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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICADVテーマ別会合3「ポストMDGsに向けて」 岸田外務大臣御挨拶案

[場所] パシフィコ横浜
[年月日] 2013年6月2日 9:00-12:00
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

潘基文事務総長,

アフリカの友人の皆様,

 本日,躍動するアフリカ諸国及び開発パートナーの皆様とポスト2015年開発目標について議論することができ,光栄に思います。潘基文事務総長の持続可能な開発の実現に向けた強い決意,サーリーフ大統領のハイレベルパネルの共同議長としての指導力に,敬意を表します。

 日本は,ポスト2015年開発目標に関する国際的な議論を牽引してきました。「コンタクト・グループ」を通じた実質的な議論への貢献,さらには国連総会やIMF・世銀総会東京会合の際の関連イベントを通じた国際世論の喚起など,様々な形でこの課題を主導してきたという自負があります。

 国連が主導するテーマ別コンサルテーションの記念すべき第1回が開催されたのも東京です。 その際の「成長・構造変革・雇用」というテーマは,ここに集う我々にとって特に重要な意味を有します。これらが,TICADVの重点課題であるだけでなく,先月アフリカ首脳が合意したポスト2015年開発目標に関する「アフリカ共通ポジション」でも重視されているからです。

 開発の推進力としての「成長」に光を当て,特に女性と若者の雇用を生み,強固で質の高い持続可能な成長を目指すことが,アフリカの未来につながるのです。その際,全ての人が成長に参画でき,公平な機会を与えられることが重要です。これまでとは次元の異なる包摂的な成長を追求可能なポスト2015年開発目標が求められています。

議長,

 ポスト2015年開発目標は,現行MDGsの強みに基づき,簡素明快で,わかりやすく,測定可能なものとすべきです。また,現行MDGsでやり残した仕事に強化・改善するかたちで取り組むとともに,新たな課題にも対処可能なものとすべきです。

 たとえば,保健分野では,多様化した保健ニーズに対処するために,全ての人が基礎的保健医療サービスを受けられることを目指すべきです。また,出産時の母子死亡率の改善のみならず栄養改善のような新しいニーズにも対処していく必要があります。そのために,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進をポスト2015年開発目標に位置づけるべきでしょう。我が国が策定した国際保健外交戦略でも,この点を中心課題に据えています。

 現行MDGsが十分に対処してこなかったもう一つの課題は防災です。アフリカでも水害,干ばつにより,多くの人びとが影響を受けています。世界の自然災害による死者の9割は途上国の人びとであり,開発における防災の主流化は喫緊の課題です。日本は,2015年に第3回国連防災世界会議をホストし,国際社会の防災の推進に貢献していく考えです。同時に,2015年より先の国際開発目標においても,防災をしっかりと位置づけることの重要性を強調したいと思います。これは,新しい枠組みが「持続可能性」に効果的に対処していく上でも重要です。

議長,

 これらの課題を貫く指導理念として,人間の安全保障が重要です。個人に着目することで,多様な脅威の相互連関性に留意し,包括的な対処と幅広い関係者の協力を促進することが可能となります。また,人びとの保護と能力強化を通じ,能動的な社会づくりへの参画を実現することで,貧困撲滅と持続的な繁栄が可能となります。

 もちろん,良い目標を掲げても,それを達成するための実施手段が確保されなければ,画に描いた餅に終わります。オーナーシップを基礎に,あらゆる開発の担い手が,能力に応じた責任を共有して,真のグローバル・パートナーシップを構築することが不可欠です。

 日本とアフリカ諸国の協力は極めて重要であり,本日の議論を通じ,TICADVが,ポスト2015年開発目標に向けて力強いメッセージを発信し,人間の安全保障に基づく効果的な枠組み構築に向けて協力していくことを期待しています。

(了)