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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸田外務大臣と語る「力強く復興している東北の魅力をグローバルに発信するには」基調講演

[場所] 
[年月日] 2017年1月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 力強く復興している東北の魅力をグローバルに発信するには」岸田外務大臣基調講演1.冒頭ご紹介にあずかりました外務大臣の岸田文雄です。シンポジウムを開催するにあたり,共催していただきました東北大学及び河北新報社の皆様に心から厚く御礼申し上げます。

 昨日朝,ここ東北地方において地震が発生し,津波が発生しました。影響を受けた全ての方々に,心からお見舞いを申し上げます。

 このような地震が発生した中ではありましたが,まさに復興を後押しすることが重要との考えから,ここ宮城県を訪れました。日本の魅力を発信するために,外務省は様々な取組を進めております。日本の地方には様々な魅力,個性,文化があります。これらの地方の魅力を世界に伝えていくことが重要です。これまでも,飯倉公館や在外公館を活用し地方を紹介する取組を行ってきましたが,今回は一歩前進し,私自ら駐日大使と共に地方に赴き,地元の方々と意見交換し,地方の魅力を世界へ発信していきたいと思います。今回の訪問は,地方の魅力をグローバルに発信する新たなプロジェクト「地方を世界へ」の第一弾です。

 本日,私からは,外務省の地方の魅力発信に関する新たな取組として「地方を世界へ,世界を地方へ外交アクションプラン」を発表させていただきます。

 この「外交アクションプラン」は,①「地方産品販路拡大プラン」,②「訪日観光促進プラン」,③「国際交流促進プラン」の3本柱で構成されます。これらのプランの下,様々な外交ツールを活用して地方の魅力を世界に発信していきます。

2.地方産品販路拡大プラン第一の柱は「地方産品販路拡大プラン」です。

 まず,私自身が先頭に立ち,地方の優れた産品を世界に売り込みます。これまでも外務省は,駐日外交団等に地方の魅力を発信するレセプションを地方自治体の首長と共催により東京及び在外公館にて開催してきました。

 また,「世界一開かれた在外公館」をスローガンとして,全世界215か所の在外公館を活用し,地方企業の製品や農水産物をプロモーションしていきます。昨年度,在外公館では日本企業支援の一環として広報支援を約2,500件実施しました。この数字を2020年までに5,000件へと倍増させることを目指し,在外公館において様々なプロモーションを行っていきます。

 来年には,ロンドン,ロサンゼルス,サンパウロの3都市でジャパン・ハウスが開館します。ジャパン・ハウスは,現地の専門家や民間の方々の力を活用し,日本の多様な魅力をオールジャパンで発信する拠点です。大都市の中心地,一等地に場所を構えて,ワンストップで「見る」「聞く」,「食べる,「買う」という総合的な体験ができる場を作ります。日本の各地域の伝統や価値観をプロモーションの中心にすえ,より魅力的かつ効果的な発信を目指します。ジャパン・ハウスでは,既に日本に関心を持っている方以外に,普段日本に関心を持っていない人にも情報を発信していくことを目指しています。

 さらに,政府開発援助(ODA)を活用し,開発途上国の発展に資する地方企業の製品や技術の海外展開をサポートしていきます。本日パネリストとしてご出席の岩佐さんがCEOを務める会社のインド進出を,ODAを通じて後押しさせていただいたこともあります。現在,現地生産されたイチゴは現地高級ホテルに納品される等,人気を博しています。同時に,インドの農村地帯の雇用創出や貧困削減にも貢献しています。

 東日本大震災後の日本産品の輸入規制については,政府が前面に立って取り組んでいきます。これまで19か国で規制撤廃が実現しましたが,一部の国・地域では規制が維持されております。例えば宮城県産のホヤは韓国に輸出することができません。本件は,現在WTOにおいて議論されていますが,外務省もしっかり対応していきます。また,規制を行っている政府の規制当局者を日本に招へいし,被災地において食品安全検査の現場視察等を行い,規制の撤廃を働きかけるという取組も行っていきます。

3.訪日観光促進プラン第二の柱は「訪日観光促進プラン」です。東北6県の外国人宿泊数は震災前とほぼ同水準に回復しましたが,全国的には,1,000万人から2,000万人に外国人旅行者が増え,2020年までに4,000万人に増やすという目標を掲げている中,外国人宿泊者数が震災前に戻ったことで喜んでいてはいけません。東北においてはもっとインバウンドを増やしていかなければなりません。

 このような認識の下,ビザの緩和を積極的に進めていきます。例えば,中国人個人観光客については,一回目の訪日で宮城・福島・岩手3県で宿泊する場合には,数次ビザを発給する措置を取っています。今後も,訪日観光客誘致の重点国である中国,フィリピン,ベトナム,インド,ロシアを中心にビザ緩和を戦略的に実施し,地方を訪れるリピーターを増やします。

