[文書名] 第30回日米安保セミナーにおける上川外務大臣ビデオ・メッセージ
日米安保セミナー公開セッションにおける
上川大臣ビデオッセージ
1 冒頭
外務大臣の上川陽子でございます。
冒頭、昨年11月にオスプレイの墜落事故で亡くなられた8名の方々に改めて心から哀悼の誠を捧げ、御遺族の皆様にお悔やみ申し上げます。彼らは我が国及び地域の平和と安全を維持するため、日夜任務に献身していた方々でした。日米同盟による抑止力は、彼らのような在日米軍関係者一人一人の、命をかけて任務を遂行するという強い覚悟、そして御家族の支えによって成り立っています。
記念すべき第30回目となる日米安保セミナーの開催を心からお慶び申し上げます。冷戦後の日米同盟の青写真を描いてきた本セミナーにメッセージを寄せることを光栄に思います。
米国留学や米上院議員の政策立案スタッフとして働き「海外から日本を眺める」という貴重な経験をしたことが政治家を志した原点です。本日の公開セッションにおいても様々な立場から日米同盟を長年眺めてきたレジェンドから貴重な視点が提供されることを期待します。
私のスピーチでは、冒頭で本セミナーに与えられた役割について、
誕生当時の日米関係からひもといていきたいと思います。
2 日米安保セミナー、そして日米同盟の30年間
1995年3月に日米安保セミナーは、サンフランシスコで産声をあげました。本セミナーが実現をしたのは、先見の明を持つ日米の賢人達のおかげです。
数年前に冷戦が終わったばかりのこの時期、同盟漂流とすら呼ばれる様々な困難に直面しました。当時、在日米軍が最早必要ないとの極端な意見すらありました。
こうした中において、日米安保セミナー初開催の翌年である1996年4月、クリントン大統領と橋本総理との間で、冷戦後の日米安保体制を規定する重要な文書である日米安全保障共同宣言を発出しました。米軍人のみならず自衛隊員も招いての空母インディペンデンス甲板上でのスピーチの中で、クリントン大統領は同宣言が「同盟を強化し、21世紀の課題に共に備えるためのものである」と言明しました。
翌1997年9月には、1978年の発表以降初めて、日米防衛協力のための指針が改定されています。当時の関係者達がいかに正しい決断を下したかは歴史が証明するところです。彼らに敬意を表したいと思います。
このように、本セミナーの誕生は、冷戦後の日米同盟の歴史にとって重要な出来事と軌を一にしていますが、これは決して偶然などではありません。冷戦後の日米安保体制を再評価し、新たな意義を見いだすべきだという、日米の政府関係者、そして有識者の問題意識が通底にありました。
以来、本セミナーは、日米安保体制及び関連する諸課題について広範かつ多角的に意見交換をする知的交流の場を提供することになります。そして、本セミナーは回を重ねる毎に、例えば拡大抑止のように、その後の同盟の議論を先取りするような野心的なテーマも取り扱うようになります。また、次第に、本セミナーにおける議論が日米同盟に係る政策形成に影響を及ぼし、これを支えていくようになるのです。
3 日米同盟の今
続いて、日米同盟の今に目を向けたいと思います。
我々は歴史の転換点に立っています。ロシアのウクライナ侵略によりいわゆるポスト冷戦が完全に終わりを迎え、既存の国際秩序の根幹が揺るがされるような混迷の時代を迎えています。我々の今日の決定が将来を決定づけてしまう重要な局面にあります。
我が国は、岸田総理の強いリーダーシップの下、2022年末に策定した国家安全保障戦略及び昨年の日米安全保障協議委員会の共同声明に基づき、米国と取組を進めています。
反撃能力の保有・運用に向けた協力、常設の統合司令部の設置を念頭においた同盟調整・指揮統制(AC3)、南西諸島防衛、日米をハブとした同盟国・同志国との連携のネットワークの拡充(日米韓、日米豪、日米比、日米豪印)等、取り組むべき事柄は既に明確に示されており、日米両政府の間で検討が進められているところです。
