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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 令和5年度外務省入省式における林外務大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 2023年4月3日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 入省おめでとうございます。外務大臣として皆さんを心から歓迎します。

 今、国際社会は歴史の転換期にあります。長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築きあげられてきた国際秩序は、重大な挑戦にさらされており、日本は現在、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。

 振り返れば、冷戦終結直後の世界は、フランシス・フクヤマが指摘した「歴史の終わり」に見られるようなユーフォリアに包まれていました。しかし、それから30年を経た今、我々が直面しているのは、「ポスト冷戦期」という時代の終焉であり、これまでの繁栄と平和を支えてきた国際秩序の根幹が揺らぐ、国家間競争の時代への突入という過酷な現実です。

 そのような中、特に本年、2023年は、日本外交にとって重要な年になります。日本はG7議長国を務めるとともに、国連安保理に席を占め、国際社会を一層主導していく責任ある立場にあります。

 ここで想起すべきは、「外交力」こそ、日本の安全保障に関わる国力の第一の要素であるということです。この点については、昨年末の国家安全保障戦略にも明記されています。今、外交の果たすべき役割はかつてなく大きくなっています。我々外務省員一人ひとりが、国民の声に常に謙虚に耳を傾けながら、その期待と負託に応え続けていく必要があります。

 このような地殻変動の中にある国際社会を舞台に、皆さんは、今ここから、日本を背負って立つ新しい人生を歩み始めます。言うまでもなく、本年、2023年は、皆さん自身にとっても重要な年になるでしょう。皆さんはこれから日本の平和と繁栄を次世代に引き継いでいくべく、外交を推進する立場につきます。

 先人の努力の積み重ねの上に築かれた、日本に対する各国の信頼と期待というバトンを、皆さんは確かに受け取り、国際秩序の担い手の仲間に加わったのです。

 「外と交わる」と書く「外交」は、「人」の交わりがあって初めて成立するものです。魅力的な人間が洗練された外交を実現し、力ある人間が強力な外交を推進します。複雑かつ困難な業務に全人格を以て取り組む中で、皆さん一人ひとりが、人間力を不断に磨き、言葉と信頼関係を大切にし、構想力と行動力を余すことなく発揮されることを期待します。

 そして今日この場には、様々なバックグラウンドや知見を有しつつ、今後、日本の平和と繁栄の実現という共通の目標の下で、それぞれに日本外交を支えていくことになる、200名以上の新入省員が一堂に会しています。この多様性と一体性こそが、外務省の力です。日本と世界が直面する課題は多岐にわたり、大胆かつきめ細やかな外交が一層求められています。皆さんがアンサンブルを奏でるように、共に助け合い協力しつつも、各々の立ち位置でその多様な能力と経験を最大限に活用し、更なる日本外交のフロンティアを切り開いていただくことを願っています。

 私の地元、山口県・長州藩に松下村塾を開いた吉田松陰は、「志を立てて以て万事の源と為す」という言葉を残しました。本日外務省に入省した皆さんが、高い志を原動力としていただき、難しい課題にも粘り強く向き合いながら、激動の国際社会を主導する日本外交を力強く展開していっていただきたいと考えます。

 皆さんの今後の活躍を祈念し、私の挨拶とさせていただきます。