データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2020年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第2回準備委員会における河野外務大臣の一般討論演説

[場所] ジュネーブ
[年月日] 2018年4月24日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

議長御列席の皆様

 NPTは,国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石であります。広島・長崎への原爆投下から73年間幾度かの危機を乗り越え,核兵器は幸いにして1度も使用されてきませんでした。核兵器の数は冷戦のピークと比較し約85%の削減が達成されています。NPTの目指す核の不拡散についても,一部の大変残念な例はあるものの,NPT設立当初に懸念されていたよりは限定され,南アフリカの様に自ら核開発計画を放棄し,国際社会に復帰するためNPTに加入したという事例も存在します。これらは取りも直さず,NPTを中心とした国際的な核・不拡散体制が挙げてきた成果です。核兵器は誰も使用を望むものではなく,核兵器のない安全な世界を目指し廃絶されるべきことを国際社会が共有しているからに他なりません。

 核兵器は,いったん使用されると広範囲で多大な惨禍をもたらします。被爆国として核兵器の非人道性を知る我が国は,核廃絶に向け,国際社会の取組を先導する責務があります。しかし,核兵器の脅威は未だ現実に存在し,国際的な安全保障環境が悪化している中,国民の生命・財産を守るため万全を期すことは,全ての主権国家の当然の責務であり,核軍縮と安全保障を同時に追求する努力が求められます。核兵器の使用のもたらす人道的結末を回避するとともに,現実の安全保障の脅威に対処していく,この2つの観点を両立させながら,核兵器国,非核兵器国双方の協力の下で,現実的・実践的な取組を行うことが必要です。先に挙げたNPTの成果は,軍縮と安全保障の調和の上にこそなし得たものであり,それを可能とする最も普遍的な枠組みであるNPTの維持・強化は,日本の取組の中心的な存在であり続けます。議長本日はある提言を携えてジュネーブにやって来ました。「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」から,3月29日,日本の外務大臣として私自身が受け取ったものです。この賢人会議は核兵器国及び非核兵器国の有識者16名からなり,昨年のNPT第1回準備委員会にて日本が立ち上げを表明しました。

 提言は,近年の国際的な戦略環境の悪化する中,核軍縮に対するアプローチの異なる立場の国々の対話が困難になっているとの現状認識を示しています。提言は,安全保障環境を改善しながらNPT第6条に沿って核兵器のない世界を追求するためには,それぞれの立場にある者が,立場の異なる相手を批判せず,議論における礼節を取り戻す必要性を強調しています。提言は,NPTへの当事者意識を改めて示す必要性があることも強調しています。さらに提言は,異なる立場を収斂するための具体的な方策や今後解決していくべき問題を提起しています。提言は,異なるアプローチを収斂するための下地を作る具体的な取組を提案し,核兵器のない世界を目指すにあたり,解決すべき問題を指摘しました。この提言は,核兵器国と非核兵器国双方の有識者が個人の資格で自由かつ活発に議論を行い,それ自身が異なる立場を収斂させる試みでした。国際社会にとり参考になる有益なものと確信します。

 本日は,提言で様々挙げられている橋渡しの取組のうち,日本としてNPT締約国に具体的な取組を呼びかけていきたい3点をご紹介いたします。

 ●第1に,透明性の向上に向けた取組です。

透明性は,

各国の意思疎通を促し,

 不信や誤認の回避に寄与し,核兵器のリスクの削減に対処することに貢献しています。透明性は,各国間の信頼醸成にも寄与するものです。また透明性は,NPT運用検討プロセスのさらなる強化にも資するものです。これまでも,日本はNPDIとともに,核兵器国に標準報告フォームへの合意と定期的な報告を呼びかけてきました。本年も,NPDIとして新たな作業文書を提出しています。引き続き核戦力の透明性の向上に向けた取組を進めていく考えです。

 ●第2に,核軍縮検証メカニズムです。核廃絶の実現には,実効的な検証メカニズムの存在が不可欠です。これは,北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法での廃棄(CVID)を実現する上でも当てはまります。また,核軍縮検証の手段を開発するプロセスは,それ自体が国際社会の信頼醸成に資するものです。日本としては,この問題を喫緊の課題と捉え,5月に国連の下で開催される核軍縮検証に関する政府専門家グループ(GGE)においても,積極的に議論に貢献していく考えです。

