[文書名] 2015年NPT運用検討会議における岸田外務大臣一般討論演説
まず,巨大地震によって,ネパール及びその他の国において犠牲になった方々及び御家族・御友人に対し,深い哀悼の意を表します。
議長,
70年前,私の故郷広島において,一発の原子爆弾が13万人以上の尊い命を奪いました。残されたものも後遺症に苦しみ,多くの者がその後命を落としました。「被爆体験は思い出したくないが,2度と繰り返さないために忘れないようにしている。」これは多くの被爆者の思いです。もちろん政治指導者は自国を巡る安全保障環境について冷静な認識を持たねばなりません。同時に核兵器の非人道性についての正確な認識を持ち,理想を忘れない政治家であることが重要であると私は信じます。被爆地広島出身の外務大臣として,私は,被爆地の思いを胸に,この会議において「核兵器のない世界」に向けた取組を前進させる決意です。
議長,
世界にはいまだ1万6000発を超える核兵器が存在し,核軍縮・不拡散の取組を逆行させるような動きもあります。今こそ,核軍縮の動きを加速化していく必要があります。
議長,
日本は,唯一の戦争被爆国として,この会議を通じて,NPT三本の柱のすべてにおいて,NPT体制を更に強化して,「核兵器のない世界」に近づくことを重視しています。そのために,核兵器国と非核兵器国の双方に対し,共同行動をとることを求めます。特に,すべての核兵器国がNPT第6条に基づく特別な責任を誠実に果たすよう求めます。
核軍縮・不拡散の取組には近道はありません。核兵器国と非核兵器国が協力し,NPDIが提出した合意文書案にある,現実的かつ実践的な取組を積み上げることこそがとるべき道です。
議長,
私は,この会議において,以下の5点を重視します。
第一に,核戦力の透明性の確保です。核弾頭の数がわからなければ,核兵器削減交渉は成り立ちません。また,透明性の確保は,地域や国際社会における信頼醸成にもつながります。核兵器国には,数値情報を伴う具体的かつ定期的な報告を行うよう求めます。
第二に,あらゆる種類の核兵器の更なる削減や核兵器削減交渉の将来的な多国間化です。これまでの米ロの戦略核の削減だけではなく,核兵器を保有するすべての国がすべての核兵器を削減すべきです。
第三に,核兵器の非人道的影響の認識を共有し,「核兵器のない世界」に向けて結束することです。これは,核軍縮の原動力となります。本日も私の創設した「ユース非核特使」がこの会場に来ています。彼らにはここニューヨークで広島と長崎の惨禍を世代と国境を越えて伝達してもらっています。
第四に,世界の政治指導者及び若者の広島・長崎訪問です。核兵器国を含め,政治指導者や若者に広島と長崎を訪れ自らの目で被爆の実相を見ていただきたいと思います。本年7月30日から8月6日の間,関係の地方自治体及び民間団体の協力を得て,広島・長崎ピースプログラムとして,約2万4千人の世界の若者を被爆地にお迎えします。また,日本は,本年8月末に広島で国連軍縮会議や包括的核実験禁止条約(CTBT)賢人会合を,11月には長崎でパグウォッシュ会議世界大会を開催します。また,来年日本は主要先進国首脳会議の議長国として,サミット及び関係閣僚会合を開催します。その詳細は今後決まることになりますが,来年日本を訪れる各国の政治指導者にも被爆地に足を延ばしていただきたいと思います。
第五に,地域の核拡散問題の解決です。北朝鮮による核・ミサイル開発の継続は,国際社会全体の平和と安全への重大な脅威であり,NPT体制への深刻な挑戦です。我々は,北朝鮮に対し力強いメッセージを発出すべきです。日本は,イランの核問題の主要な要素の合意を歓迎し,最終合意の達成に向け,外交努力を強化します。これらの解決のためにも,IAEA追加議定書の普遍化を含め,IAEA保障措置や輸出管理の強化も重要です。また,中東非大量破壊兵器地帯の進展を期待し,日本も引き続き尽力します。
議長,
この会議の成功のためにも,NPT3本柱の1つである原子力の平和的利用は重要です。日本はより多くの人に,医療,農業,水資源を含むより幅広い分野で,より安全に原子力技術の恩恵を届けるよう,平和利用イニシアティブ(PUI)に対し,向こう5年間で総額2500万ドルの拠出を行います。また,福島第一原発事故を踏まえ,国際的な原子力安全の強化に貢献していく考えです。
議長,
会議開始に当たり,ここにいる我々一人ひとりが被爆者の「核兵器のない世界」に向けた強い思いを共有し,今次会議が充実した成果を上げることを強く期待します。また私自身,唯一の戦争被爆国の外務大臣として,また,本年9月のCTBT発効促進会議共同議長として核軍縮推進への決意を新たにし,私のスピーチを終わります。ご静聴ありがとうございました。