データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第61回パグウォッシュ会議世界大会 岸田外務大臣挨拶(黄川田政務官代読)

[場所] 長崎
[年月日] 2015年11月1日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

ダナパラ会長,

御列席の皆様,

はじめに,ダナパラ会長を始め,本件会合の開催に尽力された関係者の皆様に敬意を表します。

(被爆の実相)

パグウォッシュ会議は,これまで核兵器の拡散を防ぎ,核廃絶の早期実現を目指す道筋と目標を見定めるために,様々な議論や提言を行ってきたと承知しています。被爆から70年の節目に,ここ長崎においてパグウォッシュ会議が開かれることは,「核兵器のない世界」に向けた決意を高める上で大きな役割を果たすと思います。

今や長崎は,近代化を成し遂げ,かつて焼け野原であったとは信じられないほどの発展を遂げましたが,70年前,ここ長崎,そして私の故郷広島では,原子爆弾により一瞬にして20万人以上の尊い命が奪われ,きれいな街並みが廃墟と化しました。その後も,多くの方が後遺症に苦しみ,亡くなっていきました。

御列席の皆様の多くは,今朝,被爆者から講話を聴講され,平和公園や原爆資料館,城山小学校等を訪れられ,被爆の実相に触れられたと承知しています。本日,この場にも被爆者の方々がいらっしゃっていますが,被爆者の平均年齢は80歳を超えました。被爆の記憶を風化させてはなりません。我々は,核兵器廃絶を成し遂げたいという被爆地・被爆者の強い思いを,世代と国境を越えて継承していく必要があります。

(日本の取組)

核軍縮・不拡散の取組については,現在の厳しい安全保障環境を踏まえ,目の前に存在する核リスクに対する冷静な認識を持った上で,現実的かつ実践的な取組を着実に積み重ねていくことが不可欠ですが,その出発点として,核兵器の非人道性に対する正確な認識が必要です。

本会議には,様々な国から政治家,専門家が出席されていますが,私は,唯一の被爆国日本の,被爆地出身の外務大臣として,核兵器国を含め,世界のより多くの指導者に被爆の実相を知っていただきたいと考えており,引き続き,積極的に,世界の指導者に協力を呼び掛けていきます。

日本は,唯一の戦争被爆国として,非核三原則を堅持し,また,核兵器の惨禍をどの国よりもよく知っていることから,「核兵器のない世界」に向けて,これまで国際社会の取組を主導してきました。本年9月からはカザフスタンとCTBT発効促進調整国を2務めます。また,来年4月にはG7議長国として広島で外相会合を開く予定です。日本は,このような枠組みや様々な国際会議の機会等を通じて,核兵器国と非核兵器国,双方の協力を引き続き求めつつ,「核兵器のない世界」の実現に向けて,一層の努力を積み重ねていきます。

(我が国提出核兵器廃絶決議)

本年5月に行われた核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では,残念ながら最終合意に至らず,将来の核軍縮・不拡散の指針を示すことができませんでしたが,我々は「核兵器のない世界」に向けた取組を怠ることはありません。

先日,日本は「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」と題する決議案を,国連総会第一委員会に提出しました。核軍縮を進めるためには,核兵器国と非核兵器国が協力しながら,具体的かつ実践的な措置を着実に積み重ねることが何より重要との考えから,被爆70年を機に,新たな決意で核兵器廃絶に向けて取り組むよう,各国に呼びかけるものです。決議案の採択は明日以降に行われる予定ですが,日本としては,本決議案を通じて「核兵器のない世界」に向けた機運を一層高めていきたいと考えています。

今やるべきことは,NPT体制の更なる強化に向けて努力し,次回のNPT運用検討会議の成功につなげることです。日本は,引き続き,そのために最大限努力していきます。

(パグウォッシュ会議からのノーベル平和賞寄託)

本年は,被爆70年に加え,パグウォッシュ会議発足の元となった「ラッセル・アインシュタイン」宣言が行われてから60年,パグウォッシュ会議がノーベル平和賞を受賞して20年の節目でもあります。

今朝,パグウォッシュ会議から,被爆者を始めとする被爆地取組に敬意を表し,パグウォッシュ会議が受賞したノーベル平和賞のメダルのレプリカが長崎と広島に寄託されました。今回,両都市におけるこれまでの取組が,世界から評価されたことを,喜ばしく思います。このような節目の機会に,このような式典が行われることは,核軍縮・不拡散の機運を更に高めることにもつながると思います。

ある被爆者は,人類の叡智が開発した「核」の脅威こそ,全人類が生き残っていくために一日としておろそかにできない重大な問題であると述べましたが,私は,この問題は,例え年月がかかろうとも,人類の叡智によって必ず解決できる問題であると信じています。

「ラッセル・アインシュタイン」宣言では,ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士を始め,世界の著名な科学者が名を連ね,平和に向けた科学者,市民の責任について述べられました。

「私たちの前には,もし私たちがそれを選ぶならば,幸福と知識の絶えまない進歩が」あります。人類は,弛みない科学の発達により,様々な課題を乗り越えてきました。核軍縮・不拡散において我々が直面する種々の課題も,必ずや乗り越えていける,そう思います。本日ここに御列席の科学者,軍縮・不拡散の専門家の皆様には,是非会議を通じて,「核兵器のない世界」,そして「幸福と知識の絶えまない進歩」に向けた議論を深めていただきたいと思います。

(結び)

これから5日間,皆様の議論が有意義なものとなり,ここ長崎から,実りある成果が世界に発信されることを願い,私の挨拶を終えさせていただきます。御静聴ありがとうございました。