様な文化や伝統を共に守り,後世に伝えていくことにつながります。こうした観点から,日本は以下の取組みを行っていきたいと考えています。
まず,ASEAN諸国に対して一層の観光査証の緩和を行い,人的交流を活発化していきます。ASEAN諸国から,もっと日本にお越し頂いて,四季折々の豊かな表情に富む日本に触れて頂きたいと考えています。
また,日本のアニメや最先端技術への憧れが,日本の文化や言葉に関心を持つきっかけとなった方もいらっしゃるでしょう。ASEAN諸国の中には日本語を教育システムに取り込んでいただいている国もあり,大変嬉しく思っています。言語は,外国の文化を深く理解するために極めて重要な手段です。このため,自分の下に「海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会」こうした懇談会を立ち上げ,具体的な方策を検討しているところです。
さらに,アジアとの文化交流の拡大に向けての施策として,文化や芸術に関する政策対話,文化遺産の保護,文化産業の発展のための人材育成において協力を推進してまいります。
それだけではありません。1月に安倍総理が発表した青少年交流事業「JENESYS(ジェネシス)2.0」や「留学生30万人計画」などの施策を有機的に連携させ,まさにアジアの未来を担うべき若者の交流に力を入れていきます。そして2020年には,東京でオリンピック・パラリンピックを開催し,多くの若者を日本にお迎えし,東日本大震災からの力強く復興した姿を見ていただきたいと思います。
ご列席のみなさま。
私は1月に訪問したフィリピンで,マニラ市民の足として親しまれている都市高架鉄道に試乗し,日本の技術が人々の生活に浸透していることを実感しました。日本とアジアが新時代を迎えつつある今,平和の定着したミャンマーと東南アジアの主要都市が日本のリニアモーターカーでつながれ,各都市を日帰りで行き来するアジアの若者の姿が日常のありふれた光景となる,そんな日も遠い先のことではないだろうと思っています。40年前には現在も想像も出来なかったことでしょう。
1997年のアジア経済危機あるいは2004年のスマトラ沖大地震といった危機に際して,我々は常に支え合ってきました。東日本大震災に際して皆様から暖かいご支援を頂いたのは,そうした支え合いの歴史を語る一ページだと考えています。これからも「アジアの未来」は,「日本の未来」であり,「日本の未来」は「アジアの未来」です。
日・ASEAN友好協力40周年という記念すべき本年を機に,40周年のキャッチフレーズであります「つながる思い,つながる未来」をますます推進し,日本とアジアとの関係を新時代に向けるために,皆様と協力をさらに深めていきたいと考えています。
本日はご清聴頂き,誠にありがとうございました。