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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回東京グローバル・ダイアログ「動乱の世界:安定した国際安全保障と協力をどう築くか」大臣基調講演

[場所] 
[年月日] 2024年2月28日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

冒頭発言

 佐々江理事長、御出席の皆様、外務大臣の上川陽子です。

 第5回東京グローバル・ダイアログの開催を心からお祝い申し上げます。日本を代表する外交・安全保障分野のシンクタンクである日本国際問題研究所からお招きいただき、本日皆様にお話しできることを嬉しく思います。

 私は、昨年9月に外務大臣に就任し、約5か月、これまで計12回にわたり国内外を飛び回り、23か国・地域を訪問しました。

 とりわけ、深く印象に残っていることは、情勢が悪化した直後のイスラエル・パレスチナをG7議長国外相として訪れ、被害者の御家族を含む関係者から直接状況を伺い、ある日突然愛する家族を奪われた心情に触れ、胸のつぶれる思いをしたこと、また、年始にウクライナを訪問し、空襲警報の鳴るキーウで外相会談を行ったことなどです。

 今回の東京グローバル・ダイアログのテーマは「動乱の世界」と伺っております。まさに、私自身、世界が大きな変革の時を迎えていると実感しているところです。私は、「動乱」の中にある国際社会を安定に導くため、外交を通じ、取り組むべき重要な課題は、大きく3つあると考えています。

 第一に、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」をいかに守り、強化するか。

 第二に、厳しさを増す国家間競争をいかにマネージし、平和を守るか。

 第三に、紛争や地球規模課題の影響から、いかに「個人」、特に女性や子どもといった脆弱な人々の「人間の尊厳」を守っていくか、です。

 本日は、この3つの課題について、私の考えをお話しさせていただきます。

「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」

(1)意義

 「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」は、ポスト冷戦期において国際社会に多くの恩恵をもたらしました。個人の自由を擁護するとともに、国際社会の平和と繁栄の基礎を提供し、この安定した秩序の下で多くの開発途上国が経済成長を遂げました。

 歴史の転換点を迎える現在、この秩序の維持・強化はますます重要になっています。特に、相対的に力を持たない国、脆弱な国や人々ほど、「法の支配」を必要としています。

(2)ウクライナ支援

 しかし近年、この秩序は重大な挑戦に晒されています。すでに2年以上に及ぶロシアによるウクライナ侵略は、この秩序にあからさまな挑戦を突きつけ、その根幹を揺るがしています。

 ロシアによる挑戦に、私たちがどう立ち向かうか。「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の未来がかかっています。侵略が長期化する中で、ウクライナが大きな苦境に直面している今こそ、このことを改めて確認しなければなりません。

 ウクライナ侵略は決して欧州にとどまる問題ではありません。「今日(こんにち)のウクライナは明日の東アジアかもしれない」、これまで何度も岸田総理が述べているとおり、我が国は力による一方的な現状変更の試みを決して認めません。だからこそ、日本はウクライナへの確固たる支援を改めて約束するのです。

 今月25日には、ロシアによるウクライナ侵略から2年が経過したことを踏まえ、G7首脳テレビ会議が行われ、G7首脳による声明が発出されました。

 また、先週ブラジルで先週行われたG20外相会合において、ラヴロフ露外相も出席する中、私(大臣)は、ロシアによるウクライナ侵略は、各国が支えるべき法の支配への大いなる挑戦であること、ロシアが侵略を止め、一日も早くウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現する必要があることを強調しました。

 私自身、1月にウクライナを訪問し、侵略の生々しい傷跡をこの目で見て、このような挑戦を決して認めてはならないと改めて確信し、ウクライナへの揺るぎない支持を伝えました。そして、まさに今月19日、日本は東京で「日・ウクライナ経済復興推進会議」を開催しました。ここでは、ウクライナが必要としている投資促進のための措置を発表し、また、緊急復旧支援から経済復興・産業高度化のフェーズに至るまで、7つの分野に重点的に取り組むことを表明し、計56本の協力文書を成果として打ち出すことができました。

