[文書名] 第10回富士山会合における上川大臣ビデオメッセージ「協調の国際社会に向けた日米同盟」
0 冒頭
外務大臣の上川陽子でございます。
記念すべき第10回となる「富士山会合」の開催を心からお慶び申し上げます。皆様も一度は御覧になったことがあると思いますが、富士山は古来より日本の人々に親しまれ、葛飾北斎や歌川広重をはじめ、浮世絵のモチーフとしても愛されてきました。この富士山が駿河湾から最も美しく見えるのが私の地元静岡でございます。「富士山会合」参加者の皆様が長年培ってきた友好の絆は、富士山の裾野のように、日米同盟を支える強固な知的基盤となっております。
この貴重な知的基盤作りに今日まで取り組んでこられた、日本経済研究センター及び日本国際問題研究所の皆様に心から敬意を表するとともに、これまで富士山会合の活動を支えてこられた会員やスポンサーの皆様に対して、厚く御礼申し上げます。
本題に入る前に一つ申し上げます。今般のハマス等のパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃により犠牲になった米国国民をはじめとする皆様と御遺族に対しまして、心から哀悼の意を表するとともに、負傷された方々に心からお見舞いを申し上げます。
罪のない一般市民に対する攻撃や誘拐はどのような理由であれ正当化しえず、日本としてこれを断固として非難いたします。今回の残虐な無差別攻撃は正当化することができず、誘拐された一般市民を含む多数の方々の即時解放を求めます。
パレスチナ・ガザ地区をめぐる情勢は事態が刻一刻と変わり、緊張度を増していく中で、外務大臣として、引き続き緊張感を持って対応をしてまいる所存です。米国を始めとするG7メンバーや中東諸国といった同志国や関係国と密接に連携をしていきます。岸田総理はサウジアラビア、ヨルダン、カタール、エジプト、UAEと電話会談を行い、私も、外務大臣として、火曜日にG7外相電話会合を開催した他、イスラエルやパレスチナ、エジプト、ヨルダン、カタール、サウジアラビアなどアラブ諸国、英国、豪州と電話会談を重ね、また、アブドラヒアン・イラン外相に対しても事態の早期沈静化を働きかけました。
また、ガザ地区の人道状況の改善が喫緊の課題であることから、我が国は国際機関を通じた総額1,000万ドル規模の緊急人道支援を実施する考えです。
引き続き、在留邦人の出国及び安全確保についても万全を期して対応をしてまいります。
皆様、外務大臣を拝命した直後に国連総会出席のためニューヨークを訪問してから、ちょうど1か月が経ちました。ニューヨークでは5日間で朝から晩まで、一般演説やマルチの会合に加えて、ブリンケン国務長官を含め、16人の首脳・外相および4つの国際機関の長と会談を行い、それぞれに個人的関係の構築を行いました。
約20年ぶりの女性外務大臣という立場での参加となりましたが、G7の外相は私を含めて4名、現地でお会いをした各国の大臣の半数は女性でした。女性活躍やリーダーシップといった観点からも話が盛り上がり、大変刺激になりました。
その中で、首脳や外務大臣同士の個人的な信頼関係の重要性を実感するとともに、長年の日本外交の積み重ねや、在外公館と相手国政府関係者との日頃からの対話の積み重ねが「ワンチーム」として連動してきたことの重みを感じました。特に今年は、日本は国連安保理の非常任理事国を務め、G7の議長国として世界をリードする立場でもあり、期待される役割や日本外交への「信頼」は極めて大きいものということをこの1か月の間でも痛感いたしております。
本日は、イスラエル・パレスチナ情勢を始め、一層流動化する国際情勢の中で、日本はいかに国際社会から寄せられた「信頼」に応えていくのか、私の考えを少しまとめてみたいと思います。
1 分断と対立-複雑で相互に関連する課題
振り返れば、1980年代の末、ちょうど私がフルブライト留学生としてハーバード大学ケネディスクールに留学した頃でありますが、当時、レーガン大統領がゴルバチョフ書記長と相互往来を通して信頼関係を築き、米ソの関係改善に向けて動いていました。国際社会が大きな歴史の転換点に向けて動き出す兆しを感じておりました。この後の冷戦終結を経て、国際社会は協調に向けて大きく舵を切ることになります。
このポスト冷戦期において、私達は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を発展させてきたはずでした。先進国や途上国の別を問わず、ルールと規範に支えられたグローバル化の恩恵を受けることで各国は繁栄を実現し、特に中国や新興国は政治的・経済的な台頭を果たしました。
しかし今日、自らに有利な状況を作り出すべく、都合の良い一方的なナラティブを国内外に拡散することで、国際社会における分断と対立を様々な手段で煽る、また、一方的な行動によって、これまで私達の先達が築き、奉じてきた秩序を真っ向から否定しようとする動きが一部の国々によって堂々と行われています。
