データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回東京グローバル・ダイアログにおける茂木外務大臣基調講演「ポスト・コロナの時代を見据えた日本外交」

[場所] 
[年月日] 2021年2月25日 
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

一昨年12月の、第1回目の会議に続き、東京グローバル・ダイアログの基調講演を行う機会を頂きました。前回の講演が好評だったのか、再チャレンジの機会を与えていただいたのか、いずれにしても感謝申し上げます。

また、新型コロナによる様々な制約がある中で、本日の会議の開催のためにご尽力を頂いた、佐々江理事長を始め、日本国際問題研究所の皆様に深く敬意を表します。

日本国際問題研究所は、先月、ペンシルベニア大学が毎年発表する世界のシンクタンク・ランキングにおいて、「シンクタンク・オブ・ザ・イヤー」に選ばれました。様々な国際ランキングで日本がなかなか振るわない中、今回の快挙に心から、祝意と賛辞を送ります。

もう一つお祝いを申し上げます。第1回会議に出席されたアブリル・ヘインズさんが、このたび、米国新政権の国家情報長官という要職に就かれました。これはまさに、この会議に出席される方々が、いかに世界各国で、各界の指導的地位にあるかということを表していると思います。

1 国際秩のゲームチェンジャーとしてのパンデミック

(1)パンデミックの歴史的考察

2019年12月、第1回東京グローバル・ダイアログで私が基調講演を行ってから1年3か月の間に、新型コロナが人類を襲い、世界は一変しました。

古来、未知の疫病のパンデミックは、人類に様々な困難をもたらすと同時に、国際的なパワーバランスを変える「ゲームチェンジャー」でありました。

(図1)をご覧ください。例えばペストは、近代以前の欧州で少なくとも2回の大流行がありましたが、そのいずれもが、欧州のパワーの中心を、感染が深刻だった地域から感染が比較的限定されていた地域へと、大きく動かしました。6世紀のペスト流行ではギリシャ、ビザンティン世界から西欧へ、14世紀には、欧州の地中海沿岸からアルプス以北へ、というようにです。

また、14世紀のペスト蔓延は、欧州の人口の3分の1を奪い、絶望した人々は、既存の絶対的な権威、すなわちローマカトリック教会への信頼を失い始めました。これが、ルネッサンス、宗教改革、あるいは絶対王制の誕生につながったとも言われます。

日本でも、8世紀、当時の人口の約3割を死に至らしめた天然痘が大流行しました。有力貴族間の力関係が激変し、生産力を回復させるために水田の私有が認められ、それがやがて武家社会の台頭や封建制につながりました。また、宗教面では仏教が国家宗教としての地位を確立していきました。まさに政治、経済、社会にわたる大変革だったわけです。

前回のグローバル・ダイアログで、私は、世界規模のパワーバランスが大きく変動する時代における日本の外交のあるべき姿についてお話ししました。

その後、新型コロナの世界的拡大により、国際社会は私が予見していた以上のスピードで歴史的変動期に入っています。安全保障、先端技術やデジタル、パンデミックへの対応力、様々な分野でパワーバランスの流動化が見られる一方で、コロナ対応や気候変動といった共通課題で国際協調を模索する動きも見られます。

日本は、こうした様々な課題や機会を常に先取りしながら、ポスト・コロナの国際秩序作りを主導していく決意です。またそれによって、国際社会における日本自身のプレゼンスも更に高めていきたいと考えています。

今日は、こうした認識に基づく日本外交の取組と今後の方向性についてお話ししたいと思いますが、その前に昨年一年間の外務省のコロナ対応、特に、海外からの邦人帰国オペレーションについて、簡単に触れたいと思います。

(2)コロナ下での邦人帰国オペレーション

コロナ危機発生以降、外務省では、私を本部長とする緊急対策本部を省内に立ち上げ、先手、先手を打っていくとの観点から、感染症危険情報の発出、レベルの引上げや、入国制限、検疫強化を始めとする水際対策など、様々な対策を講じてきました。中でも、海外に滞在する邦人の保護は、外務省の最も重要な責務の一つとして、全力で取り組んできました。