 また、戦時において特に脆弱な立場にある女性や子どもたちをしっかり守るとともに人道支援・復興への女性の参画を促す観点から、「女性・平和・安全保障(WPS)」の視点についても復興・復旧プロセスに 通底する論点として議論しました。

 今後とも、官民を挙げてウクライナの自立的発展と復興を支援していきます。

(3)グローバル・サウスの関与

 「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の未来が岐路に立っている今、私たちは、国際社会において、この秩序に賛同し、積極的に支えていく国を増やしていく必要があります。

 このためには、近年影響力を増す「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国・新興国との連携が重要になってきます。これらの国は様々な歴史的な背景や価値観を有しており、彼らの影響力が高まる世界も多様なものになっていくでしょう。

 したがって、新しい世界において「自由で開かれた国際秩序」を強化していく作業は簡単なものではないはずです。われわれ自身の価値観への確固たるコミットメントと共に、相手を理解する「想像力」や「謙虚さ」が必要となってきます。つまり、共に創り合う、「共創」の姿勢が求められるのです。

 この点、日本は先進民主主義国の中でもユニークな立場に立っていると言ってよいでしょう。我が国は長年、相手国の多様性を重視し、文化的・歴史的な背景を尊重しつつ、対等な目線でそれぞれの声に丁寧に耳を傾け、きめの細かい外交を展開してきました。

 私自身、これまでの外交活動において、「グローバル・サウス」諸国から日本に寄せられる高い信頼や期待を肌で感じています。

 本日はここで、その具体的な協力のあり方についてもお話ししたいと思います。

(4)「法の支配」の推進

 第一に、国家間、そして各国国内において「法の支配」を広げていく取組です。国連憲章を含む国際法は、「グローバル・サウス」も含め全ての国がコミットする共通の原則です。変化する現代においても平和と繁栄の基礎となるものです。G7広島サミットでも、グローバル・サウスを含む招待国の首脳も交え、法の支配や国連憲章の諸原則の重要性につき認識を共有しました。

 国際法が誠実に遵守される国際社会を実現するために重要なことの1つは、国際裁判所の役割を高めることです。

 私は本年初めに「国際法の首都」ハーグの国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、及びハンブルクの国際海洋法裁判所(ITLOS)を訪問して、「法の支配」のためにこれら裁判所が果たしている役割に力強い支持を伝え、日本としての協力を打ち出しました。

 まずは、ICJの強制管轄受諾宣言やICCローマ規程の締結をまだ行っていない国々に対して、同志国と共に連携しながら、これを呼びかけていきます。

 さらに、各国と丁寧に対話をしつつ、その国内において「法の支配」を浸透させていく取組を続けます。日本はこれまでアジア・アフリカで多くの法制度整備支援の実績がありますが、本年のTICAD閣僚会合も通じ、日本の強みを活かして、アフリカと「法の支配」の分野でどのように協力を強化していくか、更に具体的な検討を進めていきます。

 また、PALM10(第10回太平洋・島サミット)の機会も捉え、海洋法執行能力強化に貢献していきます。

 加えて、国家間や、各国の国内のレベルで「法の支配」を広げていくためには、これに従事する人材が不可欠であることから、国際法務人材の育成の取組を更に充実させていきます。

 私としては、外務大臣として、共に創る、「共創」の姿勢に基づき、こうした国際社会における法の支配の強化のための外交を包括的に進めていく考えです。

(5)法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進

 第二に、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進に引き続き力強く取り組みます。我が国が一貫して提唱するFOIPは、今述べてきたような国際秩序を、インド太平洋において維持・強化することにより、インド太平洋地域全体、ひいては世界の平和と安定、繁栄を確保していくというビジョンです。

 FOIPのビジョンは、ASEAN、インド、米国、欧州など多くの国・地域が共有し

 「我々の(our)FOIP」として、楽観的で力強い未来を世界に示しています。

 このビジョンは、包摂的で開かれた、多様性を重視するものであり、協力の扉は常に開かれています。

 「グローバル・サウス」との連携においても、FOIPは協力の基盤とビジョンを提供しています。昨年3月、岸田総理がデリーにおいて発表したFOIPの新プランに示されるとおり、法の支配、強靱性や持続可能性を高めるための協力、連結性、海洋安全保障などの分野で、日本は、FOIPのビジョンの下、「グローバル・サウス」に裨益する実践的な協力を更に広げていきます。

