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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] OECD東南アジア地域プログラム(SEARP)閣僚会合 「連結性を通じた包摂性」セッション 河野外務大臣による講演

[場所] 
[年月日] 2018年3月8日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

閣僚の皆様,各国・国際機関の代表の皆様,

御列席の皆様,

本日は,OECD東南アジア地域プログラム(SEARP)閣僚会合に参加いただき,ありがとうございます。

4年前,2014年のOECD閣僚理事会において安倍総理が東南アジアの閣僚と共に,SEARPを立ち上げました。それは,1964年に日本がOECDに加盟し,OECDが原加盟国20か国から最初の拡大を行ってから丁度50年後のことでした。

OECDは1990年代後半から東南アジアと協力し,2007年には対外関係の「戦略的優先地域」と定めています。このような中,SEARPが立ち上げられ,OECDの対外関係の歴史に新たな1ページとして刻まれました。SEARPを通じて,OECDは東南アジア諸国の優先課題の解決や統合努力を支援してきました。

SEARPは,成功裏に日本とインドネシアの共同議長の下での第一フェーズを完了しつつあります。この場を借りて,ASEAN及びOECDの関係各位に感謝の意を表します。

皆様,本日の閣僚フォーラムのテーマは,「包摂的なASEAN」です。なぜ,このテーマが重要なのでしょうか。

東南アジアは,人口6億人を超え,過去15年5%以上の経済成長を記録する,世界で最もダイナミックな地域の一つです。

他方,これまでのASEANの著しい経済成長にもかかわらず,ASEAN諸国は,国内・域内における社会経済的な発展の格差といった,成長を脅かし個人がその恩恵を享受することを妨げる諸課題に直面しています。誰も取り残されることなく,成長の果実が地域全体に行き渡ることを確保することが,ASEANの優先課題となっています。

日本は,本年のASEAN議長国のシンガポールが優先課題として,ASEANの包摂的成長の実現にも高く貢献し得る「強靱性」と「イノベーション」を掲げていることについて,シンガポールのリーダーシップに歓迎の意を表します。かつてないほど「包摂性」の重要性がOECD諸国と同様に東南アジアでも強調されていることから,今回の閣僚フォーラムにおいて,より「包摂的なASEAN」に向けた議論を行うことは,重要であり時宜を得ています。本日の議論が,ASEANのプロセスにも報告され,SEARPとASEANの更なるシナジーが発揮されることを強く期待します。

ここで,ASEAN共同体ビジョン2025の最も重要な柱である「連結性」についてお話しさせていただきます。特に,質の高いインフラと貿易・投資という「連結性」の2つの側面に焦点を当てたいと思います。

連結性に関して最初にお話ししたい点は,質の高いインフラの推進です。

アジアには,膨大なインフラ投資の需給ギャップが存在しています。ADBの試算では,2016-2030年で,東南アジアでは一年あたり2,100億ドル,地域のGDPの実に5.7%に相当するインフラ投資の需要が見込まれています。しかしながら,現在この需要は4分の1程度しか満たされていません。インフラ資金の供給のほとんどが公共セクターであることを踏まえれば,需給ギャップを埋めるには,民間資金の効果的な動員が必要不可欠であることは明らかです。

しかしながら,「量」にのみフォーカスすることは適切ではありません。一定の基準に満たない質の低いインフラは,包摂的かつ持続的な開発の妨げとなるばかりか,成長のボトルネックとなりかねません。そのため,連結性の達成に向けては,国際スタンダードに則った質の高いインフラを整備していくことが重要です。

このためには,G7伊勢志摩5原則にあるとおり,①ライフサイクルコストから見た経済性及び安全性,②現地雇用及び技術移転,③社会・環境面への配慮,④被援助国の財務健全性をはじめとする経済・開発戦略との整合性, ⑤民間部門を含む効果的な資金動員の確保が不可欠です。これら5つのポイントに加え,インフラの開放性と透明性も忘れてはなりません。このような質の高いインフラこそが,真に包摂的かつ持続可能な開発に資するものです。