(図2)をご覧ください。昨年1月末の武漢からの邦人帰国オペレーション。これは他国に先駆けてチャーター機5機で、武漢、湖北省に在留し、帰国を希望する邦人とそのご家族全員、828名の早期帰国を実現するという邦人保護の成功事例になったと思います。

その後、世界各国にある在外公館も、通常業務に加え、帰国のアレンジで旅行代理店以上にフル稼動しました。臨時便やチャーター機の運航により、例えば、アフリカでは、各国に数人、十数人単位で残っていた在留邦人を15か国から、当時、アフリカで唯一定期便の飛んでいたエチオピアの首都、アジスアベバに集め、日本に帰国してもらうという極めて複雑なオペレーションもうまくいきました。これまでに合計で101か国、1万2,000人を超える邦人の帰国を実現しています。

状況によっては邦人救出のためチャーター機の派遣なども検討しなければならないかもしれないと、連日、世界各国、特に途上国での帰国困難になっている邦人の状況、確認していたのですが、今お話ししたような取組の結果、ようやく昨年11月、移動制限などによって、海外から帰国できていない邦人の数はゼロになりました。引き続き、海外にいる邦人や海外渡航者の安全確保に全力を挙げていきたいと思います。

2 ポスト・コロナの国際秩序:その基盤となる「自由で開かれたインド太平洋」の地理的拡がり

(1)もう1つのゲームチェンジャー

さて、本題、ポスト・コロナの国際秩序の話に入りたいと思います。新型コロナが突発的に出現したゲームチェンジャーであるとすれば、我々は今、中国という、より長期的に顕在化してきたもう一つのゲームチェンジャーの台頭に直面しています。

前回のダイアログで私は、国際情勢が不安定化、不透明化を増している今だからこそ、力によって自らの主張を押し通すのではなく、国際社会のルールに則って解決策を見いだしていく。そしてデジタル化を始め、昨今の変化に対応した新たなルール作りを通じて、現在の国際秩序をより持続可能なものへと発展させていくというビジョンを強調しました。

新興大国も、これまで国際社会が確立したルールに則って行動し、また、新たな世界秩序の構築に向けて協力していくのであれば、ポスト・コロナの世界は安定に向かうでしょう。

しかし実際には、国際社会共通の利益ではなく自国のみの利益のために、国際法と相容れない形で現状変更を行い、既成事実を積み重ねることで、自らの一方的な主張を押し通し、また自国の行動原理を国際的な規範にしようとする試みが継続しています。

しかも、新型コロナというゲームチェンジャーは、自らにとって都合の良い国際環境を作ろうとする勢力にとって、より積極的な行動を起こす動機ともなっているということに注意が必要なのです。

(2)「自由で開かれたインド太平洋」の拡がり

私は、今こそ、国際ルールに従って行動することの重要性を強調するとともに、新たな時代の安定をもたらすルール作りを主導していく「自由で開かれたインド太平洋」の外交理念を、具体的成果につなげ、また、地理的にも広げていくことが、日本外交の使命だと信じ、一つ一つ実績を積み重ねています。

(図3)をご覧ください。「自由で開かれたインド太平洋」、FOIPのビジョンは3つの要素から構成されます。

まず1つ目は、法の支配、航行の自由、自由貿易といった国際社会の基本原則の普及・定着。2つ目は、国際スタンダードに則った「質の高いインフラ」整備等を通じた連結性の強化などによる経済的繁栄の追求。そして3つ目は、海上法執行能力の向上、防災対策、核不拡散などを含む平和と安定のための取組です。

このFOIPの具体的成果も生まれてきています。まず、第一に、インド太平洋の要衝に位置するASEANが、2019年に「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を表明し、昨年11月には日ASEAN首脳会議において、AOIPの実現に向けた日本とASEANの協力に関する共同首脳声明が採択されました。

この共同声明では、AOIPとFOIPが、地域の平和と協力を推進する上で本質的な原則を共有していることを確認しました。また、開かれ、透明で、包摂的かつルールに基づく地域の秩序を作っていく上でASEANが中心的・戦略的役割を果たすという意志も明記されています。

その上で、AOIPに示された4つの主要政策分野である海洋協力、連結性の強化、持続可能な開発目標(SDGs)、経済の分野で、日本とASEANの協力を一層深化させていくことに合意しました。

