[文書名] 岸田外務大臣と語る:北陸・石川県の魅力を世界に発信 基調講演
1.冒頭
昨年12月に山口で行われた日露首脳会談の結果,四島で共同経済活動を行うための「特別な制度」に関する協議の開始で合意し,また,元島民の方々の墓参の手続を改善することで一致しました。そして,平和条約問題を解決する両首脳自身の真摯な決意が表明され,平和条約の締結に向けた重要な一歩となったと考えております。
共催団体である国立大学法人金沢大学,株式会社北國 (ほっこく)新聞社を始め,パネリストの皆様,その他実施に当たり御尽力いただいた関係者の皆様,本日御来場の皆様に御礼申し上げます。
今回は,外務省による地方の魅力を発信するプロジェクト「地方を世界へ」の第五弾として,石川県を訪問しています。外交団の皆様と全国各地を訪問してきましたが,日本の魅力はまさに地方にこそあると実感しており,これを外務省として世界に発信していくことが重要と考え,このような取組を精力的に行っています。
ここ金沢には2015年3月に北陸新幹線が開通し,首都圏からのアクセスが格段に向上しました。昨日,ヨーロッパ,中南米,ニュージーランド,オーストラリア,韓国の外交団,谷本県知事,山野市長等と一緒に地方の魅力発信について意見交換をさせていただきました。その中で,北陸新幹線の開通によりJRの利用客数は約3倍,また,クルーズ船の入港は50〜60隻という数まで増加しているという現状をうかがいました。皆様も,観光客数の増加を実感されていることと思います。まさに,私自身,昨日各国の外交団とともに,「金沢百万石まつり」に参加し,その大盛況ぶりに感嘆したところです。
本日は,北陸・石川県の魅力を更に発信にしていくにはどうすべきか,また,北陸・石川県の皆様と世界がどのように繋がっているのか,という点についてお話しいたします。
2.北陸・石川県の魅力発信
北陸地方は古くより日本海交易の要所として栄え,人や 文化の交流において重要な役割を果たしてきました。現代でも,韓国,中国,ロシアなどを結ぶ「環日本海圏」の要として更に重要性を増していくことになると考えております。その意味からも更に多くの世界の方に北陸,石川を訪れてもらい,その魅力を体験していただきたいと考えています。
日本を訪れる外国人の数は,2016年には過去最高の約2,400万人を記録しました。私が外務大臣を務めてきたこの4年間でほぼ3倍に増加したことになります。昨年,石川県に宿泊した外国人の延べ人数は,約62万人と,こちらも4年前に比べ約3倍となっています。ただ,石川県の観光資源のポテンシャルに鑑みれば,更に数を伸ばし,様々な側面で石川を楽しんでいただくことができるのではないかと思います。
外務省は,このために様々な取組を行っており,その一つが,外国人が訪日する際に必要なビザの緩和です。例えば,石川県を訪れる外国人の中で上位を占める中国人に対しては,先月8日,数次ビザの経済要件の引下げを含む更なるビザ緩和を行いました。
また,ロシアについても,今年1月に観光目的の訪日客への数次ビザの導入等を行ったこともあり,訪日観光客数が急増しています。今後とも地方を訪れる外国人観光客の増加に向け,積極的にビザ緩和を進める所存です。
また,外務省は,今年2月に金沢市等の地方自治体との共催で,東京にて駐日外交団,駐日商工会議所,企業関係者等を対象に地域の魅力を発信するセミナーを開催し,金沢大学に在学する留学生にも,金沢の魅力を伝えていただきました。その際に設けられた金箔貼り体験コーナーは大好評だったと聞いています。私も昨日,外交団とともに体験し,金沢の伝統工芸の魅力を実感しました。
金沢の金箔といえば,2月に安倍総理がアメリカを訪問した際に,トランプ大統領にお持ちした贈呈品は,金沢箔の手許箱(てもとばこ)とボールペンでした。トランプ大統領に金沢の伝統工芸の魅力に触れていただき,大変喜ばれました。石川の文化,美意識を凝縮した「贈呈品」が,実際の外交の現場で重要な役割を果たしているのです。