こうした国々は、例えば、サプライチェーン上の優位性や自国マーケットの購買力を梃子として政治的目的を達成しようとする経済的威圧を躊躇しません。自らの国益を達成するために、市場アクセス、不透明な開発支援などを利用し、既成事実を積み上げていきます。また、武力の行使や威圧といった動きも顕著になっています。
こうした試みは、例えば東シナ海や南シナ海においても見られます。東シナ海では、力による一方的な現状変更の試みが継続・強化されており、日本はこれに強く反対してきました。また、南シナ海でも、軍事化や威圧的な活動が継続されており、周辺諸国を始めとした国際社会の懸念が増してきています。力による一方的な現状変更の試みは、いかなる場所であれ、許してはなりません。また、台湾海峡の平和と安定も、日本の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとって重要であることは言うまでもありません。
この他、北朝鮮は前例のない頻度と新たな態様で弾道ミサイルの発射等を繰り返しています。これまで6回の核実験を行い、最近では、我が国上空を通過する形で、衛星打上げを目的とした弾道ミサイル技術を使用した発射も強行しました。今月にも再び衛星打上げを強行する意向を示しています。これらは日本にとって重大かつ差し迫った脅威であると同時に、国際秩序に対する明白かつ深刻な挑戦となっています。
そうした中で、国際社会は、ロシアによるウクライナ侵略という暴挙に直面しています。主権平等、領土一体性の尊重、武力行使の禁止といった国連憲章の原則を、こともあろうに国連安保理の常任理事国が侵害するという前代未聞の事態に対して、G7を始めとする同志国は、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を実施し、結束して対応をしています。
我が国も、これは欧州のみならずアジアを含む国際社会全体に影響を与える問題として、従来の対露政策を大転換し、対応してきました。引き続き、国際社会が緊密に連携し、一日も早くウクライナに公正かつ永続的な平和を実現するべく取り組む必要があります。それは、力による現状変更を世界のどこであっても決して許さないという、私達の揺るぎない立場を強く貫くメッセージになります。
さらに、この国家間競争の舞台は、生成AIやSNS等の普及に伴い、偽情報の拡散など、認知空間における情報戦へ拡大しています。偽情報の拡散を含む情報操作の試みは、我々の社会が基盤を置いている自由や民主主義といった普遍的価値に対する脅威であるほか、国際社会の分断を煽っている点も忘れてはなりません。
2 日米が取り組むべき課題
日本は、G7議長国として、広島サミットの成果を土台に、国際的な議論を主導し、分断・対立ではなく協調の国際社会を実現して、世界の平和と安定につなげるという、重要な責務を負っています。
分断と対立が顕在化する混沌とした時代だからこそ、初心に立ち返ることが必要です。それは、私達が直面するいずれの課題も、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の下で、対話による多国間協調によって解決するということです。この原点に立ち戻った上で、日米両国は何をするべきなのでしょうか。
(同盟国・同志国との連携)
一点目に、仲間作り、つまり同盟国・同志国との連携の強化です。G7広島サミットでは、岸田総理は、分断と対立ではなく協調の国際社会の実現に向けたG7の結束の確認と役割の強化を大きなテーマに据え、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持を力強く訴えるとともに、G7を超えた国際的なパートナーとの関与の強化にも取り組まれました。
日米韓や日米豪印の連携を通じて、日米両国が法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く決意を示し、行動していくことも一層重要となります。今年8月には、バイデン大統領のイニシアティブにより、史上初めて単独で日米韓首脳会合が開催され、「日米韓パートナーシップの新時代」に向けた連携を確認しました。また、日米豪印(クアッド)についても、今年5月のG7広島サミットの際に首脳会合を開催しました。私自身も、先月ニューヨークで日米豪印外相会合に参加し、連携強化を確認しました。
また、ASEANを始めとするパートナー国との連携を進めていくことも重要です。特に、本年、日本とASEANは友好協力50周年という歴史的な節目を迎えます。12月には、日本の主催で東京において日ASEAN特別首脳会議を開催する予定であり、将来の日ASEAN関係の方向性と新たな協力のビジョンを共同で打ち出す考えです。
(経済秩序の発展と経済安全保障の強化)
二点目は、ルールに基づく経済秩序の発展です。今世紀、インド太平洋地域は地政学の中心、そして経済活動の中心であります。この地域の並外れた成長の潜在力を活かし、自由で公正な経済秩序を維持・強化することは、日米の共通の目標でもあります。
インド太平洋経済枠組み、IPEF{アイペフとルビあり}は、まさにこの目標を達成す