2つ目の成果として、私が昨年10月に東京で主催した日米豪印外相会合において、「自由で開かれたインド太平洋」の具体化を進めていく、同志国との協力を拡げていく、という強い意志を確認しました。協力分野として、特に質の高いインフラ、海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、災害支援、教育・人材育成の各分野において、重点的に協力を深めていきます。

このうち、質の高いインフラを通じた連結性の強化については、同じく昨年の10月、インド太平洋のインフラ投資に関する日米豪3か国協力の最初の案件として、パラオに光海底ケーブルを敷設するプロジェクトを発表しました。

また、この日米豪印については、先週も、新たに米国のブリンケン新国務長官を迎え、4か国外相会談を行いました。バイデン政権発足後のすぐのタイミングで、ブリンケン長官のイニシアティブで開催されたものですが、「自由で開かれたインド太平洋」の実現、そして日米豪印に対するバイデン政権の強いコミットメントを示すものとして高く評価しています。

一方、FOIPの地理的な拡大としては、欧州において、フランスに続いて、昨年にはドイツ、オランダが相次いで、インド太平洋に関する包括的な政策を発表し、コミットメントを明らかにしました。本年1月には、私自身もEU外務理事会に日本の外相として初めて参加し、「自由で開かれたインド太平洋」の考え方を改めて詳しく説明し、欧州各国の外相から幅広い理解と支持を得ることができました。

また、2月3日に開催された日英2+2でも、「自由で開かれたインド太平洋」の考え方を共有した上で、ルールに基づく国際秩序を支持するため、引き続き日英でリーダーシップを発揮していくこと、地域に存在する威圧の試みに反対することを確認しました。イギリス側からは、空母「クイーン・エリザベス」の東アジア派遣を始め、インド太平洋地域への更なるコミットメントが示されました。

さらに私は、昨年の12月と今年1月、アフリカ6か国及び中南米5か国を訪問し、「自由で開かれたインド太平洋」の考え方について、各国の首脳や外相と議論をしてきました。ちなみに、コロナ下での海外出張では各国への出入国の際にPCR検査が求められ、私はこれまでに30回以上やっています。結果は全て陰性です。したがって、私は日本で最も安全な人物の一人だと自負しています。

さて、話を戻しますが、アフリカ、中南米の一連の会談で大変印象的だったのは、各国の首脳や外相が皆、「自由で開かれたインド太平洋」についての私の考え方を聞いたときに、「我が意を得たり」とばかりに強くうなずいてくれたことです。これは、今こそ、力による支配ではなく、法の支配、ルールに基づく行動が重要であるという認識が、世界各国に共有されつつあることを表しているのだと思います。

こういったことが背景にあり、ルールに基づく協力関係のネットワークを重層的に築いていくべきだという私の考え方、また日本との具体的協力の提案に対して、全面的な賛同を得ることができました。

3 世界経済の回復に向けた経済連携協定の推進

さて、私たちは現在、ポスト・コロナの世界秩序を構築していく共通の責任を負っていますが、その中でも重要な課題は、コロナで大きく落ち込んだ世界経済の回復です。

(図4)をご覧ください。リーマンショックの発生した翌年の2009年、世界金融危機後の世界経済は、先進国だけでみるとマイナス3.3%となりましたが、新興国経済はプラス成長を維持し、世界全体ではマイナス0.1%と、ほぼ横ばいでした。しかし今回、2020年の世界経済は先進国だけでなく、新興国、途上国もマイナスで、全体ではマイナス3.5%、世界金融危機を大きく超えるダメージを経済に与えています。

また、金融バブルの崩壊に由来する単発的な世界金融危機と異なり、今回は、実体経済活動が広範かつ人為的にストップされたこと、今後の感染収束が見通せない中、実体経済の回復の見通しもまた不透明であるという意味においても、極めて深刻なものです。

さらに、新型コロナの感染拡大の中で、特定のサプライチェーンに依存することの危険が広く認識されるようになりました。そうしたリスクを低減する手段として、自由貿易を堅持しながらサプライチェーンの重層化の方向に向かうのであれば問題はありません。しかし残念ながら、新型コロナ危機が、以前から世界各地で見られた保護主義的傾向の正当化理由として使われてしまう危険性もまた存在します。