 ●第3に,核兵器国と非核兵器国の両者を巻き込んだ,対話型討論です。例えば,脅威の削減のための効果的な貢献や核軍縮のプロセスにおいて生じる安全保障上の懸念といった「困難な問題」についても,中長期的観点から討論することが必要です。国際社会の有意義な対話を促すべく,賢人会議にも,「困難な問題」の特定や,日本がこれまでも主張してきた「最小限ポイント」を含む,核軍縮の進展に資するベンチマークの検討に向け,引き続き活動を継続してもらいます。

 これらの詳細については,このアセンブリー・ホールで本日のランチタイムに行われるサイドイベントにて,賢人会議メンバーから改めて皆様に説明する予定です。ここにいる多くの方とお目にかかれることを期待いたします。

 議長2020年のNPT運用検討会議に向けた国際社会の機運を高めることは,全てのNPT締約国の責務です。日本は,12カ国の非核兵器国による地域横断的なグループであるNPDIとともに,主導的な役割を果たしていきます。包括的核実験禁止条約(CTBT)に関しては,幅広い支持のあるその早期発効及び普遍化を一層促進するため,CTBTフレンズ外相会合の場なども活用し,全ての未署名/未批准国にCTBTへの参加を求めていきます。また,北朝鮮による核実験の検知にも成果を上げている国際監視制度(IMS)への国際社会の更なる参加を呼びかけます。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に関しては,その早期交渉開始に向けた取組にコミットしています。日本としても,ハイレベル専門家準備グループで条約の実質的な内容についての議論に貢献していく考えです。

 また,被爆の実相を広めることを日本は重視しています。日本は,世界の政治指導者や若者の被爆地訪問の推進してまいります。また日本は,軍縮教育や核軍縮に係る人材育成を促進してまいりますます。国際社会に被爆の実相を伝えてきた,被爆地・被爆者の長年のたゆまぬ努力に改めて深い敬意を表明します。

 議長NPTの維持・強化には,核軍縮と同時に,その他の柱,特に核不拡散への取組を一層進めることも不可欠です。

 北朝鮮の核・ミサイル開発は,国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦です。北朝鮮側から対話を求めてきたのは,国際社会が連携し,北朝鮮に最大限の圧力をかけてきた結果に他なりません。先週,北朝鮮は,核実験とICBMの試験発射を中止するとともに,核実験場を廃棄することを発表しました。今回の発表を前向きな動きとして歓迎をし,北朝鮮による核・ミサイル廃棄に向けた具体的な行動につながることを期待します。しかしながら,北朝鮮に対して,今回の発表以上の行動をとるよう求めていかなければなりません。核武装した北朝鮮は決して認められません。国際社会は,北朝鮮のCTBTへの署名・批准も求めます。

 過去の失敗の経験を踏まえると,圧力緩和のタイミングを誤らないことが重要です。北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルのCVIDを実現するため,引き続き国際社会は一致して北朝鮮に対する最大限の圧力を維持しなければなりません。

 イランの包括的共同作業計画(JCPOA)は,NPTを中心とする国際不拡散体制の強化に資するものです。その継続的且つ完全な履行が重要と考えています。イランによる弾道ミサイル発射に係る懸案が,関係国間の協議により解決に至ることを期待しています。IAEAの保障措置は,国際的な核不拡散体制強化の取組において不可欠な要です。日本として,その強化・効率化に向けたIAEAの取組を支持します。特にそのための最も現実的かつ効果的な方途として,包括的保障措置協定及び追加議定書の普遍化の推進が必要です。

 議長核兵器国と非核兵器国がNPTの目標に向け共通のコミットメントを誓うことは,核軍縮に向けた橋渡しのための有益な出発点となります。2020年の運用検討会議に向けたプロセスが,国際社会が異なるアプローチを乗り越え,核兵器のない世界に向け大きく前進する契機であったと後世に語られるよう,全てのNPT締約国と市民社会が一致して取り組むことに大いに期待いたします。

 (了)