る上での重要な前進です。IPEFは米国のインド太平洋地域へのコミットメントの強化を明らかに示すものであり、日本は、米国と共に、貿易、サプライチェーン、クリーン経済及び公正な経済といった分野におけるルールやハイスタンダードに関するこれらの交渉に積極的に参加してきています。
同時に、米国はインド太平洋地域の経済的統合のリーダーであり続けるべきである、ということを申し上げます。TPPを今の形に作り上げたのは米国です。日本はTPPへの米国の早期復帰を強く期待し、粘り強く働きかけ続けます。
また、経済安全保障への対応も強化しなければなりません。とりわけ、経済的威圧など、経済的依存関係を武器化する動きには、日米、さらにはG7を中心に、同志国で連携して対応していく必要があります。
(国内の脆弱性への対応)
三点目は、それぞれが抱える脆弱性への対応です。ポスト冷戦期の急速な経済成長とデジタル化がもたらした社会的な分断は、我々の社会に権威主義的なナラティブが付け入る隙を生み出しました。こうした分断そのものが民主主義社会の弱さと見られることがもたらすリスクも、看過することはできません。
岸田政権は、デジタルとグリーンをキーワードとする経済社会の歴史的変革の中で、成長も分配も実現する「新しい資本主義」を掲げ、健全な民主主義の中核である中間層を守るとともに、「人」を大切にした未来に向けた投資に、力強く取り組んできました。これはバイデン大統領が提唱する「中産階級のための外交政策」とも共鳴するものであります。私も、「新しい資本主義」の実現に向けて、リ・スキリングやスタートアップ支援が重要になると考えており、大臣就任前には、自由民主党の新しい資本主義実行本部において、リ・スキリング支援を企業中心から個人中心へと転換することを含めた提言を取り纏めました。
世界の二大民主主義経済としての日米両国は、民主主義が繁栄、安定及び安全保障のための最良のモデルを提示するということを、自ら実証しなければなりません。
(戦略バランスの確保)
四点目は安全保障です。この地域において、戦略的優位を担保する強力な態勢を確立することが重要です。安全保障面での態勢が強化されることにより、外交はより一層効果的に機能します。
その観点から、日米同盟の抑止力と対処力の更なる強化は急務です。昨年、我が国は新たな国家安全保障戦略等を策定し、防衛力を5年以内に抜本的に強化するべく作業を進めています。また、ブリンケン国務長官との間では、同盟の抑止力・対処力の一層の強化に向けて、具体的な協力深化のための議論を継続するとともに、様々なレベルで拡大抑止の強化に向けて密接に協議することで一致しております。
(女性・平和・安全保障)
さらに、日米は今後も、貧困、気候変動、国際保健等、グローバル課題に関心を持ち、取組を強化していくことも求められます。私は、長年ジェンダーをめぐる諸課題に力を入れて取り組んでまいりました。その中でも、特に女性・平和・安全保障(WPS)については、この1年、各国との対話を行いつつ、その主流化に向け、尽力をしてまいりました。先日も、ヒラリー・クリントン元国務長官との間でも、WPSについて突っ込んだ意見交換を行いました。今後、このWPSを日本外交の一環として、更に力強く推進してまいりたいと考えています。
WPSをはじめとする分野で日米あるいは多国間の協力を進めていくことは、日米の協力が国際社会全体に裨益するということを示し、仲間作りを強化する上で必要となります。
3 結語
最後に、日米間の「人の絆」について触れさせていただきます。故J・ウィリアム・フルブライト上院議員はかつてこう仰ったそうです。「長い歴史の過程において、あなたの考えを理解してくれる人がいることは、潜水艦をもう一隻持つよりもずっと安全を高めてくれる。」
日米フルブライト交流事業は昨年70周年を迎えました。また、岸田総理や私の大先輩である池田総理が、約60年前にケネディ大統領との間で日米文化教育交流会議(カルコン)を立ち上げました。現在、こちらにいらっしゃる佐々江国際問題研究所理事長が日本側の座長を務めておられますが、私も昨年「価値の共有:地域から日米へ、世界へ」というテーマで講演をさせていただくなど、このカルコンでは今日まで日米間の人的交流のあり方を絶えず議論してきています。
私が米国に留学していた頃の国務長官はジョージ・シュルツさんですが、彼は外交をガーデニングに例えることがお好きだったそうです。首脳・閣僚から一般人まで、様々な立場・バックグラウンドの人間が、共通の課題を議論し、相互理解を深め、「信頼」をガーデニングのように丁寧に育てていく、このプロセスの積み重ねが、今日の揺るぎない日米同盟の基礎をなしています。
冒頭、日本の外交が「ワンチーム」であると申し上げましたが、日米も「ワンチーム」ですし、この「富士山会合」も「ワンチーム」です。強固な信頼関係に基づき、様々な意見がぶつかり合うことの中で生まれるポジティブな化学反応こそがチームの強みです。日米がどのように協力をし、また国際社会を主導していくのか。今回の「富士山会合」での議論から、様々なアウトプットが得られることを期待しています。今回の「富士山会合」の大きな成果と皆様の一層の御活躍を心から祈念し、挨拶とさせていただきます。
(了)