加えて、今、我々が直面するのは、高関税や投資規制などの措置による伝統的な保護主義だけではありません。 例えば、まさに、今最も戦略的な物資といえるワクチンについて、仮にワクチンの供給などを、恣意的な形で外交上の手段として用い、供給相手国に対し、ワクチン提供国の都合の良い態度をとらせる梃子として利用されるようなことがあれば、人類共通の利益に明確に反することになります。

日本は、世界がそうした危機に陥ることのないよう、国際的な議論を主導していきます。1月29日に開催されたWTO非公式閣僚会議では、私から、新型コロナに伴う貿易制限措置は、あくまで一時的なものであるべきで、透明性のある、WTOのルールに整合的なものでなければならないと訴えました。

日本はこれまでも、開放的、包摂的で、ヒト・モノ・カネの自由でグローバルな移動を確保できるような、ハイレベルな経済ルール作りを主導してきました。

前回のダイアログでご紹介したように、日本は、(図5)のようにTPP11、RCEPという経済連携協定を主導するとともに、米国及びEUとの間でも、ハイスタンダードな経済ルールを構築しました。これらの取組の結果、世界のGDPの8割をカバーする自由経済圏が、日本をハブとする形で形成されつつあります。

最近の成果としては、昨年の8月、私がコロナ下でロンドンまで出張し、face to faceの交渉を進め、わずか4か月半という短期間で合意に達した英国との経済連携協定があります。世界第3位と第5位の経済大国が、新型コロナの感染拡大に伴う困難を超えて、デジタル分野や金融サービスも含め、最も先進的でハイレベルなルールに合意したことは、ルールに基づくポスト・コロナの時代の国際経済ルールを作っていくという、強く明確なメッセージになったものと考えています。

日本は、引き続き「想像できないことを想像する」という先取的姿勢で、世界経済がやがて直面するであろう潜在的な課題もいち早く感知しながら、そうした課題に対応するビジョンやルールを示し、その具体化に取り組んでいきます。

4 新たな発展と進化のキーワード:グリーンとデジタル

もう1点、これまで大臣として経済財政政策を担当してきた経験から言えば、世界経済の回復のためには、マクロの需要創出も必要不可欠です。今回のコロナ危機では、個人消費も含め日本だけでも約45兆円の需要が一気に「蒸発」したわけですから、民間需要をしっかりと下支えしなければなりません。現在の需要と将来の成長力の双方を高め、ポスト・コロナに向けた経済構造の転換が必要なのです。

それでは、どうすればよいのか。キーワードは、「グリーン」と「デジタル」だと思います。

人類は近代以降、ひたすらモノの生産力を高め、物質的豊かさを追求してきましたが、気候変動問題は、そうした歴史の力学が、地球環境と資源の限界をもたらし、やがては人類の繁栄に歯止めをかけることを示しました。

我々は、環境問題を成長の制約要因として捉えるのではなく、環境や資源の持続可能性を確保することこそビジネスチャンスとなり、ひいては成長のエンジンとなるという方向に、マインドを大きく転換すべきです。

そうした中、新型コロナ危機からの復興の文脈でも、気候変動対策はますます注目を集めています。ポスト・コロナに向けて潜在成長率を引き上げていく観点からも、グリーンエコノミーに必要な技術をいかに開発し、活用していくか、このことが重要になってきます。 こうした認識に立ち、日本は、昨年10月、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを決定しました。昨年12月には「グリーン成長戦略」を採択しました。これは、14に及ぶ広範な分野で具体的な数値目標を掲げた、極めて野心的なものとなっています。かつての公害対策以来取り組んできた日本の環境関連技術は米国と並ぶ世界トップクラスですから、本来、大いに期待できる分野だと思います。

そして、もう一つのキーワードである「デジタル」。今回のコロナの経験は、移動制限の中、テレワークの実施、遠隔医療や遠隔教育など、これまでの我々の働き方やサービスの提供手段を見直す契機にもなっています。こうした無人化・遠隔化・オンライン化といった方向性は、これまで私が経済再生担当大臣として、日本の成長戦略として一貫して主張してきたことです。