昨年3月の日米安保セミナーにおいて、参加者の間で日米のビジョン、優先事項及び目標はかつてなく整合しており、実施が何よりも重要であるとの考えで一致したと伺っています。今はまさに、日米が同じ方向を向いて着実に歩みを進めていく段階にあります。
日米同盟にとって重要なことは、実施、実施、そして実施です。切迫感をもって臨む必要があります。外務大臣として全力を尽くすことをお約束いたします。
4 日米同盟の未来
最後に日米同盟の未来について一言述べさせていただきます。
この30年間、日米同盟を取り巻く環境は大きく変化し、その厳しさ及び複雑さは日々増していくばかりです。今後、我が国周辺における軍備増強は急速に進展し、領域をめぐるグレーゾーン事態、民間の重要インフラ等への国境を越えたサイバー攻撃、偽情報の拡散等を通じた情報戦等が恒常的に生起し、有事と平時の境目はますます曖昧になっていきます。さらに、国家安全保障の対象は、経済、技術等、これまで非軍事的とされてきた分野にまで拡大し、軍事と非軍事の分野の境目も曖昧になっていきます。
それどころか、未来においてはここで述べたような変化ですら陳腐と思えてしまうような環境の変化が訪れる可能性もあります。変わり続ける安保環境に先んじる必要があり、そのためには、新たな視点を持ち続けることが重要です。例えば、WPSといった視点を取り入れることも重要だと考えます。日米同盟の未来は、変革し続けることにあるのではないでしょうか。
同時に変わらないものもあります。それは日米同盟を支える「人」の重要性です。その意味で、日米同盟の未来はまさに「人」であるともいえるでしょう。
日米同盟は、日米両政府で献身的に働く文民・軍人、また、有識者、そして市民に支えられています。日米同盟の未来を紡ぐことができるのは、そうした人々の紐帯です。日米関係はこれまでになく良好な関係にありますが、そうした状況にあればこそ、日米同盟の未来を支える人々を育てる投資を怠ってはなりません。
先人たちは日米同盟をよくガーデニングに例えましたが、しっかりと「水やり」を行い、人々の間の信頼・友情を育むことで、美しい庭をより一層美しくしてくことが極めて重要です。
日米間では、長きにわたる重層的な人的交流を通じて、その友情を育み、日米同盟を一層強固なものにしてきました。安倍元総理も、カケハシ・プロジェクトやトモダチ・イニシアティブ等、様々な取組を後押ししていました。
2017年からは「アメリカで沖縄の未来を考える」、略称TOFUプログラムも実施しています。沖縄の将来を担う若者に、若い頃から「米国」に直接触れるという経験を提供しています。
人を育て、友情を育むこと、まさにそれこそが、私が日米安保セミナーに最も期待するところであります。若い専門家を育成し、有識者のネットワークをつくるという重要な役割を本セミナーが一層積極的に果たしていくことを期待いたします。
5 結語
日米両国の関係者達の献身的な努力によって、日米同盟はかつてない高みに到達しました。しかし、我々はここで満足していてはいけません。
日米同盟を更なる高みに引き上げるために、高い理想を掲げて遠くを見つめましょう。そして共に同盟を更に強化していきましょう。
その際、日米安保セミナーが引き続き大きな役割を果たすでしょうし、果たさなくてはなりません。日米安保セミナー20周年に際して、アーミテージ氏は以下のとおり述べています。「日米安保セミナーは、日米関係における懸念事項についての信頼のおけるバロメーター、問題を調査する顕微鏡、地平線上にあるイシューと潜在的な解決策を見通す望遠鏡であった。そして、率直な意見交換、既存の枠にとらわれない発想、創造的な問題解決のためのフォーラムであった」。アーミテージ氏が述べられたことは今日においてもあてはまりますし、今後もそうあり続けることを心から期待いたします。
あらためて今回このような貴重な機会をいただけたことに感謝申し上げます。日米同盟の更なる飛躍に向けた私の決意を表明して、私の挨拶とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。