データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] GMF主催の国際シンポジウムにおける岸田外務大臣による基調講演 「日欧関係の新たな幕開けとしての2015年」

[場所] ブリュッセル
[年月日] 2015年1月21日
[出典] 外務省
[備考] 日本語仮訳
[全文]

レランド・ジャーマン・マーシャル・ファンド(GMF)共同議長,

皆様,

2015年は,日本と欧州にとって,そして世界にとって,節目の年です。世界の平和と繁栄に向け,誓いを新たに,行動を強化する重要な年です。ブリュッセルにおいて,2015年を日欧関係の新たな幕開けの年にしたい――この意志と具体的な方向性についてお話しできることを嬉しく思います。

1.安倍政権における日欧関係の飛躍的な進展

これまでの70年間,日本は一貫して,自由,民主主義,法の支配,市場経済,基本的人権の尊重等の価値と,それを実現する国連等の体制を尊重し,欧米とともにその擁護・強化に努めてまいりました。欧州自身も,これら価値やヘルシンキ最終文書に掲げられる基本原則を推進してきました。日本と欧州は,これら価値や体制から最大限の恩恵を受け,また,その擁護・強化のために共に行動してきたと言えましょう。

ある国にとって「重要な国」は,経済情勢や安全保障環境の変化によって,めまぐるしく変わるかもしれません。他方,「信頼できる国」は,一朝一夕では変わり得ません。信頼を勝ち取るには時間がかかり,また,言葉だけではなく,具体的な行動が伴わなければならないからです。日本が,価値や体制を擁護・強化し,国際社会の平和と繁栄に向けて行動する過程で,日本は,欧州そして世界の信頼を勝ち得てきました。私は,この信頼を,大変誇りに思います。

そして今や,この信頼に基づく関係を礎に,欧州は,安倍政権が推進する「地球儀を俯瞰する外交」の強力なパートナーです。

この確信の下,安倍政権発足以来,私は外務大臣として,積極的に対欧州外交を展開してまいりました。安倍総理とあわせて,欧州17か国を訪問し,40か国の首脳・外相と会談を行ってきました。

2.日欧関係強化の三つの柱

日本と欧州の協力関係を更に強化したい――私は,次の3つの柱を念頭に,そのように考えています。

(1)国際社会の平和と安定に向けた日欧協力

一つ目の柱は,戦後70年を迎える本年に強化すべき,国際社会の平和と安定に向けた日欧協力です。

日本は,先の大戦の深い反省のもとに,「20世紀の惨禍を二度と繰り返させまい」と決意し,ひたすら平和国家として歩んできました。そして,日本は,世界の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献していきたいと考えています。この決意こそが,「積極的平和主義」です。これは,安全保障に対する欧州の包括的アプローチと親和性が高く,日本が「積極的平和主義」を実践する上で,欧州は重要なパートナーであると確信しています。

今日の世界では過激主義や排外主義(xenophobia)が,表現の自由等我々の基本的価値を脅かし,人々の生活に大きな脅威を与えています。

先般のフランスでの卑劣な銃撃テロ事件はいかなる理由でも許されず,断固として非難します。テロとの闘いは,引き続き国際社会が全力で取り組んでいくべき課題です。テロとの闘いは,もちろんイスラムとの闘いではありません。イスラム諸国とともに国際社会が協力して取り組むべき課題です。

私はこの機会に,この分野における,三つのポイントからなる日本の今後の取組について表明します。まず第一に,ISILを始めテロリストが活動するアフリカ・中東のテロ対処能力向上のため,国連機関への拠出を通じて,約750万ドルの新規支援を供与します。第二に,2016年にG7議長国となることをも見据えて,欧州諸国をはじめとする関係国とのテロ対策協議を一層活発化させ,リーダーシップを発揮していきます。第三に,外国人テロ戦闘員の問題が深刻化していることを踏まえ,国際社会と連携し,テロ資金対策,出入国管理等,国内対策を進めます。

国際テロ対策に加え,日本はこれまでも,国際平和協力活動から,海賊対処に至るまで,様々な取組を通じて,世界の平和と安定に貢献してきました。

また,日本は,アフガニスタンで,警察支援を行うとともに,NATOと連携し,約150件のプロジェクトを実施してきました。アデン湾においては,自衛隊が,全体の6割に当たる警戒監視飛行を行っています。

以上のように,日本が世界の平和と安定のために行動する時,その側にはいつも,米国と共に,欧州の友人の姿がありました。イラクでは英国やオランダ,アフガニスタンではリトアニアの軍隊等とともに,汗を流しました。アデン湾において,フランスと連携して海賊船を拿捕したこともありました。

安倍政権発足以降,この分野における日欧協力が,更なる進展を遂げています。9月には自衛隊とNATO部隊,10月にはEUのCSDPミッション部隊との間で,初めて海賊対処の共同訓練が実施されました。また,女性・平和・安全保障分野での協力を促進するため,12月にNATO本部に女性自衛官を派遣したところです。

一方,ヘルシンキ最終文書に掲げられる基本原則が尊重されていない事態が,世界の各地で見受けられます。同文書に掲げられた基本原則は欧州だけでなく国際関係全体に当てはまるものです。同文書採択の40周年を迎える今,各国がこれら基本原則の重要性を再認識すべきと考えます。

