データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回グローバル難民フォーラムにおける上川外務大臣ステートメント

[場所] 
[年月日] 2023年12月13日 
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

1 冒頭

 各国首脳の皆様、

 難民高等弁務官、

 閣下、

 御列席の皆様

 世界の難民・避難民数は、この10年で2倍を超え、世界中で故郷を追われた人々は、昨年初めて1億1400万人となりました。

 この急増は人災とも言える紛争が世界各地で長期化しているためです。難民が祖国に戻れない状況が続く中、新たな危機が更なる難民を流出させています。近年の気候変動に伴う自然災害の激甚化もこうした状況を更に悪化させています。

 危機が始まった当時、わずか5歳であったシリアの子どもたちは今や17歳になっています。若き難民たちは、青春時代を難民キャンプで過ごしています。たくさんのポテンシャルが失われ、「人間の尊厳」が脅かされているのです。

 現状を放置したままでは、世界の難民・避難民は、ますます増加していくでしょう。「人間の安全保障」の観点から、我々は団結し、難民・避難民一人ひとりの声に耳を傾けつつ、悪化の一途をたどる人道状況を何としても食い止めなければなりません。

2 日本の基本的考え方

 日本は、脆弱な人々のための人道支援を極めて重視しており、前回のGRF以降、50億ドル以上の支援を実施してきました。

 今後4年間も、人道主義を標榜し、力強く支援を実施していきます。

 人道支援の実施に際しては、人道支援要員の安全確保が不可欠です。彼らの訓練のため、日本は、ナイロビにおけるアフリカ「eセンター」の設立支援を新たに決定しました。これはバンコクの既存の「eセンター」への日本の支援をモデルとするものです。この支援を通じて、アフリカの人道支援要員の安全がより確保されることを期待します。

 一方、脆弱な人々に、食料や水、シェルターをひたすらに届け続ける、そのような人道支援だけでは状況を大きく改善することはできません。私たちは、より未来を見据えた、中長期的なアプローチを採らなければなりません。

 ハマスによるテロ攻撃が起きる直前の10月2日、日本・UNRWAパートナーシップ70年を記念して、ガザの3人の生徒が私のオフィスを訪ねてくれました。その一人が私にこんな夢を語ってくれました。「戦争が環境を傷つけない世界を実現するために科学者になりたい。」

 祖国を追われた難民・避難民一人ひとりが、夢を語り、努力し、それを実現できる、私は、それこそが、我々が心に描くべき未来の展望だと考えます。

 日本は、教育や職業訓練を通じて難民・避難民が自立していくことを支援しています。そして、彼ら・彼女らがその才能を開花させ、祖国の平和と復興に貢献する人材になることを強く後押ししています。

 難民・避難民の中でもとりわけ脆弱な環境に置かれているのが、女性と子どもたちです。WPSは、女性や女児の保護に取り組みつつ、女性自身が指導者の立場に立って紛争の予防や復興・平和構築に積極的に参画することで、より持続可能な平和に近づくことができるという考え方です。これは、難民・避難民への対応を考える上で欠かせないものです。

 日本は、人道支援、開発協力、平和の取組のすべてのプロセスにおいて、WPSの考え方を念頭にジェンダーの主流化と、女性の参画とリーダーシップを重視していきます。

3 難民・避難民の自立を支援するための日本の取組(日本国外での取組)

 御列席の皆様、

 日本は、難民・避難民一人ひとりが自立することを引き続き支援していきます。

 ウクライナでは、ロシアの侵略により、多くの子どもたちが学びの機会を奪われています。子どもたちがより安全な環境で学ぶことができるよう、日本は新たに危機における教育のためのグローバル基金であるEducation Cannot Wai(tECW)への拠出を行います。

 アフガニスタンでは、女性のエンパワーメントが課題です。日本はUNDPと連携し、女性が経営する事業に対して機材供与や金融アクセス改善のための支援を行っています。

 バングラデシュは100万人のロヒンギャ避難民を受け入れています。そこでは、日本企業が重要な役割を果たしており、例えば、ユニクロはUNHCRと連携し、避難民女性たちが縫製技術を身につけ、生理用布ナプキンを製作する取組を実施しています。