 これまで,海外のメディア関係者を招へいし,山元町のいちご農園や塩釜市の水産業を取材し,おいしい東北の食材を伝えたフィリピンの記者,れんこんそばや南部鉄器を取材した中国記者,大内宿の歴史的な町並みや東北の温泉を取材したインドネシア記者などが,東北の多様な魅力を世界に発信してきました。過去5年間で87か国から174名の記者,11のテレビチームが東北を取材しましたが,今後,このような招へい事業における東北訪問を促進していきます。

 在外公館を積極的に活用し,地方の観光地の魅力発信にも努めていきます。宮城県は中国の東北地方との経済交流を重視する観点から,大連に現地事務所を設置されていますが,在大連領事事務所とJNTO(日本政府観光局)の共催で日本観光展を開催した際,宮城県大連事務所にも観光ブースを設置していただきました。

 奥山市長はタイから仙台への観光誘致に積極的に取り組まれていると承知しておりますが,これからも自治体のニーズに一つ一つ応えていきますので,在外公館をぜひ積極的に活用していただければと思います。

4.国際交流促進プラン第三の柱は,「国際交流促進プラン」です。青少年交流,スポーツ交流を実施する際に地方を訪れ,地方の魅力に触れてもらうというものです。

 震災後,東北地方とアジア大洋州・北米地域の青少年交流事業「キズナ強化プロジェクト」を行い,1万人以上の若者が交流を深めました。現在はこの精神を受け継ぐ形で,北米地域との青少年交流事業「カケハシ・プロジェクト」を実施しています。今年1月には,米国の大学生が宮城県を訪問し,東北大学での学術交流やホームステイ等を行いました。

 「カケハシ・プロジェクト」では,日本の若者の訪米事業も実施しています。今年3月には,東北大学を含む12の大学から213名が米国を訪れ,現地大学生との交流等を行いました。

 また,東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け,スポーツを通じた国際協力や国際交流を実施することとしています。その一環として外務省としても,昨年ベトナムの障害者水泳チームを招へいし,宮城県で合宿を行いました。このような取組をしっかりと進めていきたいと思います。

 防災との関係では,2015年3月,「第3回国連防災世界会議」が仙台市で開催されました。外務省としても,地方における国際会議の誘致をサポートしていきます。

 なお,姉妹都市交流については,仙台市では,中国の長春市や韓国の光州広域市など7つの自治体と姉妹都市関係を結ばれていますが,こうした交流を外務省としても支援していきたいと思います。

5.「外交アクションプラン」の総括地方の魅力を世界に発信する主役は,地方自治体,あるいは地方に暮らす皆さま一人一人です。今回発表する「外交アクションプラン」は,外務省の持つ様々な外交ツールを最大限に活用し,地方の皆様の取組を後押ししていくためのものです。是非外務省の取組に御理解いただき,ご指導いただければと思います。

6.日本外交今年は,8年ぶりに日本がG7サミット議長国となり,5月には,オバマ米国大統領が広島を訪問しました。また日本は国連安全保障理事会の非常任理事国となり,北朝鮮問題など国際的な課題に責任を担って活動しております。今後は,来年1月に就任するトランプ新米国大統領がどのような政策を進めるのか注目されています。今の段階で予断を持って具体的な施策に言及することは控えますが,いずれにせよ,日米両国は71年間かけて自由,民主主義,法の支配,人権といった基本的な価値を大事にしながら関係を構築してきました。これを基礎として政策を考えていきたいと考えております。

 今月17日には,世界の首脳の中で最初に,安倍総理がトランプ次期米国大統領と会談を行いました。今後,強い信頼関係を築いていく上で,大きな一歩を踏み出す会談となったと思います。

 12月にはロシアのプーチン大統領の訪日があります。ロシアとの関係においては,戦後71年経っても平和条約が締結されていないという異常な状況があります。平和条約を締結することは,戦後の日本に残された最大の外交課題の一つです。12月のプーチン大統領の訪日で,是非前進させたいと思います。

 また,年内に日中韓サミットを是非実現させたいと考えております。3か国の間には難しい課題もありますが,昨年3年半ぶりに日中韓サミットが開催されました。今年は日本が議長国となります。日中韓の3か国で世界のGDPの4分の1近くを占め,大きな経済力を有しています。日中韓の関係が安定することは,地域,ひいては国際社会全体の利益にもなります。こうしたことからも,年内に日中韓サミットを実現したいと思います。

 日本外交には様々な課題がありますが,大事なのは国民の皆様の御理解を得,応援して頂きながら外交を進めていくことです。外務大臣として,この点を心からお願いし,私の基調講演とさせていただきます。