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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「国家間の法の支配」に関する国連安全保障理事会公開討論における林芳正外務大臣ステートメント 「法の支配のための結集」

[場所] 
[年月日] 2023年1月12日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

 皆様の本日のご参加に感謝いたします。また、アントニオ・グテーレス国連事務総長、ジョアン・ドノヒュー国際司法裁判所所長及びダポ・アカンデオックスフォード大学教授による有益かつ示唆に富んだブリーフィングに感謝します。

1 なぜ今、国家間の法の支配について議論するのか?

 我々は、過去のどの時代にも増して安全保障理事会(安保理)を必要とする世界に生きています。今日私たちは、欧州での侵略戦争、アフリカから中東、中南米、アジア太平洋に至る紛争、暴力、テロ、地政学的緊張に見舞われています。これらの状況は、エネルギーや食糧の危機、脆弱なサプライチェーン、気候変動、世界的な健康問題によってさらに悪化しています。これらの複雑な問題に直面し、安保理に求められる期待は以前よりはるかに大きくなっています。それにもかかわらず、安保理の存在意義を問う声が聞こえてきます。

 ケニア国連常駐代表はかつてこの議場で、「多国間主義は死の床にある」と発言されました。しかし、我々は、多国間主義を死なせてはなりません。我々が分断されたのは今回が初めてではないことを想起しましょう。そのたびに、我々はこの分断を克服する道を見つけてきたのです。我々が蓄積してきた知恵の中には、今なお我々の共感を得られるものがあります。それこそが、国家間の法の支配の意義なのです。

 大小を問わず、すべての国連加盟国は、法の支配の下でこそ、野蛮な力の恐怖から自由になることができます。しかし、力による支配の下ではそうはなりえません。国際法が尊重され、誠実に履行されない限り、国連憲章の一条一項にある国際の平和と安全の維持は達成されないのです。このような信念から、私は今日、加盟国の声に耳を傾けるためここに参りました。私は、法の支配は安保理の責任と本質的に結びついていると信じています。私は、多国間主義を通じてこそ、グローバルに法の支配を守ることができると信じています。私は、国連が多国間主義の中核であるべきであり、安保理がその守護者であるべきだと信じています。

2 「法の支配のための結集」の3本柱

 ここで私から一つ訴えたいことがあります。今一度、法の支配という理念の下に結集しようではありませんか。「法の支配のための結集」が我々のキーワードでなければならないのです。

 国家間の法の支配は、普遍的な考えです。それは、陣営を選ぶことではありません。対立する陣営の中間をとるということでもありません。1945年以来、加盟国が積み上げてきた揺るぎない原則に立ち戻ることなのです。

 そのような原則は、何よりもまず国連憲章から導き出すことができます。また、1970年の友好関係原則に関する画期的な総会宣言や、各国首脳が採択した2012年の法の支配に関する総会決議にも目を向けるべきでしょう。

 国連で蓄積されたこうした教訓を踏まえれば、国家間の法の支配の本質的な要素として、以下の3点に焦点を当てたいと思います。

(1)第1に、法の支配は国家間の信頼に基づくものであります。もし、合意が誠実に遵守されないのであれば、法の支配は存在せず、世界は野蛮な力と威圧のジャングルと化すでしょう。国連憲章、国連決議、国際的な裁判所による判決・判断も同様です。これらは単なる紙くずではありません。誠実に履行されなければなりません。

 2022年3月2日の「ウクライナに対する侵略」に関する総会決議は、国際法のルールを守る上での誠実さの欠如を深刻に懸念する国連加盟国の声を反映したものです。さらに、2022年3月16日の国際司法裁判所(ICJ)による暫定措置命令は直ちに実行されなければならず、これにはウクライナからのロシア軍の即時、完全、無条件の撤退が含まれます。

(2)第2に、法の支配はどのような国に対しても、力や威圧によって国境を書き換えることを決して許しません。これは、国際的に承認された国境を越えて、あるいは他国の平穏な施政の下にある領域に武装した人員を展開し、既成事実を作り出すことを含む、あらゆる威圧についても同様です。ましてや、このような行為が、自衛権を含む、国連憲章や国際法の恣意的な解釈をもってして正当化されることなど、決してありません。

(3)第3に、我々加盟国は、法の支配のために結集し、加盟国による侵略や武力による領土の取得といった国連憲章の違反に立ち向かうために、互いに協力し合うべきです。日本は、この点に関する加盟国の努力を歓迎し、ウクライナに対する侵略を終わらせるためのさらなる行動を求めます。武力による領土取得を認めず、そして、侵略を直接的・間接的に支援することを控えようではありませんか。

3 途上国・脆弱国での「法の支配」強化の支援

 法の支配は、国内のガバナンス及び開発と強い相互関係があります。これらは相互に補強し合っています。法の支配は、社会における予測可能性、透明性、公平性の向上につながり、ひいては経済発展や人間の安全保障の基礎となります。そして、それが、法の支配の強化に貢献するのです。我が国は、法制度の構築や人材育成のための各国の取組を、要請があれば誇りを持って支援します。ASEAN諸国、バングラデシュ、スリランカ、モンゴル、ケニア、コートジボワールなどで、日本の援助が役に立っていることを期待します。我が国は、これらの国々と手を取り合って、法の支配を国内的にも国際的にも普及させるべく、引き続き取り組んでいきます。

4 法の支配を支える多国間主義の強化

 国連に対する信頼は、今、失われつつあります。しかし、かつてダグ・ハマーショルドは「将来の紛争を防止するうえで、国家以外の、あるいは超国家的な力が影響を与えうるための規範を探るという、時間と労力を要する試みの基盤、そして枠組として、国連は必要なのである」と述べました。他のいかなる組織も国連に取って代わることはできません。またそうすべきでもありません。我々は、多国間主義及び法の支配の防波堤として、国連全体の機能を強化する必要があります。これには、国連総会、国連事務総長やその他の機関の役割の強化が含まれます。

 中でも最も急を要するのは安保理改革であります。安保理は常任・非常任理事国の両議席を拡大し、78年前の世界ではなく、現在の世界の現実をよりよく反映させる必要があります。これは特にアフリカに当てはまります。

 ICJは法の支配の最後の番人であります。我々はその役割を強化すべきです。まだそうしていない全ての国に対し、ICJの強制管轄権を受諾するよう呼びかけます。

5 おわりに

 本日の公開討論が、加盟国にとって、法の支配を強化するための具体的なアイデアや提案を共有する機会となることを望んでおります。活発な議論を期待いたします。

 ありがとうございました。