 特に、この場で私は、FOIPのビジョンにおける「海」の重要性について、強調したいと思います。貿易、人の移動、環境、我々をつなげているものは「海」です。「海」は私たちに可能性と未来を与えてくれます。そのためには、やはり「海」においても法の支配が確立している必要があります。

 このような観点は、先般の太平洋島嶼国訪問においても強調し、中南米外遊時に発表した「中南米外交イニシアティブ」においても海洋に光を当てております。

 そして、アフリカなど、日本外交が見据える水平線は長く伸びていきます。広大なインド太平洋において、日本はこれからも法の支配を推進していく具体的な取組を進めていきます。

(6)グローバル・ガバナンスの強化

 第三に、グローバル・ガバナンスの強化に取り組みます。

 「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を、未来に向けて守り続けていくには、各国が責任感を持ってガバナンスに参画することが不可欠です。

 本年のG20議長国であるブラジルも、グローバル・ガバナンス改革を優先課題に据えており、私自身、先週行われたG20外相会合において、グローバル・ガバナンス改革に取り組むに当たっては、「人間の尊厳」という原点に立ち返り、人間の安全保障の理念に基づく人間中心の国際協力を推進していく必要があるとの考えを説明してきました。 紛争、貧困や地球規模課題など、国境を越えて取り組むべき課題が山積する中、国連が、現代の国際社会における喫緊かつ深刻な課題に対して本来の役割を果たせるよう、機能強化を急がなければなりません。

 とりわけ、国連安保理は国際社会の平和と安全に主要な責任を有します。我が国は、安保理理事国として、安保理が本来の責任を果たし続けることができるよう、力強く取り組んでいきます。

 まずは、来月の安保理議長として、国際社会が直面する課題について議論を行う予定です。3月18日には「核兵器のない世界」の実現に向け、核軍縮・不拡散に関する閣僚級公開会合を開催する予定です。

 現在日本は、「核兵器のない世界」に向けて現実的かつ実践的な取組を進めています。

 先般、昨年の岸田総理の国連総会一般討論演説において表明した「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」を、米国・欧州・アジアの研究機関・シンクタンクに設置することを決定しました。

 来月の国連安保理における会合を通じても、昨年5月のG7広島サミットの際に発出した「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」などの成果も踏まえつつ、核兵器国・非核兵器国間での実質的な議論を加速化させることを目指します。

 また、女性・若者の視点も踏まえた平和構築・紛争予防に関する大使級公開会合を開催し、困難に直面する「グローバル・サウス」の声に耳を傾ける考えです。

 決して簡単ではありませんが、安保理改革も諦めません。ブラジル、インド、ドイツとの枠組みであるG4の取組を重視し、アフリカの代表性向上を支持しながら、新しい時代に即した安保理の在り方を一層追求していきます。

国家間競争のマネージと平和の維持

(1)意義

 ここまで、国際秩序の維持・発展についてお話ししてきましたが、ここからは、激しさを増す国家間競争をいかにマネージし、平和を守るか、という課題に話題を移したいと思います。 我が国は今、戦後最も厳しい安全保障環境に直面しています。日本の外務大臣である私にとって、日本の領土・領海・領空及び国民の生命・財産を守ることは、最も重要な責務です。

 現在の世界、とりわけインド太平洋地域は、近年、歴史的なパワーバランスの変化に直面しています。

 本日ここに御出席の皆様に改めて説明するまでもなく、我が国周辺には、北朝鮮による核・ミサイル活動や、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試み、台湾海峡情勢の緊張、ロシアの軍事活動など、多くの不安定要因やリスクが存在しています。

 このような中、インド太平洋地域において我が国が果たすべき重要な責任は、地域に安定的なパワーバランスを築くための積極的な貢献と、それにより、力による一方的な現状変更の試みを牽制し、ひいては地域に戦争を起こさず、今ある平和を守り抜くことです。

