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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] シリアに関する「ジュネーブ2」会議における岸田外務大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 2014年1月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

バン・キムン国連事務総長,

最初に,ジュネーブ2会議の開催に至ったバン・キムン国連事務総長を始めとする国連,関係各国の尽力を高く評価します。

 美しいシリアを取り戻す。

 これが,今日集まった我々全ての願いであり,決意であり,そして,この会議の究極の目標であると,私は,堅く信じます。

 シリアは古から,様々な文明が行き交い,豊かな歴史と大地の恵みに彩られた美しく豊かな国です。そのシリアで3年もの間,混乱の中での激しい戦闘で,化学兵器さえも使用され,幼い子供,国を背負って立つべき若者を含む,多数の無辜の人々が尊い命を落とし,シリア国民が最大の犠牲者となっていることは,言い尽くせない悲しみです。

 唯一の戦争被爆国である日本の,そして広島出身である私は,とりわけ大量破壊兵器使用の残忍さ,その許されざることを,ここにいる誰よりも,身をもって知る人間です。

御列席の皆様,

 この間にも,暴力が続き,多くの市民が命を落とし,また,難民・国内避難民化しています。片方の手で握手しても,もう片方の手に武器を握っている限り,何らの成果も生み出すことはありません。この会議がまず合意すべきこととして,関係者に対し,暴力の即時停止に向け,それぞれの持てる最大限の影響力を発揮することを強く求めます。

 戦争による荒廃,絶望の淵から復興を遂げ,また,これまでもシリア国民の発展に寄与し,様々な苦境の克服を手助けしてきた日本は,シリア国民が,平和で幸せに,普通の生活を営み,美しいシリアを取り戻すため,人道支援と政治対話への貢献を,車の両輪として取り組んでまいります。

日本は,数十年来,シリア国民の発展,民生の向上のため支援を続けてきました。シリア全土の発電設備量の約3割は,日本の援助です。また,乾燥地のシリアにおいて極めて重要な灌漑や水資源管理等の水分野への支援等についても重点的に支援を実施してきました。シリアの人々がより良い生活を享受できることは,後にも先にも,日本の最大の優先事項です。

 私は昨年,ヨルダンのザアタリ難民キャンプを訪れました。途方に暮れる母親,その傍らで力強く生きる子供,そして自らの状況を知る由もない赤ん坊。果てしなく続くバラックやテント。私は,人道支援が待ったなしであることを,まさに肌で感じました。

日本は,既に約2.8億ドルのシリア人道支援・周辺国支援を実施に移しています。これに加え日本は,総額約1.2億ドルの追加的な支援を準備します。難民・避難民支援として,人間一人ひとりを大切にする人間の安全保障の概念に則った,女性・子供に対する支援,保健・衛生,教育,食料分野の支援の他,シリア復興信託基金への1,000万ユーロの拠出も含みます。また,昨年開始した,国際社会の支援の手が及ばない地域へのクロスボーダー支援も,引き続き着実に実施します。

御列席の皆様,

「ジュネーブ・コミュニケ」の着実な実施なくして,情勢の安定化はありません。今回初めて,シリアの政府と反体制派の双方が対話のテーブルで直接向き合います。我々は,この歴史的な機会を逃してはなりません。

美しいシリアを取り戻すために必要なのは,奪い合いではなく,話し合いです。日本も,「シリア国民連合」との対話を重ねながら,移行的な統治主体の設立を含むコミュニケの履行を促すべく,コミュニケに賛同する関係者同士の信頼醸成に取り組んでいきます。シリアの将来に責任を有する当事者間が立場の違いを越え,今後の国造りに向けて対話を促進することこそが,シリア全土で,安全で制限のない人道支援のアクセスが確保されることになり,目下最大の懸念の一つである過激派が跋扈する土壌を防ぐことにもつながると考えます。

また,紛争を解決し,平和構築を進めるに当たっては,シリアの多くの人々,とりわけ女性の参画を力強く後押しする必要があります。

御列席の皆様,

最後に,現在,シリアの化学兵器廃棄に向け,国際社会の努力が進められていることを歓迎します。日本も最大限の協力を行う方針であり,化学兵器禁止機関(OPCW)に,いつでも人員を派遣する用意があります。さらに,OPCWや国連への財政的支援として,約1800万ドルを準備しています。

本日ここに集った我々が,英知を結集して,この困難な問題の解決に糸口を見出すことにより,「ジュネーブ2」会議がシリアの人々に希望をもたらす機会となることを強く信じたいと思います。日本としても,積極的平和主義の下,国際社会の取組に責任を持って参加し,シリアの人々が再び平和で美しいシリアを取り戻すことができるよう,今後とも協力を惜しむことはありません。

御静聴ありがとうございました。