[文書名] 上川陽子外務大臣の「ライシナ・東京」での講演
冒頭発言
●御出席の皆様、こんばんは。
●本日は、インドにおける代表的なフォーラムであるライシナ対話の日本版であるライシナ・東京の開催に出席することができ、大変喜ばしく思います。まずは、ライシナ・東京の主催者であるORF、JBIC及び経済同友会に感謝申し上げます。これまでライシナ対話では、世界各国の政府要人や経済界幹部、有識者の参加を得て、国際情勢について活発な議論が行われてきたと承知しています。このように意義深いライシナ対話が初めて日本で開催されることは、まさに「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の深化の証であると思います。
●本日は、明日予定されている各セッションの議論のキックオフも兼ねて、私から主に2点お伝えしたいと思います。第一に、2024年における日本外交のビジョン及び取組がどのようなものか、また、そうした取組におけるインドの重要性はいかなるものか。第二に、2014年に立ち上げた「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」が10年間でどのように深化し、また、今後どのように歩んでいくか。この2点について御紹介させていただきます。
日本外交2024の全体像
●世界は今、歴史の転換点にあります。私自身、外交の最前線に立ち、この点を日々実感しています。
●ロシアによるウクライナ侵略は、既存の国際秩序を根本から揺るがしました。また、中東情勢の悪化により、国際社会の対立構造はより複雑化しています。
●さらには、気候変動や食料・エネルギー危機といった地球規模課題に加え、AIとの共存や偽情報等、新たな国際的課題も浮き彫りになっています。
●こうした中で、日本外交が目指すのは、国際社会を分断・対立ではなく協調に導くため、対話と協働を通じて新たな解決策を共に創り出していくという「共創」です。国の体制や価値観を超え、多様な国家が平和の中で共に繁栄することができることが重要です。そのような観点から、日本は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を強く世界に訴えるとともに、法の支配と「人間の尊厳」を中心に据えた外交を実践しています。
●その中でも特に、「女性・平和・安全保障」、いわゆるWPSを力強く推進しています。WPSは「人間の安全保障」など日本が掲げる人間中心の外交を支えるものです。私は外相就任以来、日本外交のあらゆる局面でこのWPSの考え方の重要性を強調してきました。本年1月には、より力強くWPSを推進するため、外務省にWPSタスクフォースを設置しました。さらに、2月の日・ウクライナ経済復興推進会議では、WPSセッションを実施するなど、「WPSinAction」として、WPSの視点を踏まえた支援に取り組んできています。
●こうしたビジョンの下、日本は、・日米同盟を基軸とするG7や、日米豪印といった同盟国・同志国との連携強化、・「グローバル・サウス」への関与強化、そして・国連を中核に据えた多国間主義に基づく取組を進めています。
●これらの取組のいずれにおいても鍵となるのがインドです。特に本年は、日本が日米豪印の外相会合、インドが首脳会合を、それぞれが主催する重要な年です。昨年も、日印それぞれがG7・G20議長国として緊密に連携し、その結果、食料や保健などの分野で、G7の成果をG20につなげることができました。本年も、インドとの間でのこのような連携をさらに発展させ、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を多国間の場でも展開してまいります。また、日本の「自由で開かれたインド太平洋」の実現においても、インドが最重要パートナーであることは論を俟ちません。さらに、「グローバル・サウスへの関与強化」においても、グローバル・サウスの雄ともいえるインドの存在感は増しています。そして、国連を通じて「人間の尊厳」を守るためには、より実効性を有する安保理の実現が必要です。安保理改革は決して簡単ではありませんが、日印はG4の仲間として共に取り組んできています。
インドの重要性
●不確実性の増す時代において、こうしたキー・パートナーであるインドは、3つの点において極めて重要です。
