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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICADVテーマ別会合4 「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを通じたアフリカ開発の推進」 岸田外務大臣御挨拶案

[場所] パシフィコ横浜
[年月日] 2013年6月2日 9:00-12:00
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 御列席の皆様,

 TICADVでは,アフリカの成長のあり方について,また,人間の安全保障の実現について,経済,社会,平和と安定といった,様々な側面から議論しています。その過程で,最も重要な要素の1つと指摘されているのが,人材です。

 日本は,昨日総理が述べたとおり,アフリカの人材育成を重視しており,特に職業訓練,高等教育やカイゼンの普及を通じた産業人材育成を積極的に支援します。こうした取組を通じ,優秀な人材がアフリカの成長を支えることを期待します。

 他方,アフリカで,活かしきれていない人材がいます。それは女性です。私がアフリカを訪問した際,燃料とするために切り倒した,自分の背丈の3倍もある木を担いで高地を行き来している女性を目にしました。女性がこのような労働から解放され,可能性を開花させ,より能動的に,成長の主人公へと変わっていかなければなりません。

 成功例を挙げたいと思います。昨日,総理から,ケニアの小農の所得倍増事業を紹介いたしましたが,その成功の秘密は女性にありました。事業開始時,野菜栽培の従事者の7割が女性であることから,あらゆる研修に男女同数の参加を義務づけたのです。その結果,何が多く売れるか,高く売れるのはいつか,といった市場調査を始め,様々な過程で女性達は絶大な力を発揮し,この村は2年で所得倍増を達成できたのです。今や,この村の女性は視察に来る人々に,毎週の「市場調査」が鍵と指導するに至っているとのことです。彼女たちがアグリビジネスのために訪日する日も近いかもしれません。

 そんな日を実現するために必要なのは,女性の主流化です。すなわち,開発のあらゆる側面で女性に焦点を当てることです。日本も支援に当たり,常日頃から女性の主流化を心がけています。

 当然,女性特有の課題への対処,すなわち,母子保健,リプロダクティブヘルスの強化支援は必須です。教育機会の均等供与も不可欠です。「学校に男女別トイレ設置」の徹底で女の子の進学率と就学率が上がることは実証されています。また,起業の機会の平等の実現には,身分証明や貸付契約の署名権限についての法制度整備や意識啓発が必要です。

 また,紛争予防や平和構築に至るまでの一連のプロセスにおいて,女性の参画を確保することで,平和と安定の維持をより効果的に行うことができることが知られています。女性はその脆弱性ゆえに紛争や災害時には致命的な打撃を受け得ます。紛争からの復興プロセスにおいて,兵士の武装解除と職業訓練支援が裏表の関係であるように,女性には,紛争の傷を癒すケアの供与と人材育成支援が同時に行われるべきです。このように,紛争予防・平和構築・復興の各プロセスにおいて女性の視点が活かされるべきです。同様に,災害に対しては,防災計画を策定する時から,女性が関与することで,現場での適切な配慮が実現します。こうした考えに立って,我が国は,昨年「自然災害とジェンダー」国連決議の採択を主導したところです。今後も,あらゆる分野の支援策の実施の際に,ジェンダー配慮や女性のエンパワーメントを徹底していきます。

 AUは,2010年から2020年までを,アフリカ女性の10年(theAfrican Women’s’ Decade)と位置づけています。安倍政権で進めている日本の成長戦略のテーマは「女性」です。私が外交上重視している視点は「平和・安全・女性」です。共通しているのは,「女性を活かさずして,国は発展せず」という信念です。皆様と思いを同じくして,日本は引き続きアフリカの女性のための支援を強化していきます。

(了)