 移行期にある国際社会において、我が国がこれまで享受してきた平和を守り抜くことの大切さは、強調してもしすぎることはありません。

(2)日米同盟

 先ほど総理が述べられたとおり、そのためにはまず、日米の結束が欠かせません。日米同盟は、我が国の安全保障のみならず、インド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定の実現に不可欠な役割を果たしています。

 インド太平洋地域において日米の協力を具体的な形で広げ、深めていくことが、米国のこの地域へのコミットメントを維持・強化する上でも、死活的に重要です。

 この点、岸田政権においては、総理の強いリーダーシップの下、日米同盟がかつてなく強化されてきています。私自身も、就任以来、ブリンケン国務長官と常に率直な意見交換を行い、緊密な関係を築いてきました。

 4月に予定される岸田総理の国賓待遇の米国公式訪問を成功に導くべく、外務大臣としてしっかり尽力してまいります。

(3)同志国との連携

 日米の結束に加えて重要となるのは、同盟国・同志国のネットワークを重層的に構築し、広げていくことです。

 G7、日米豪印、日米韓、日米豪、日米比などを活用しつつ、ASEAN、オーストラリア、インド、韓国、欧州などといったパートナーとの協力を、より一層強固なものにしていきます。

 中でもインドは、価値と戦略的利益を共有する最も重要なパートナーの一つです。今やインドとの間では、我が国の自衛隊は、陸、海、空と全ての軍種で共同訓練を実施するまでになっており、昨年1月には、日印間で初となる戦闘機共同訓練が実施されました。

 また、防衛装備品関連でも今後協力を一層進めていきたいと思います。「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、インド太平洋地域、そして世界の平和と安定に、日印が協力して責任を果たしていきます。

 また、オーストラリア及び英国との間で締結した円滑化協定(RAA)は、日本の安全保障政策の幅を広げるものとして非常に有意義です。

 今後は、日本と同じく海洋国家であり、米国の同盟国であるフィリピンとの協力も重視していきます。

日比・日米比協力を着実に進展させていくとともに、フィリピンとのRAA交渉も早期にまとめていきたいと思います。

 フィリピンに対しては、昨年11月の日フィリピン首脳会談の機会に、新たに作られた政府安全保障能力強化支援(OSA)による最初の協力案件として、沿岸監視レーダーシステムの供与を決定しました。

 OSAを通じて、我が国自身にとって望ましい安全保障環境を創出するとともに、地域、そして世界の平和と安全の維持・強化に積極的に貢献していきます。

(4)中国

 インド太平洋地域の平和を守る上で、中国を抜きに考えることはできません。

 我が国と中国との間には、様々な可能性と共に、本日既に述べたような数多くの懸案も存在しています。台湾海峡の平和と安定も重要です。

 同時に、日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を負っています。「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力するという、「建設的かつ安定的な日中関係」を、双方の努力で構築していくことが重要です。

「人」を中心に据えた外交

(1)意義

 ここまで述べてきた2つの大きな課題、すなわち、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の維持・強化、及び国家間競争のマネージと同様に重要となるのは、「人」、特に弱い立場にいる人々をいかに守っていくかという課題です。

 特に現在、紛争や気候変動により故郷を追われる移民・難民が急増する中、国家の保護下にない「人」の存在に光を当てることも重要となっています。

 日本はこれまでも、人間一人ひとりに着目した「人間の安全保障」の理念に基づき、「人間中心の国際協力」を進めてきました。

 我が国は、国際社会を分断・対立ではなく協調に導くため、「人間の尊厳」が守られる世界を目指すという考えを、国際社会に向けて訴えています。「人間の尊厳」はまさに、各国が価値観や体制の違いを越えて、共に重んじ、目指すことのできる理念です。

(2)中東(イスラエル・パレスチナ情勢)

 現在の国際社会に思いをはせ、個々の「人」を守り、「人間の尊厳」を重んじるという課題について考えるとき、真っ先に私たちの心に浮かぶのは、イスラエル、パレスチナを巡る情勢ではないでしょうか。

