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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本の対太平洋島嶼国政策に関する河野外務大臣のスピーチ 〜我々「太平洋人」のAOI(碧い)未来のための3つの取組〜

[場所] 南太平洋大学,フィジー
[年月日] 2019年8月5日
[出典] 外務省 大洋州課
[備考] 
[全文]

1 冒頭

南太平洋大学のパル・アフルワリア学長,

太平洋島嶼国からの外交団の皆様

JENESYSプログラムの卒業生の皆様,

南太平洋大学の生徒の皆様,

ゲストの皆様,

ご来賓の皆様,

 私は,昨日,初めてカバをいただきました。何か歯医者に来たような感じがして,私の舌はしびれましたが,カバの胡椒のような味を好きになりました。

 私は太平洋の傍で育ち,自分の寝室からは海の匂いをかぐことができます。そして,私は,当然のように,ダイビングが大好きです。今回,世界で最高のダイビングスポットである太平洋島嶼国地域に来ることとなり,とてもわくわくしておりました。実際,今すぐにでもスピーチを放り出し,外に出てダイビングをしたいところですが,本日は、外務大臣としてここにおりますので,どうにか自制心を働かせ,まずはスピーチに集中したいと思います。

 まず、南太平洋大学(USP)の2019年JENESYSプログラムの開始を祝福したいと思います。また、長年にわたりJENESYSプログラムの成功のために日本と緊密なパートナーシップを築いて下さっているUSPの御尽力に感謝申し上げます。本日、皆様とこの場所にいられることを大変嬉しく思います。

 日本の外務大臣の太平洋島嶼国訪問は32年ぶりのことであり,今回,太平洋島嶼国を歴訪できることを光栄に思います。前回は,1987年の当時の倉成正外務大臣による訪問に遡ります。

 また、私は本日,ここUSPのICT講義ホールで講演できることを名誉に思います。USPは、太平洋島嶼国地域の国々が協力して創設した大学であり,このICTホールは,日本の支援によって建設されたものです。まさにこの場所は,日本と太平洋島嶼国の友情の象徴であり,本日のスピーチを行うに相応しい場所だと思います。

 本日、私は大きく2つのことについてお話ししたいと思います。まず、日本と太平洋島嶼国の間の歴史や関係の発展を振り返りたいと思います。そして、太平洋島嶼国地域に対する日本の新たな決意とコミットメント、そして、私たちの友好関係を発展させるために共に取り組みたい,インド太平洋地域全体のより良い未来のために連携したいという我々の思いについてお話ししたいと思います。

2 32年間の歩みの振り返り

 1987年、ここフィジーで倉成外務大臣がスピーチを行い,後に「倉成ドクトリン」と呼ばれるものを発表しました。「倉成ドクトリン」は、日本の太平洋島嶼国地域との協力に関する政策における5原則を示すものです。即ち,(1)独立性・自主性の尊重,(2)地域協力への支援,(3)政治的安定のための支援,(4)地域をより繁栄させるための支援,(5)人的交流の促進です。

 倉成大臣が「太平洋人」と呼んだ,この広大な海によって結ばれた我々,日本人と太平洋島嶼国の人々は,長い年月をかけて着実に友情を育んできました。

(総論:PALMプロセス)

 その間の重要な進展の一つは、太平洋・島サミット(PALM)プロセスの開始と進化です。PALMプロセスは3年ごとに開催される、日本と太平洋島嶼国のリーダーによる首脳会合です。

 倉成ドクトリンの発表から10年後の1997年,PALMプロセスは始まりました。PALMプロセスを通じて、率直な議論の中で友好の絆を育みつつ,日本と太平洋島嶼国は緊密な協力関係を築いてきました。太平洋島嶼国の独立性と自主性を尊重しつつ、日本と太平洋島嶼国は開発から自然災害及び気候変動に至るまで、我々「太平洋人」が共に直面する課題について様々な議論を行ってきました。

 PALMプロセスは,より頻繁で包括的な対話を行うため,進化し続けています。例えば,2010年にはPALM中間閣僚会合が開始され,2018年にはニューカレドニアと仏領ポリネシアがPALMに正式参加しました。