さて,北陸地方にも世界的に評価される様々な地域や伝統文化が数多くありますが,ここで,北陸の魅力が世界で認められた例を御紹介します。2011年,「能登の里山里海(さとやま・さとうみ)が,「国連食糧農業機関(FAO:ファオ)」によって日本で初めての「世界農業遺産」に認定されました。これは,里山里海の多様な生物資源,農山漁村の原風景,そして「キリコ祭り」など農林水産業と結びついた文化全てが世界で高く評価された証です。今後とも,北陸をはじめとする日本の魅力発信に向け,外務大臣として全力を尽くします。
3.SDGs
ここで少し視点を変え,これから北陸に暮らす皆様と国 際社会がどう関わっていくか,という角度からお話をさせていただきます。
現在の世界は,貧困,飢餓など一国では解決できない問題であふれています。一昨年,国連は,2030年までに貧困に終止符を打ち,持続可能な未来を実現すべく,「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」等の17個の「持続可能な開発目標(SDGs)」を決定しました。私も,総理を本部長とする日本政府の推進本部の副本部長として尽力しています。
国連の目標なんて自分たちには縁遠いと思われるかもしれません。しかし,この目標は,途上国だけではなく,先進国も達成すべきものとされており,格差をなくすことや女性の活躍など,日本として真剣に取り組むべき課題も含まれています。また,この目標は,政府だけでなく,企業,NPO,更には国民一人一人が,自分のこととして取り組むべきとされています。そしてまさに,ここ北陸・石川県は,そのような取組をリードしているのです。
たとえば,金沢の環境装置メーカーの明和工業は,ゴミや排泄物から肥料を産み出す独自の技術で,アフリカの環境や農業の問題を支援し,SDGs達成に社を挙げて取り組んでいます。同社は昨年ケニアで開催されたTICADⅥにも参加し,私もブースを訪問いたしました。
また,金沢工業大学では,本日パネリストとしてご参加頂いている平本督太郎(とくたろう)先生を中心に,日本企業の先進的なSDGsの取組を表彰する「SDGsビジネスアワード」という,日本初の大変ユニークな取組をされています。
更に,金沢青年会議所は,SDGs達成に向けた国際青年会議所「金沢宣言」を受けて,昨年からアジア各国の青年会議所を集めて「JCI金沢会議」を開催しています。 2030年の世界に向けたSDGs達成のために,若い世代の人たちが率先して取り組んでいることに感銘を受けました。
国連の掲げるSDGsの中に新たなビジネスチャンスを見いだそうとする動きは,地元企業が成長し,地域活性化に繋がるという意味でも重要です。SDGsとは,まさに,地方を含め,「日本を元気にし,世界を元気にする」取組だと思います。
実は,SDGsは,「お笑い」の世界にも拡がっています。先日,吉本興業の社長が私のところに来られ,SDGsの広報に積極的に取り組み,「笑い」を通じてSDGsの垣根を低くする役目を担いたいと仰っていました。
吉本興業は,2009年から毎年4月,沖縄にて映画祭を開催してこられたのですが,今年は新しい試みとしてSDGsの紹介に取り組み,その一つが,スライドにあります「そうだ(S)!どんどん(D)がんばろう(G)!スタンプラリー(S)」です。
これは,吉本の芸人さんが持ちネタに絡めて17の目標を説明するスタンプラリーです。例えば,目標3は「すべての人に健康と福祉を」ですが,昨年大ヒットした「パーフェクト・ヒューマン」で有名なオリエンタルラジオの藤森さんが「いくつになっても健康がうぃいねぇ〜!」と持ちネタの言い回しで紹介し,SDGsの普及に協力しています。
政府としても,北陸・石川県を始め日本各地に眠るSDGsの先進的な取組を掘り起こし,応援できるように更なる取組を進めてまいります。その一環として,民間企業や団体の優れた取組を表彰する制度を検討しています。
