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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「ひろしまラウンドテーブル」開会式における岸田外務大臣スピーチ 「核兵器のない世界」に向けたビジョンと取組

[場所] 広島
[年月日] 2013年7月29日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

湯崎知事,御来賓の皆様,

 本日は,私の地元であるここ広島で開催される「ひろしまラウンドテーブル」の開会式にお招きいただき,誠にありがとうございます。北朝鮮の核問題を始め,核リスクに直面する東アジア地域の核軍縮・軍備管理に焦点を当てた本ラウンドテーブルの開催は,誠に時宜に適ったものと考えます。「核兵器のない世界」という大きな目標を共有する広島県の「国際平和拠点ひろしま構想」に,日本政府としてもしっかりと協力してまいりたいと考えています。

 私は,被爆地である広島市出身の初めての外務大臣として,核軍縮に積極的に取り組んでいきたいと考えています。この思いは,大臣に就任した際の会見でも公に述べたところです。

 去る4月,私は,オランダのハーグで開かれた軍縮不拡散イニシアティブ(NPDI)外相会合に出席しました。同外相会合では,議長国のオランダを始め,各国の外相と有意義な議論を行い,その後ジュネーブで行われたNPT運用検討会議第2回準備委員会に向け,グループの貢献を政治レベルで強く後押ししました。このNPDIは,核軍縮の分野において,その存在感がますます大きなものになっていると感じています。NPT運用検討会議第2回準備委員会では,米国を始めとする5つの核兵器国と中身の濃い対話も行いました。私たち外相の強い政治的後押しと,具体的で実践的な提案がこのグループの大きな強みであります。

 「核兵器のない世界」を実現するためには,「核兵器のない世界」のビジョンを幅広く共有するとともに,そのための現実的で具体的なステップを国際社会の共同行動として描き出し,それを着実に実施していくことが重要です。先ほど申し上げたNPDIの取組は,まさにこれを具現するものです。ビジョンを達成するための具体的行動の重要性は,この場におられる川口,エヴァンス両元外相が主導した「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の報告書からも読み取ることができます。

 また,国際社会に共同行動を呼びかける上で,我が国が国連総会に提出している核軍縮決議は,非常に重要な役割を果たしています。これは,この場におられる河野元衆議院議長が外務大臣時代にイニシアティブを取られ,1994年以降,毎年我が国が提出し,圧倒的多数の賛成で可決されているものです。核軍縮決議は,この分野における我が国のリーダーシップを国際社会に示す好例と言えるでしょう。

 先ほど私は,被爆地出身の外務大臣として,核軍縮に積極的に取り組んでいきたいと申し上げましたが,この核軍縮の取組は,二つの認識に基礎を置くべきであると考えています。まず一つ目は,核兵器が使用された際の人道的影響についての正確な認識です。唯一の戦争被爆国として,広島と長崎の惨禍を,世代と国境を越えて継承することは我が国の使命です。核兵器使用の人道的影響についての正確な認識を,国際社会の核軍縮への取組における出発点として確立することを目指したいと思います。

 もう一つは,北朝鮮やイランの核問題,核テロの危険など,今日の国際社会がますます多様化する核リスクに直面していることへの冷静な認識です。特に東アジアでは,透明性を欠いた核戦力の増強が続いているとも見られ,我が国の置かれた環境は,ますます深刻な核リスク,安全保障リスクに満ちたものとなっています。したがって,核軍縮の取組を進めるにあたっては,目の前のリスクに有効に対処できる,十分に実践的な対応を取っていくことが,責任ある政府の役割であるべきと考えます。

 私は,こうした考え方に基づき,「核兵器のない世界」の実現に向け,現実的で具体的なステップとして「3つの低減」に取り組みたいと考えています。即ち,(1)核兵器の数の低減,(2)核兵器の役割の低減,そして(3)核兵器を開発・保有する動機の低減を目指した取組です。核兵器の数を低減させ「核兵器のない世界」を実現するためには,まず,核戦力や核ドクトリンについての透明性を向上させた上で,安全保障政策における核兵器の役割も併せて低減させる必要があります。また,地域や国際社会において安全保障リスクが存在することが,核兵器を開発し保有する誘因となっていることから,こうした安全保障環境の改善を通じて,核兵器を開発・保有する動機も低減させていかなければなりません。これまで我が国がNPDIを通じて行ってきた実践的な提案や取組の上に立ち,「核兵器のない世界」のビジョンに向けたブロックを積み上げる努力を重ねてまいりたいと考えています。

 来年2014年のNPDI外相会合は,ここ広島で4月12日に開催予定です。来年の広島NPDI外相会合では,出席する各国外相に被爆の実相を直接知っていただくとともに,市民社会の方々との対話も進めたいと考えています。また,この機会に,核兵器の非人道性についての認識が,より多くの国に受け入れられるようなメッセージをここ被爆地から発信したいと考えています。

 「核兵器のない世界」というビジョンを共有すべく国際世論を喚起する上で,軍縮不拡散教育が果たす役割も重要です。先程も触れましたとおり,「唯一の戦争被爆国」として,核兵器使用の悲惨な結末を世界と次世代に伝えていくことは,我が国の使命です。既に被爆者の方々には,非核特使として世界各地で御活躍いただいていますが,私は4月にオランダのハーグで「ユース非核特使」制度の立上げを表明しました。本日,その第1号の委嘱を先程行いました。この制度を通じ,若い世代の方々が,「核兵器のない世界」に向けて何ができるかを自ら学び,考えたことを世界に伝えていくことを期待しています。

 「核兵器のない世界」を実現するためには,市民の皆さんお一人お一人が,そのための方途についてあらゆる側面から考えることが大切です。本日から始まるこのラウンドテーブルが,是非そうした貴重な機会となることを心から期待しています。

 御静聴ありがとうございました