 PALMプロセスは今も進化し続けています。昨年5月のPALM8において,安倍総理大臣は第4回PALM中間閣僚会合を大洋州島嶼国地域で開催することを約束しました。本日、第4回PALM中間閣僚会合を2020年半ばにここフィジーで開催することを表明できることを嬉しく思います。PALM中間閣僚会合を太平洋島嶼国で開催することは初めてのことです。

(総論:大使館の数)

 私たちの友好関係の発展はこの地域における日本大使館の数の増加からも明らかです。1987年にはわずか2つだった日本大使館が,現在では8つになっています。そして来年,バヌアツに9つ目の大使館を開館することを楽しみにしています。

(政治的安定の確保・経済的協力の拡大)

 日本は長年,太平洋島嶼国の質の高い成長のための支援を行ってきました。特に日本は,持続的な成長と繁栄の真の基盤である人材育成を重視してきました。

 過去32年間で、日本国際協力機構(JICA)のプログラムを通じ、1万人以上の太平洋島嶼国の方々が様々な研修のために日本を訪れ,また,この地域における人材育成支援のため,3700人以上の専門家が太平洋島嶼国に派遣されました。そして,4300人以上のボランティアが太平洋島嶼国に渡り,地域の人々と共に暮らし,それぞれの分野で人材育成に貢献しました。

 この中には,サモアのある村で,地域の安定した水供給に大きく貢献し,伝統的な「大酋長」となったボランティアもいます。また,パラオに恋をして,結局15年もの間パラオで働き,パラオ最初のリサイクルセンターの設立を助けたボランティアもいます。

 日本は,教育を特に重視しており,過去32年間で,太平洋島嶼国地域において,約600校の学校を支援してきました。トンガでは,日本がある工科大学に建設した学生寮によって,離島出身の生徒達がより良い教育を受けられるようになりました。

 日本はまた,サテライト授業システムの整備を含め,USPへの支援も行ってきました。今日,サテライト授業システムのおかげで、全ての太平洋島嶼国の学生が,USPが提供する質の高い教育にアクセスできるようになりました。

 日本は持続可能な経済成長を支える「質の高いインフラ」の整備にも注力しています。長年にわたり、日本は隔絶性と連結性の欠如が喫緊の課題である島嶼国間の連結性向上のために,太平洋島嶼国地域において,9の空港と多くの港湾や道路の整備を支援してきました。

(地域協力への支援)

 日本は太平洋島嶼国間の地域協力を一貫して支援してきました。日本は,1989年以降、継続的な対話を通じて,地域協力の要である太平洋諸島フォーラム(PIF)に関与してきました。PIFと私たちの緊密な協力の主要な例として,太平洋島嶼国14カ国全てに対して,合計何千もの太陽光発電設備や海水淡水化装置を供給したプロジェクトがあります。この支援は、2009年のPALM5で設立された太平洋環境地域基金(PEC基金)によるものです。

(人的交流)

 人的交流は、日本と太平洋島嶼国の良好な関係の土台を成すものです。2007年のJENESYSプログラムの開始以来、このプログラムで1500名以上の太平洋島嶼国の大学生が日本を訪れ,そのような絆を育ててきました。過去のそして未来のJENESYSプログラムの参加者は,日本と太平洋島嶼国を結ぶ真の掛け橋です。

 また,2002年以降、政府のプログラムを通じて1800名の日本の小学生や中学生が太平洋島嶼国を訪れ、1000名を超える太平洋島嶼国地域の子供達が日本を訪れました。今日、このプログラムにより、毎年約170名の島嶼国の子供達が、日本を訪れています。

 子供達や若者は我々の未来だという信念の下,若い世代にこのような機会を提供しています。若者達の間の強い絆が,強く,そして継続した友好関係を維持するための鍵となるのです。

(太平洋島嶼国の果たす役割の拡大)

 過去32年間、気候変動、海洋問題を始めとする課題に対処するにあたり,国際場裡における太平洋島嶼国の役割は急速に拡大してきています。フィジーによる今年5月のADB総会の開催や2017年のCOP23の議長、パプアニューギニアによる昨年のAPECの開催、これらは全て太平洋島嶼国地域が担う国際的役割の拡大の主要例です。来年パラオは、アワオーシャン会合を主催する予定ですが,これに対し,日本は喜んで支援を行います。