また,来月17日から19日にかけてニューヨークにて開催予定の国連本部の会議で,日本からSDGsの取組を発信する予定です。諸般の事情が許せば私も出席し,こうした地方発の取組も取り上げ,世界への売り込みのお手伝いをしたいと思っています。
4.朝鮮半島情勢
さて,最後に国際問題の中でも皆さんの大きな関心事で あるだろう朝鮮半島情勢について,この機会に外務大臣として少し触れさせていただきます。
5月29日,北朝鮮は3週連続で今年に入ってからは9回目となる弾道ミサイルの発射を行いました。北朝鮮は,相次ぐ発射を通じて,技術を向上させていると考えられ,日本まで到達するミサイルだけでも400〜500発あると言われています。
こうした北朝鮮の挑発行動を受け,日本国政府はいかなる事態に際しても,皆様の命と平和な暮らしを守り抜いてくため,引き続き,高度な警戒体制を維持し,国民の安全確保に万全を期していきます。現在の国際情勢においては,いかなる国でも一国では自国を守ることはできず,国際社会と協力しつつ北朝鮮の挑発行動に備える必要があります。特に日本の場合は,日米同盟をしっかりと強化しつつ,抑止力・対処力を高め,併せて,外交手段を用いて日本にとって好ましい状況作りに努めることが重要です。
現在は北朝鮮が挑発行動を繰り返していることから,対話ではなく,北朝鮮に対する圧力を更に強化することが必要であり,アメリカを始めとする国際社会と協力しつつ,この問題に取り組んでまいります。北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するためには,関連品目・技術の移転を防止するとともに,北朝鮮の外貨収入を減少させることが重要です。その観点から,北朝鮮と第三国との間の貨物に対する規制を一層強化する,いわゆる「キャッチオール規制」について,これまで政府内で検討を進めてまいりましたが,北朝鮮の挑発が続く現在の緊迫した状況に鑑み,私から今月中にも作業を終えるよう指示したところです。
なお昨日,国連安全保障理事会においては,北朝鮮による累次の弾道ミサイル発射等を受け,新たな内容の安保理決議が全会一致で採択されました。米国との関係においても,昨日,東京を出発する直前に,ティラソン国務長官と電話会談を行い,日米の緊密な連携を改めて確認しました。
また,北朝鮮との関係では拉致問題もありますが,本年は久米裕(くめ・ゆたか)さんがここ石川県で拉致されてから約40年となります。北朝鮮による拉致問題は,我が国の主権及び国民の生命と安全に関わる重大な問題であり,国の責任において解決すべき最重要課題です。一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく,あらゆる努力を傾注する決意です。
一方,北朝鮮問題を考える上で,韓国との関係も重要です。韓国は,この環日本海圏の中でも重要な地政学的位置を占めるとともに,日本と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であり,良好な日韓関係は,地域の平和と安定にとって不可欠で,様々な分野における日韓協力を更に進めていく必要があると考えます。石川県は全羅北道(ぜんらほくどう)と,金沢市は全州(ぜんしゅう)市と,それぞれ姉妹提携関係にあると承知しています。日韓間では,年間700万人以上の人が往来していますが,このような市民間の交流が,日韓関係を発展させていく重要な基盤となると考えます。
めまぐるしく変わる国際情勢は,遠い世界の問題でなく,皆様の日常に直接関わってきます。外務省としても地方の魅力を十分に世界に発信し,地方に投資,観光客を取り込んで,地域を元気にしていきたいと思います。また,様々な国際問題に地方の皆様と連携しながら,精力的に取り組んでいきたいと思います。
以上をもちまして,私の基調講演とさせていただきます。御静聴ありがとうございました。