世界的なステイホームの流れの中でインターネット取引が増加をし、あるいは、遠隔診療に見られるようなオンラインサービスや、川上から川下までの物流の無人化に向けた取組が一層集中的に行われるようになっています。そして、これら全てのイノベーションを支えるのは、高度なデジタル処理技術です。この機会に、デジタル化、規制改革を一気に進め、民間の創意工夫を活かした成長経路に世界経済を乗せていくことが求められています。

言い換えれば、新型コロナは、足下では世界経済に大きな打撃を与えていますが、同時に、デジタルエコノミーという新たな成長エンジンの重要性に光を当てています。

このように、新型コロナというゲームチェンジャーによって、グリーンエコノミーとデジタルエコノミーのフロンティアが大きく広がっています。日本は、これら2つの新たな成長エンジンをフル回転させ、世界経済の成長を主導していきます。

日本の国際的な取組について、ご紹介したいと思います。(図6)に簡単にまとめてあります。グリーンエコノミーの分野では、特に、カーボンニュートラル社会実現の鍵を握る水素について、日本は、その製造技術や水素発電技術といった面で先進的な技術を有しています。また、自動車の100%電動化を実現する上で不可欠な蓄電池技術についても、多くの実績があります。こうした技術を大いに活用し、世界をリードしていきたいと考えています。

また、日本同様、私も約束を守る人間です。第1回ダイアログでお約束したとおり、ASEAN諸国のため、2022年までの3年間で官民合わせて30億ドル規模の資金動員を目指す新たな投融資イニシアティブを実行していますが、その3つの重点分野の1つがグリーン投資となっています。加えて、昨年12月には、世界の脱炭素移行を支援するため、官民合わせて約118億ドルの支援を行うことを表明しました。

また、デジタルエコノミーの分野においても、日本は、ルールやスタンダード作りにおいて、世界に貢献していきます。

既に日本は、信頼性ある自由なデータ流通を規律するルール作り、いわゆるDFFTでも、一昨年のG20大阪サミットで「大阪トラック」を立ち上げ、国際的取組を主導しています。

また、極めて先進的な内容の日米デジタル貿易協定を締結するなど、ルール形成でも日本は、この分野における世界的な取組を牽引しています。

先ほど触れた日英EPAでも、情報流通に対する制限を禁止しつつ、ソースコードやアルゴリズムの開示要求を禁止するといったように、情報空間における自由と安全の両立を目指した、極めて先進的なルールが設けられています。信頼性ある自由なデータ流通、「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト」を目指す日本の取組の大きな成果です。

EUとの間でも、私が議長を務め2月1日に開催された日EU・EPA第2回合同委員会において、自由なデータ流通に関するルールを日EU・EPAに含める必要性について、予備的な協議を開始することで一致しました。

そして、WTO非公式閣僚会合では、WTO改革の4つの重点課題の1つ、貿易措置の要件化、上級委員会改革、途上国待遇の見直しと並ぶ電子商取引のルール作りについて、TPP11や日米デジタル貿易協定、日英EPAの知見を共有していくことを訴えました。

日本はこれからも、グリーンエコノミー、デジタルエコノミーの双方において、日本自身の技術力も基盤にしながら、また日本の調整力を活かし、自由で公正なルール作り、スタンダード作りを主導していきます。

5 未来と社会を変える人類の叡知

現在、我々は、新型コロナの感染拡大という、危機に直面しています。確かに厳しい状況が続いています。しかし、困難に直面した時にこそ、イノベーションが生まれます。まさに、それが人類の歴史、文明です。

私は政治を志して以来、「過去と自然は変えられないが、未来と社会は変えられる」ということを自らの信条としてきました。今こそ、この危機を「未来と社会を変える」チャンスと捉えるべきです。

将来振り返った時、21世紀の一時期に、分断と利己主義に陥りかねなかった世界を、人類の叡知により、連帯と共通の価値によって支える世界に変えることができた。あのとき人類は、政治、経済、文化、科学技術といったあらゆる側面でイノベーションを一気に進め、より一段高い世界へと飛躍することができた。そのように評価できるよう、私も、積極的な役割を果たしていく決意です。

ありがとうございました。

{図は省略}