3 今後の日本の対太平洋島嶼国政策

 これらの流れを受けて,私は,今日の太平洋島嶼国に対する日本の新たなコミットメントを発表します。近年、自由で開かれたインド太平洋のビジョンのために太平洋島嶼国が重要な役割を果たすということがますます明白になっています。日本はこの地域が自由で開かれた地域であり続けることを確保するため,自らの役割を果たす決意です。

 この32年間の協力関係に基づき、そして100年を超える歴史的関係に基づき、私は、太平洋島嶼国の全ての友人に対し,よりよい未来,即ち,活気があり(Active),機会にあふれ(Opportunity-filled),革新的な(Innovative)未来のために,協働することを呼びかけます。この3つのキーワードの最初の文字を並べると,日本語で,私の新しいお気に入りのこの島シャツの色のように,「碧い」を意味するAOIという言葉になります。そして,英語の「ブルー」,日本語でAOIという言葉は,空と海を思い起こさせます。私は,インド太平洋地域の活気があり,機会にあふれ,革新的な未来のための青写真を描くため,協力したいと考えています。この太平洋のように大きな未来の潜在性を開花させるために,共に取り組んでいきましょう。

 そのような未来のため,日本政府は太平洋島嶼国地域に対するコミットメントを強化することを決定しました。日本は、米国、豪州そしてニュージーランド等のパートナーと緊密に協力しながら、海洋、連結性、気候変動・防災分野における太平洋島嶼国に対する協力を更に強化していきます。

 具体的には、日本は,(1)安定・安全を確保し,(2)強靱かつ持続可能な発展を支援し,(3)人的交流・往来の活性化を促進していきます。

(安定と安全の確保)

 日本は地域の安定・安全を確保するために協力します。日本は、豪州、米国等と協力し、太平洋島嶼国からの政府高官のために海洋法執行の能力構築支援を行います。また,本年初めにパラオに派遣したように,海上保安庁のモバイルコーポレーションチームを太平洋島嶼国に派遣します。なお,このパラオへの派遣は,太平洋島嶼国に対するこの種の協力として初めてのものであったことを付言します。

(強靭かつ持続可能な開発)

 日本は、太平洋島嶼国地域の強靱で持続可能な発展のための協力を続けていきます。パラオ国際空港やソロモン諸島のホニアラ国際空港といった,質の高いインフラを通じて,この地域での連結性を強化していきます。

 日本と太平洋島嶼国は共に,自然災害への脆弱性を共有しています。我々にとって防災は死活的な問題です。本年、日本はミクロネシア三国やバヌアツに対して追加的支援を行うことを決定しました。我々は,これらの国々と共に,防災コミュニケーションシステムの整備や防災センターの建設,被災地域への医療サービスの効果的提供のための機材供与等を行うこととしています。また,日本の無償資金協力によるサモアの太平洋気候変動センターがまもなく完成します。このセンターは、太平洋島嶼国地域における気候変動に伴う課題に対処するための人材育成のための中心地として機能するはずです。

 海洋プラスティックゴミを含む廃棄物管理問題に対処するために,日本は技術協力を通じた能力構築に貢献し,廃棄物処理施設を建設していきます。

 日本は,債務持続可能性も含む持続可能な経済財政政策についても重視しており、太平洋島嶼国に対して,財政健全性の強化のための技術協力を行っていきます。

(人的交流)

 日本は,活発な人的交流も重視しています。日本が、全ての太平洋島嶼国地域から計100名の子供たちを来年の2020東京オリンピック・パラリンピックに招待することをここで発表できることを嬉しく思います。

 また、我々はここUSPで、日本語講座を再開します。ここUSPで,本年末にかけて、試験的な日本語講座が開始されます。是非ここにいる皆様に日本語学習に挑戦していただきたいと思います。

 今年のJENESYSプログラムが進行している一方で、今年、太平洋島嶼国地域から日本に若者を招待することに加え、初めて,日本人の若者を太平洋島嶼国地域に派遣します。相互に有意義な交流ができることを期待しています。

4 結語

 我々の安定・安全の確保、強靱かつ持続可能な発展の支援、人的交流・往来の活性化への新たなコミットメントを通じて,我々「太平洋人」が,私たちがホームと呼ぶ,この美しい太平洋地域に,より明るい未来,AOI未来を実現していけると確信しています。

 ありがとうございました。