[文書名] 第10回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議における河野外務大臣演説
ゼルボCTBTO事務局長,
御列席の皆様,
我が国は唯一の戦争被爆国として,カザフスタンと共に,この二年間共同調整国として,両国間ではCTBTに関する首脳声明を2度発出するなど,核軍縮の進展に対する強い思いを共有しながらCTBTの発効促進に向け努力してきました。また,我が国単独でも様々な取組を重ねてきました。こうした共同調整国としての活動を通じて得た教訓も含め,皆様とその成果を共有したいと思います。
本題に入る前に一点重要なことを指摘しておかねばなりません。CTBTは未発効ですが,核実験の禁止は事実上の国際規範として機能しています。21世紀になってから,唯一の例外を除いていかなる国も核実験を実施したことはありません。しかし,その唯一の例外である北朝鮮は,9月3日,6回目となる核実験を強行しました。これまでにない重大かつ差し迫った脅威であり,国際的な軍縮・不拡散体制に対する重大な挑戦です。断じて容認できません。CTBTの早期発効を実現し,その検証体制を強化することの必要性は,かつてないほどに高まっていることを強調したいと思います。なお,今回の核実験においても,CTBTの下での国際監視制度(IMS)はその有効性を証明しました。9月11日,北朝鮮に対して格段に厳しい制裁措置を課す強力な安保理決議第2375号の迅速かつ全会一致での採決を受け,国際社会は,北朝鮮に対して,核・ミサイル開発の放棄を粘り強く訴え続けていくことが重要です。
我が国が過去2年の活動を行う中で重視してきたのは次の5点です。
第一に,残る発効要件国を含めた署名・批准に向けてハイレベルで働きかけること。アジア地域では,我が国もハイレベルで働きかけてきたミャンマーが昨年批准し,タイも批准に向けた努力を継続中と承知しています。タイが批准すればASEAN加盟国全ての批准が実現します。私自身も外務大臣に就任して以降,核兵器国を含め早速各国への個別の働きかけも精力的に行ってきています。
第二に,署名・批准を進める上での阻害要因を除去すべく,共同で取り組んでいくこと。特に,地域的なアプローチは有効です。アジア地域におけるCTBTの普遍化を促進すべく,本年7月末に東南アジア・太平洋・極東(SEAPFE)地域会合を東京で開催し,未署名国や未批准国の参加をも得て,有意義な意見交換を行いました。
第三に,署名,批准に向けた段階的なアプローチです。例えば,準備委員会のオブザーバーとなることは,署名に向けた第一歩です。これまで,パキスタンとキューバがオブザーバーとしてCTBT関連会合に参加しています。
第四に,IMS施設の整備やウィーンにあるIDCへのデータ送信に向けた取組を奨励すること。この点,最近,中国からデータ送信が開始されたと聞いています。
第五に,途上国における国内データセンターに関するキャパビル支援です。我が国は,1996年以降毎年グローバル地震観測研修を実施しており,これまでに総計71か国225名の研修員に対し核実験検知に関する知見を提供してきました。
その他,我が国は,CTBT発効促進共同調整国として,2015年8月に被爆地広島においてCTBT賢人グループ会合を開催し,発効促進に向けた戦略について議論し,その成果を発表しました。また,本年2月には,IMSによる検知能力の強化に資するべく,CTBTOに対し2.9億円の拠出を行いました。このような我が国の取組の詳細については,進捗レポートにまとめています。発効促進共同調整国としての経験を通じ,日本としては,発効促進会議プロセスの目的を達成するため,このプロセスの不断の見直しも含め,CTBT早期発効のためのより良い戦略を練り,実施していく必要があると思います。
核軍縮をめぐる国際社会の隔たりがかつてないほど大きなものとなり,核兵器国と非核兵器国の協力の必要性が高まっている現在,CTBTは,関係国が具体的に協力できる場を提供する一層重要な手段になっています。CTBTを通じて「核兵器のない世界」の実現に向けて全ての国が団結すべきです。我が国は,本日,CTBT発効促進共同調整国としての役目を終えますが,これからも,関係国やCTBTO事務局と協力し,CTBTの早期発効に向けた国際社会の努力を主導していく決意です。
さらに,我が国は,唯一の戦争被爆国として,核軍縮の原点たる被爆の実相の発信や次世代への継承に力を入れていくことを重視しています。将来的に国際的な場で活躍できる人材の育成,また,日本と各国の若者(ユース)の連携の可能性についても,追求していきたいと思います。
最後に,次期CTBT発効促進共同調整国であるベルギー及びイラクのリーダーシップの下,国際社会の一致団結した取組によるCTBTの発効を含む核軍縮・不拡散の進展に期待を寄せるとともに,我が国としても変わらぬ貢献を重ねていくことを誓い,私の挨拶といたします。