4 難民・避難民の自立を支援するための日本の取組(日本国内での取組)

 日本は、自国においても、難民・避難民への支援を実施しています。JICAは、2017年からシリア難民の日本での留学を支援しています。これまで約80人を受入れ、修了生の8割以上が日本で就職しています。

 「絶望するのではなく、今は夢を描くことができる。」

 その中の一人が語ったこの言葉に私は強く心を打たれました。本年、JICAは、その他の国・地域からの難民・避難民を対象とした新たな留学プログラムも開始します。

 日本は、前回のGRFで拡大を表明した、第三国定住による日本での難民受入れを着実に実施します。日本は2500名以上のウクライナ避難民を受け入れ、支援してきました。紛争避難民などを確実に保護する制度も設けました。日本は、こうした支援や保護をNGO、企業、大学等と連携しつつ実施します。

5 難民受入国の負担を軽減するための日本の取組(日本国外での取組)

 御列席の皆様、

 難民・避難民の夢が受入国の犠牲の下に実現することは決してあってはなりません。世界の難民・避難民の増加と長期化を受け、各地の受入国の能力は限界に達しつつあります。日本は、引き続き受入国の負担の軽減に向けた取組を進めます。

 例えばヨルダンは、難民受入れに伴う人口増と気候変動により、水不足の危機に直面しています。日本は、30年にわたり、安定的な給水につながる支援を実施しています。

 中南米では、770万人以上のベネズエラ避難民が周辺国に流出しています。

 日本はUNHCRと連携し、受入国における避難民の経済社会統合のための支援を続けていきます。

 日本は国際開発金融機関との協力も強化しています。これは、難民受入れの財政負担に苦しむ中所得国の借入負担軽減のため世銀に設置されたファシリティであるGCFFへの支援を含みます。

 本年2月に約8300万ドルを拠出し、日本はGCFFの最大ドナーとなりました。

6 人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)

 難民・避難民そして受入コミュニティの方々の夢を実現するため、日本は、ドナー国、受入国、国際機関等が連携するためのプラットフォームとして、人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)のマルチステークホルダー・プレッジを打ち出しました。

 グッドプラクティスがウガンダにあります。ウガンダ政府、JICA及びUNHCRが連携し、難民と受入コミュニティにコメ作りの研修を行い、生計向上につなげています。

 日本は、コロンビア、ザンビアでも同じような支援を実施しており、ケニアやエチオピアにも拡大する予定です。さらに、AUやIGADを通じ、地域の平和及び安定に貢献していく考えです。

7 紛争への対処、結語

 御列席の皆様、

 紛争は、難民・避難民問題の大きな要因です。紛争の根源は、政治の失敗であり、リーダーシップの欠如であります。

 その結果として、子供や女性、高齢者を含む一般市民が悲惨な状況に置かれています。

 緒方貞子さんはかつてこうおっしゃいました。

 「難民高等弁務官は、難民の生命を救い、彼らの苦しみを和らげることに多少役立つことはできる。だが、紛争を解決することはできない。」

 まさにそのとおりです。紛争の解決は、私自身そして本日ここの多数いらっしゃる皆様のような政治家の責任なのです。

 目下のガザの人道危機については、早急に事態を沈静化しなければなりません。日本は、総額約7500万ドルの人道支援を決定した他、JICAを通じた物資支援を行っているところです。

 こうした悲劇を二度と繰り返さないためにも「二国家解決」の実現に向けて、当事者を含む関係各国と連携して取り組んでいきます。

 日本は、GRFの共催者であるのみならず、本年のG7議長国、さらには国連安保理理事国でもあります。

 国際社会の平和と安定を確保するために引き続き全力を尽くしていきます。この決意をお伝えして私のステートメントとさせていただきます。

 有り難うございました。