日本は,質の高いインフラの国際スタンダード化に関する取組を主導しています。先ほど申し上げた「G7伊勢志摩原則」に加え,質の高いインフラの重要性は,G20,APECなどの国際フォーラム,更にはASEAN 関連会合においても,繰り返し強調されています。

このような文脈において,昨年,OECDの閣僚は,開放性・公平性を有する質の高いインフラのガイドラインやベストプラクティスの策定を指示しました。私は,この分野におけるOECDの取組や,ASEANの連結性への貢献に強く期待しています。

皆様,ここでの私のメッセージはシンプルです。質の高いインフラに関するOECDの取組を活用しない手はありません。

第二に,貿易・投資についてお話します。自由で公正なルールに基づく貿易・投資は,経済成長と雇用創出の主要なエンジンであることを強調いたします。

反グローバル化や保護主義的な風潮が拡大する中,OECDの最近の議論は「自由貿易は包摂的な成長に貢献する」という新たなストーリーに焦点を当てています。保護主義は解決策とはならない。これが,OECDが発出している明快なメッセージです。例えば,最近のOECDの報告書では,グローバル・バリュー・チェーンが高度に発達する中,保護主義は,消費者のみならず,むしろ守るべき対象である国内産業(生産者)や雇用を犠牲にすることが示されています。保護主義的な措置によって,国内産業は,安価で質の高い輸入中間財へのアクセスが困難となり,輸出競争力を失うほか,これらの生産者が支える雇用機会の喪失にもつながるのです。

また,別のOECDの分析は,ASEANがグローバル・バリュー・チェーンへの統合を通じ,雇用創出を始め,利益を享受してきたことを示しています。例えば,ベトナムでは,労働人口の10%に相当する500万以上の労働者が,中間財やサービスの輸出に従事しています。これは,OECDの推計では,1995年から330%の増加にあたります。

皆様,日本は自由貿易の旗手として,高水準の自由で公正な貿易・投資ルールを世界に広げるための取組を力強く進めています。

本日,チリで署名が行われる予定のTPP11には,ASEANから4カ国が参加していることを嬉しく思います。TPP11は,物品・サービス貿易,投資,電子商取引,国有企業を含む幅広い分野で,21世紀型の貿易・投資ルールを構築するものです。この協定が,自由で公正なルールに基づく経済秩序を世界に広げる取組にとって,重要な礎石となることを期待し,早期発効に向けて,引き続き最大限の努力を傾注してまいります。

同時に,ASEAN10か国が参加する東アジア包括的経済連携(RCEP)については,質の高いRCEPの早期妥結に向けて取り組んでまいります。

私は,これらの取組がこの地域における連結性の向上に向けた確固たる歩みとなることを確信しています。

皆様,私のスピーチを締めくくる前に,東南アジアとの協力の地政学的観点からの戦略的重要性についてお話しいたします。

日本は,自由で開かれた海洋は平和と繁栄の源であるという強い信念の下,「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進しています。

東南アジアは,太平洋とインド洋をつなぐ結節点に位置しています。

日本は,ASEANを中核にこの戦略を推進することで地域全体の平和と繁栄を促進していく考えです。特に,ASEANの優先課題を尊重しつつ,インフラ整備,貿易・投資,ビジネス環境整備,開発,人材育成等を展開する考えです。

この文脈で,日本は,ASEAN連結性マスタープラン2025に沿った形で,ASEANの連結性向上のための取組への支援に,強くコミットしています。また,「日メコン連結性イニシアティブ」を通じた協力を進めています。

最後になりましが,今年は日ASEAN友好協力45周年です。日本とASEANの長い協力の歴史を基礎に,日本は「繁栄のためのパートナー」として,包摂的かつ持続可能な開発の実現に向けたASEANの取組に引き続き貢献していきます。東南アジアからの将来的な加盟も見据えつつ,日本はSEARPを通じて,OECDと東南アジアの協力関係を更に推進していきます。

ありがとうございました。