 昨年10月7日にハマス等による残虐なテロ攻撃が発生し、ガザ地区での戦闘が始まってから、4か月以上が経過しました。  しかし、国際社会からの呼びかけにもかかわらず、今もなお、人質となった多数の人々の解放が実現しておらず、また戦闘が長引く中で、現地の人道状況は更に厳しい状況となっています。

 日本として、多数の尊い命を奪ったハマス等によるテロ攻撃を断固として非難し、人質の即時解放を求める立場に変わりはありません。

 同時に、ガザの無辜(むこ)の民間人が、これ以上犠牲になることは、何としても防がなければなりません。子供、女性、妊産婦、お年寄りなど、脆弱な立場におかれた人々が紛争の現場にはいます。一人でも多くの命を救うべく、我が国は努力を続けます。

 日本として、人道支援活動が可能な環境を確保し、また人質の解放につながるような「人道的停戦」が速やかに実現し、そして、持続可能な停戦が実現するため、当事者が直ちに人道的な観点から行動するよう求めます。

 また、現在のような悲劇を繰り返さないため、国際社会が支持してきた「二国家解決」の実現に向け、今こそ、関係国と連携しながら、積極的に貢献していきます。

(3)サステナブル・ファイナンス

 「誰一人取り残さない」という理念を掲げるSDGsも個々の「人」に着目してきた我が国の外交と共鳴するものです。

 本年9月には国連「未来サミット」が予定される中、改めて、SDGsや気候変動に関するパリ協定の目標を見据え、日本として、持続可能な社会の構築に向けた新たな挑戦を始める時が来ています。

 私は外務大臣として、これまでにない、あらゆるステークホルダーを巻き込んだ取組に挑戦し、新たな日本外交の地平を切り拓きたいと考えます。

 その具体的な取組として、持続可能な社会の構築に必要となる膨大な資金ニーズに応えるべく、官民の垣根を越えた資金動員のためのODAの活用に取り組みます。

 来たる3月1日、私の下で、第一回となる「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」を開催いたします。このプロセスの下、新しいODAのあり方についての提言をいただき、開発のための大胆な資金動員に向け、速やかに具体策をまとめていきたいと思います。

(4)WPS

 もう一つ、日本外交の新たな挑戦は、WPSを主要外交政策の一つとして推進し、具体的な取組に繋げていくことです。

 WPSの考え方に基づき、紛争下や災害時に脆弱な立場に置かれやすい女性や女児に焦点を当てることは、すなわち、個々の「人」に光を当て、「誰一人取り残さない」という理念を掲げるSDGsや、「人間の尊厳」を体現することでもあります。

 私自身、このような強い思いの下、WPSの推進に一貫して取り組んできています。省内に新たに設置したタスクフォースを活用しながら、ウクライナや中東の支援においてもWPSに焦点を当て、あらゆるツールを用いて、日本外交の中でWPSを推進していきます。

 この関連で、中南米訪問の際に、パナマ大統領やメキシコ外相とも認識を共有したところですが、移民対策においてもWPSの視点を組み込んでいきたいと考えており、地域諸国・国際機関ともしっかりと連携して進めていきます。

結語

 皆様、本日私は、変化する国際社会を安定に導くための3つの課題について、私の考えをお話ししてきました。

 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化、国家間競争のマネージ、そして脆弱な人々を含む「人」を守る取組は、まさに、先ほど日本国際問題研究所が発表した「戦略年次報告2023」とも多くの認識を共有しています。

 私は外務大臣として、国民の皆様からの声に耳を傾け、国民に理解され、支持される外交を展開するという点を非常に重視しています。ゆえに、皆様がこの場で行う議論に耳を傾け、外務大臣として、それを日本外交における具体的なアクションに繋げていきたいと思っております。

 本日のテーマである、「動乱」の世界において、安定した国際安全保障と協力をどう築くか。世界の叡智を結集したこの東京グローバル・ダイアログの実り多い議論に期待しています。

 御清聴ありがとうございました。