データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2020年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第1回準備委員会における一般討論演説

[場所] ウィーン
[年月日] 2017年5月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

議長御列席の皆様

 我々は,2020年NPT運用検討会議に向けて協力し,同会議を成功に導くとの固い決意を胸に本日ウィーンに集まりました。2020年は,NPTの発効から50年,広島・長崎への原爆投下から75年の節目の年です。

 被爆地広島出身の外務大臣として,私は,2012年の就任以降,唯一の戦争被爆国としての使命と被爆地の思いを胸に,2015年のNPT運用検討会議等の場を通じ,核兵器のない世界の実現に向けた努力を主導してきました。

 本日,私は,核兵器国と非核兵器国の対立が一層深刻化する今日こそ,2020年NPT運用検討会議の成功が重要だということ,そしてそのための日本の方針と行動について説明します。議長まず,私は,核兵器のない世界の実現を訴えてきた被爆者の方々や被爆地の努力に対し心より敬意を表します。また,核兵器の非人道性の議論を推進している世界中の市民社会の努力も称えたいと思います。非人道性への認識は,核兵器のない世界に向けての全てのアプローチを下支えするものです。

 他方で,北朝鮮は昨年以来2回の核実験及び30発以上の弾道ミサイル発射を強行し,その開発は今や新たな段階を迎えており,地域を超えて国際社会に対する現実の脅威となっています。それは,NPTを中心とする国際的な軍縮・不拡散体制に対する挑戦であり,強く非難されなければなりません。核兵器のない世界に向けての努力は,北朝鮮情勢をはじめ,厳しさを増している安全保障環境を考慮しつつ,現実的に進めていく必要があります。

 私は,このような核兵器使用の非人道性に対する正確な認識と厳しい安全保障環境に対する冷静な認識という2つの認識を踏まえた上で,核兵器国と非核兵器国双方を巻き込んでいくことこそが,核兵器のない世界につながるものと確信しています。議長現在,核兵器のない世界に向け,核兵器国の間,核兵器国と非核兵器国の間,更に非核兵器国の間においても立場の対立が顕著なものとなっています。私は,こうした現状に対し,核兵器国と非核兵器国をつなげ,信頼関係を再構築していく方途として,特に以下の3点を訴えます。

 第一に,透明性の向上を通じた信頼構築です。包括的核実験禁止条約(CTBT)の下での国際監視制度(IMS)の能力向上を通じた核実験の確実な検知,核兵器国の核戦力の報告,核兵器につながり得る核分裂性物質の保有の公表等は,核兵器国と非核兵器国の信頼構築につながるものです。この会議において,日本はCTBT,透明性に関するサイドイベントを開催しますが,それはそうした考えに基づくものです。多くの皆様の参加を歓迎します。

 第二に,安全保障環境を向上し,核兵器の保有の動機の削減につなげることです。北朝鮮問題に関しても,朝鮮半島の非核化を実現するための外交努力を,日本は率先して続けていきます。

 第三に,被爆の実相や拡散のリスクへの認識の向上です。核兵器国,非核兵器国を問わず,また,政治指導者や若者を含む多くの人々が,被爆の実相に触れ,多様化する核リスクを正確に把握することが,核兵器のない世界の共通の基盤を作ることにつながると私は確信しています。

 議長このように核兵器国・非核兵器国の間の信頼関係を再構築しつつ,CTBTの早期発効や核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始を実現し,核兵器の質的・量的向上の制限をかけ,国際的に信頼できる検証体制の構築に向け努力を傾注しつつ,核兵器の数を着実に減らしていく。こうして,極めて低い数まで削減された「最小限ポイント」に達した段階で,核兵器のない世界の達成及び維持のための法的枠組みを導入することにより,核兵器のない世界という目標にたどり着く,これが日本の考える核兵器のない世界への道筋です。核兵器禁止条約を現下の状況で持ち出して,核兵器国と非核兵器国の対立を一層深刻化させるのではなく,このアプローチこそが現実的で実践的な核兵器のない世界への近道だと確信します。核兵器を廃絶する法的枠組を持ち出すタイミングを間違えてはなりません。

 NPTは,こうしたアプローチの基礎となる我々の共通項であり,核軍縮を推進する重要な手段であるといえます。故に,日本は引き続きその普遍化を求めていきます。議長2015年の運用検討会議において,私は,核兵器のない世界に向けての「5つの原則」を訴えました。また,同運用検討会議において,NPDIは会議に貢献しました。2020年に向けてのプロセスにおいても,NPDIは主導的な役割を果たしていきます。

 この委員会において,NPDIとして,透明性,北朝鮮の核・ミサイル問題を始めとする6つもの作業文書を提出したことをお伝えします。そして,日本は,様々なアプローチを有する国々が実践的な核軍縮措置を建設的に議論していくよう引き続き尽力していきます。その手始めとして,具体的に以下の3つの取組を行います。

 年内に核軍縮に知見を有する核兵器国と非核兵器国双方の有識者を日本に招いて賢人会議を設立し,核軍縮の実質的な進展に資する提案を得て,次回の準備委員会に報告します。CTBTの発効促進に貢献すべく,本年中にCTBTのアジア・太平洋・極東地域会合を開催します。

被爆の実相の認識を世代と国境を越えて広げるため,ユース非核特使の国際的なネットワークとCTBTユースグループの連携をはかります。また,広島・長崎への1,000名招へい計画を具体化していきます。

 議長核兵器のない世界を実現するためには,核軍縮と合わせて核不拡散の取組を進めることが不可欠です。北朝鮮に対しては,関連する国連安保理決議及び六者会合共同声明を遵守し,全ての核兵器及び既存の核・ミサイル計画を完全な,検証可能なかつ不可逆的な方法で放棄するとともに,NPT及びIAEA保障措置に早期に復帰するよう,改めて強く求めます。また,不拡散の取組には,国際社会の一致した協力が不可欠です。日本は引き続き,アジア等における能力構築を通じ,地域及び国際的な不拡散・輸出管理強化に向けた取組を促進していきます。

 また,イランとEU3+3との包括的共同作業計画(JCPOA)が着実に履行され続けることが極めて重要です。その履行を支援する観点から,日本は,IAEAを通じた原子力安全分野の協力のために55万ユーロ,保障措置分野の協力のために150万ユーロの自発的な拠出を行っています。

 また,日本は世界の核セキュリティ強化のための能力構築に引き続き貢献していきます。核セキュリティ強化の中心的役割を担うIAEAに対し,約64万ユーロを新たに拠出するとともに,本年の核セキュリティに関する最もハイレベルの国際会議である核テロ対策国際会議(GICNT全体会合)を,86か国・5国際機関を招き,来月東京で開催します。

 議長NPT体制の維持・強化に向けては,その三本柱の1つである原子力の平和的利用促進のための国際協力を進めることも不可欠です。日本は,IAEAの平和的利用イニシアティブ(PUI)に対し,2015年の運用検討会議以降も約1,300万ドルを拠出し,アジアにおけるデング熱対策,アフリカの食糧安全保障の改善,中南米カリブ地域での放射線医療技術の向上等,48か国を対象として31のプロジェクトを支援しています。原子力科学技術の先進国として,引き続き貢献していきます。

 議長NPTは,核軍縮・不拡散の礎石です。そして,NPTを基軸に築かれてきた体制は,締約国や市民社会によるあらゆる努力やアプローチを包摂し,我々を団結させ,そして世界の平和や安定と共に核廃絶をもたらすものです。日本は核兵器のない世界を目指す全ての諸国と協力して,2020年の運用検討会議の成功に向け全力を尽くす決意を改めて訴えます。