現下のウクライナ情勢について,日本は,主権と領土の一体性を尊重し,力による現状変更は容認できないと考えます。G7の連帯を重視しつつ,ロシアに対し,平和的解決に向け建設的役割を果たすよう求めています。ウクライナに対しては最大約15億ドルの経済支援等を着実に実施中です。また,新たに約1660万ドルの支援を東部復興支援のために準備しているほか,ウクライナ経済安定化に向けて少なくとも3億ドルの支援を行う予定です。

アジア太平洋地域の安全保障環境も,一層厳しさを増していますが,日本の積極的平和主義と米国のアジア太平洋重視政策は,共に地域の平和と安定に貢献しています。

また,平和と安定に向けた多国間の取組が行われています。昨年秋のASEAN関連首脳会議では,東アジア首脳会議(EAS)を政治・安全保障について議論する地域のプレミアフォーラムとして強化すること,南シナ海における「法の支配」や,北朝鮮問題に関する核・ミサイル問題や拉致を含む人権問題への取組が重要であること等が議論されました。

更に,様々な機会を捉えて,日韓外相会談や,2年数ヶ月ぶりに中国との外相会談,そして首脳会談も実現してきました。日本は,対話のドアを常にオープンにしてきましたが,そのドアから一筋の光が見えつつあります。この光がアジア地域を明るく照らすよう努力を続けます。

アジア太平洋地域においても平和と安定が維持されるよう,欧州によるこの地域への一層のコミットメントを期待します。

(2)グローバルな課題への貢献

二つ目の柱は,グローバルな課題への貢献のための日欧協力です。2015年は,これら課題にとっても節目の年であるためです。

まず,ポスト2015年開発アジェンダの策定です。日本のODAは,昨年60周年を迎えました。これまでに190の国と地域に対して行った支援は,総額3000億ドル以上に上ります。策定中の「開発協力大綱」では,人間の安全保障の理念に立脚し,包摂性,持続可能性,強靱性を兼ね備えた「質の高い成長」を通じて開発を進める考えを打ち出します。日本は,政策・現場レベルの連携を積み上げてきた欧州と協力の下,新しい開発アジェンダの策定にもこうした考えを盛り込むことが重要であると考えます。また,防災分野について,今年3月,仙台で第3回国連防災世界会議が開催され,新たな国際防災指針であるポスト兵庫行動枠組も採択されます。EU・欧州各国からもハイレベルの参加を得て,会議を成功させる決意です。

2015年は気候変動に関する新たな枠組みをパリで採択する年でもあります。日本は昨年,緑の気候基金(GCF)に対し,国会の承認を得られれば,15億ドルの拠出を行う旨表明いたしました。公平かつ実効的な枠組み合意の採択に向けて欧州との間で協力していきたいと考えています。

次に,今年は,第4回世界女性会議から20周年を迎えます。国際シンポジウム「WAW!Tokyo2015」を開催すること等を通じて,日本は,欧州と手を携えながら,世界における「女性が輝く社会」づくりにイニシアティブを発揮します。

最後に,2015年は,広島・長崎への原爆投下から70年目であり,4月・5月には核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議も予定されています。「核兵器のない世界」の推進は,唯一の戦争被爆国である日本の重要な使命であり,広島出身の外務大臣である私にとって,長年の目標でもあります。欧州と連携しながら,同会議でしっかりした成果があげられるよう全力を尽くすとともに,イランや北朝鮮の核問題への対応等においても主導的な役割を果たしていきます。

(3)経済連携の推進を通じた日欧経済の更なる繁栄と世界経済への貢献

三つ目の柱は,日欧を含めた経済連携の推進です。2015年は, 日欧経済にとっても,節目の年となることが期待されます。

安倍政権発足以来,日本は,アベノミクスの「3本の矢」を放ち,確実に成果を上げつつあります。雇用は100万人以上増え,有効求人倍率は22年ぶりの高水準です。昨年春には平均2%以上給料が上昇し,これは過去15年間で最高となります。

この経済の好循環を力強く回転させていくのが,第三の矢たる「成長戦略」です。国内の構造改革により競争力を高めると同時に,広い経済圏に打って出ることにより海外の成長を取り込む,内外一体の改革の道を歩んでいます。経済連携の推進は,その重要な柱です。

日EUの貿易総額が,世界の貿易総額の約36%もの規模を誇る中,日EU・EPAの実現は,緊密な日EU貿易投資関係を双方向に深化・拡大させ,雇用創出,企業の競争力強化を含め,双方の経済成長に資するものです。更に,責任ある2大先進市場経済圏の統合は,世界経済の安定的な成長にも貢献します。

昨年11月,安倍総理とユンカー欧州委員会委員長との間で,2015年中の大筋合意を目指し,交渉を加速させることで一致しました。この目標は野心的ですが,日EU双方が英知を出し合って実現を目指したいと思います。

3.永き信頼に支えられた新たな日欧関係

最後に,私が,そして日本が目指す日欧関係をお示ししたいと思います。

冒頭で,日本と欧州の「信頼」について触れました。これこそが,これら3つの柱を中心とした日欧関係の未来を導くキーワードです。この信頼関係を礎に,新しいリーダーシップの下でのEU及びNATO,そして欧州各国とともに,世界の平和と繁栄のために行動していきたいと考えています。

日本と欧州,我々が協力することで,より良い変革をもたらす。

皆様と一緒に,節目の年である2015年を,日欧関係にとっても新たな幕開けの年にしていけることを心から祈念し,私の講演とさせていただきます。

どうも有り難うございました。