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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連安保理公開討論「アフリカにおける平和構築」における岸田外務大臣ステートメント

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2016年7月29日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1 冒頭

潘基文国連事務総長,アミナ・モハメド・ケニア外務長官及びスメイル・チェルギAU平和安全保障委員による有益かつ示唆に富んだブリーフに謝意を表します。本日の安保理公開討論に参加したアンゴラ,フランス,マレーシア及びセネガルの閣僚にも感謝します。

まず,何故,「アフリカにおける平和構築」を取り上げるのでしょう。答えははっきりしています。アフリカ及びその人々は豊かな文化・伝統,将来の成長に向けた大きなポテンシャルを有しています。それにもかかわらず,紛争や衝突,テロに苦しむアフリカ諸国があるからです。

ご承知のとおり,南スーダン共和国は,大きな困難に直面しています。日本のPKO要員は各国の要員とともにUNMISSに参加していますが,UNMISSは,設立当初は制度構築に焦点を置き,国造り支援を実施するための平和の定着に向けた努力を支援することをマンデートとしてきました。情勢の変化により,UNMISSは現在,文民の保護等の喫緊の任務を中心に取り組んでいます。衝突が続く国において,いかに制度構築にも取り組むか,という課題に一緒に知恵を絞っていきたいと思います。

紛争の予防・再発防止よりも紛争が発生した後の状況に対応する方がより多くの取組とリソースが必要となります。このため,アフリカの平和と安定に資する国家制度を構築できるかは極めて重要です。

この公開討論では,紛争予防において特に重要な,制度構築の役割に着目した議論を行うことを御願いしたいと思います。今後の方向性や教訓を導くための実践的議論を期待しています。

2 平和構築に関する日本の基本姿勢

まず,アフリカの平和構築に係る日本の(取組に関する)3つの原則について触れたいと思います。

(1)第一に,「人」と「現場」の重視です。現地の人と共に歩み,現場の「人」を育てます。

(2)第二に,平和の基礎となる包摂的な経済開発による生活水準向上を重視しています。

(3)第三に,多様性に対する寛容です。日本は,普遍的価値を重視すると同時に,性急な結果を求めず,民族多様性,現地のオーナーシップの重要性を尊重します。

これらの原則は,TICADプロセスの基本理念である「オーナーシップ」と「パートナーシップ」に合致します。8月にケニアで開催されるTICAD VIは,開発を通じてアフリカの平和構築を後押しする好機となります。日本は,国連等も参加する幅広いパートナーシップに基づくTICADの開放的なプロセスを通じ,アフリカと関与し続けます。

3 今後のアフリカ平和構築の4つの鍵(制度,人材,信頼,革新)

上記の原則を踏まえ,次の4つの観点から,日本はアフリカの平和構築に取り組んでいきます。

第一に,我々の支援の中心は,各分野でアフリカの多様性や特性,伝統的制度を尊重した形で制度を構築することです。日本は,チャドにおいて選挙制度の運用強化,選挙紛争処理制度の設計等を支援してきました。この点,現地事情に理解の深い地域機関と連携することは重要です。

第二に,制度を実際に機能させる「人」造りを支援します。暴力・恐怖を絶つためには地域の警察官の育成が必要です。日本はコンゴ民主共和国で同国の警官2万人以上に対する警官研修を支援しました。また,日本は法制度に関わる人材育成の促進のためにアジア・アフリカ法律諮問委員会(AALCO)と協力していきます。

第三に,平和を維持するために,制度に加えて,「信頼」を構築することが重要です。日本は,コートジボワールにおいて,行政・住民間の信頼回復を目的として,社会統合に配慮した行政サービスの能力強化を支援してきました。

最後に,平和構築の手法を「革新」することが必要です。科学技術を活用する余地は大いにあります。日本は,北アフリカにおいて,国境管理及び治安対策を強化するため,高性能監視カメラの導入を支援しました。日本は,産業人材育成を拡充し,アフリカにおける産官学連携を通じてアフリカにおける平和構築に貢献します。

4 結語

平和構築を進めていくためにも,テロへの対応の協力強化も重要です。アフリカにおけるテロ対処能力向上のため,日本が2016年から2018年までに,3万人への人材育成を含む1.2億ドルの支援を実施することを発表します。こうした支援は,アフリカ各国の情報収集能力強化,国際空港等における先端技術を活用した国境管理能力強化,刑事司法執行や警察の能力強化をはじめとする治安能力強化を目的としています。

平和構築のシームレスな移行のためには縦割りの打破が不可欠です。国連全体,各国政府・市民社会等全ての関係者の長期的取組が必要です。

広島出身の外務大臣として,平和には特別の想いがあります。第二次大戦後,日本は自国の伝統的制度の良いところを維持しつつ外国に学び制度の再建を進めてきました。アフリカにおける平和構築の更なる取組の中で,日本のこうした経験について引き続き考えていきたいと思います。

最後に,アフリカの平和と安全への日本の強いコミットメントを改めて強調したいと思います。本日の公開討論における議論を,ナイロビで開催されるTICADVI等において十分活かしていきたいと思います。