●一点目として、インドは、我が国同様、欧米各国とは異なる文化的、歴史的背景を有しつつも、確固たる民主主義の歴史を有しています。世界が分断と対立を深める中、民主主義を守っていくことは重要な課題です。国内に多様性を抱えつつ、独自の民主主義を確立してきたインドこそ、この課題に立ち向かう鍵となる存在と言っても過言ではありません。
●二点目として、インドは、世界に安定と繁栄をもたらす「国際公共財」としてのインド太平洋に位置する主要国です。この海においても、自然災害、海洋環境保全等、様々な課題が顕在化しています。そのような中、「自由で開かれた海洋」の維持・強化について認識が一致している日印両国は、これら課題の解決に向けて大きな責任を有します。
●三点目として、グローバル・サウス諸国が抱える諸課題の対処に向けた選択肢を共創していく上で、ただいま述べたような特徴を有するインドは理想的なパートナーです。高齢化など、長期的な視点で取り組むべき共通の課題についても、今のうちから日印で連携し、「共創」によって解を見出していくことが重要です。さらに、戦略的な経済外交を推進していく上でも、インドとの連携は鍵となります。
●日本としては、豊富な人材を抱え、巨大な潜在力を有し、さらには国際社会の様々な課題を解決していく独自の「知恵」と「力」を備えるインドと、ともに諸課題の解決に向け取り組んでまいります。
日印特別戦略的グローバル・パートナーシップの深化
●このようなインドの重要性も踏まえると、日本にとり日印関係の強化は必然であると言えます。2014年に「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を立ち上げて以来、この10年で、両国は関係を飛躍的に強化してきました。
●政治・安全保障分野では、首脳も含む重層的かつ頻繁なハイレベルの接点や、共同訓練を含む実質的な安保・防衛協力を深化させてきました。装備品協力の可能性も大いに広がっています。また、今後、WPSについても、インドとの間でいかなる協力が可能か検討していきたいと思います。
●経済分野では、・日印の旗艦プロジェクトである高速鉄道事業、・モディ首相が重視する北東部の開発、そして・北東部をベンガル湾と結ぶ産業バリューチェーン構想といった具体的な協力を着実に進めてきています。また、2022年に首脳間で打ち出した5年間で官民合わせて5兆円の投融資の実現目標に向けても、日印両国で着実に取り組んでいきます。
●こうした協力の実績をベースに、今後は、GXやDX等の新たな分野での協力や、投資・ビジネス環境整備を進めていき、関係を次なるステージへと引き上げてまいります。ここでも互いの「知恵」と「力」を結集させ、日印で取組をギアアップしていこうではありませんか。
●さらに、ライシナ・東京の重点テーマの一つである地経学に関連して、日本は経済安全保障を新たな時代における外交の重要な柱と据えています。このような方針の下、
・サプライチェーンの強靱化、・基幹インフラの強靱化、・重要・新興技術の保護・育成などの経済安全保障上のアジェンダへの取組を強化してまいります。
●インドとの間では、昨年7月には「日印半導体サプライチェーンパートナーシップ」を立ち上げました。今後、更なる具体的な協力に向けて官民で連携していく考えです。
●人的交流は、両国間の中長期的な礎であり、今後より一層の発展可能性がある分野です。昨年、首脳間で2023年度を「日印観光交流年」とすることや、今後インドからの留学生を更に増加させることで一致しました。両国間の交流促進の触媒となる取組を積極的に進めていくべく、ジャイシャンカル外相とも連携していきたいと思います。
結語
●皆様、日印関係はこの10年で飛躍的に発展してきました。また、国際社会における両国の協力も一層進んでいます。これまでの10年の取組を通じて、日印両国には、今後、更なる協力の可能性が具体的に広がっているということを確信しました。そうした確信をもとに、これまで積み重ねてきた両国関係の幅を広げ、具体的な案件形成とともに、関係をより一層深めていきたいと思います。
●引き続き、日印両国が、より良い国際社会を共創するパートナーとして、インド太平洋地域の繁栄、そして地球規模の課題解決に向けて国際社会を共にリードしていけるよう、尽力してまいります。
●ご清聴ありがとうございました。
(了)