[文書名] 日本経済新聞社・日経BP主催「ジェンダーギャップ会議『ダイバーシティ経営の最新事例2024〜先進企業に学ぶ成功の秘訣〜』」への上川外務大臣ビデオ・メッセージ
外務大臣の上川陽子です。
●本日、日本経済新聞社・日経BP主催「ジェンダーギャップ会議」の開催にあたり、御挨拶の機会をいただき、大変光栄です。
●さて本日のテーマは「ダイバーシティ経営の最新事例2024~先進企業に学ぶ成功の秘訣~」ですが、外交現場に身を置く者として、企業経営とは少し異なる視点からお話させていただきたいと思います。
●皆様、WPSという言葉をご存じでしょうか。WPS、つまりWomen・女性、Peace・平和、そしてSecurity・安全保障、とは、2000年に採択された国連安保理決議第1325号に初めて明記された考え方です。紛争下の女性など脆弱な立場の人々の「保護」に取り組みつつ、女性自身が指導的立場で紛争の「予防」や「人道・復興支援」に「参画」することで、より持続可能な平和に近づくという考え方です。
●WPSは、一見、平和構築の専門家のための話題であると思われがちですが、現在のウクライナや中東における悲惨な状況と、それらの状況が食糧やエネルギーを始めとする世界経済に与える影響を考えてみてください。WPSがカバーする課題は、実際にはより幅広く、そして様々な立場の人々が議論し、貢献できるものです。ビジネスやその他の先進的分野で活躍される方々も、です。
●これまでの調査・研究により、ジェンダー平等や女性の参画が実現している社会ほど、経済成長率が高いことが判っています。例えば、UNWomenの報告によれば、デジタル化から女性が排除されると、低・中所得国のGDPは1兆ドルの損失を被るとされています。またマッキンゼーによれば、労働力における男女格差を是正し、女性のリーダーシップを高めることにより、世界の国内総生産を28兆ドル、すなわち26%増加させることが可能との統計もあります。
●こうした認識の下、私は、外務大臣就任以前から、WPS議会人ネットJAPANを立ち上げ、同僚議員とともにWPSに関する先進的な取組を有する国々との対話を行い、国内の議会や政府に伝えてきました。そして、大臣就任以降も、ジェンダー平等の推進、とりわけWPSを主要外交政策の一つとして力強く推進してきました。
●本年1月には、組織横断的な連携を目的として、外務省内にWPSタスクフォースを立ち上げたことに加えて、二国間、多国間会議のあらゆる機会にWPSの重要性について発信してきています。2月の日・ウクライナ経済復興推進会議では「WPSセッションを主催し、WPSの視点を踏まえて同国の復旧・復興を支援する旨強調しました。
●また今年は、冒頭に述べたWPSに関する安保理決議の採択から24年になりますが、WPSを新たな次元へと引き上げるため、各国訪問等において「WPS+イノベーション」とする政策フォーラムを開催し、多様なステークホルダーから知見を集約してきました。
●自然災害の多い日本においては、WPSを防災や災害対応にも当てはめて推進していることが特徴ですが、このようなWPSの考え方は着実に浸透して、具体的なアクションとして形になってきています。今年の元日に起こった能登半島地震に際しては、能登の復興政策・事業に女性の経験・視点を反映させることを目的として、ジェンダーエキスパートが率いる調査チームが、被災地の女性に対するヒアリング調査を行い、政府及び地方自治体に対し提言を行ったと承知しています。
●外務省としても、このようなグッドプラクティスを積み上げ、得られた知見や示唆を踏まえてWPSを更に推進し、我が国としてジェンダー平等と女性のエンパワーメントの促進、そして平和な国際社会の構築に貢献していく考えです。
●さらに、WPSの推進や女性のエンパワーメントには女性自身だけでなく、男性の関与が不可欠です。
●これまでの性的役割分担に関する固定観念から解放され、WPSが推進する女性の意義ある参画を達成するためには、まずは男女が伝統的に担ってきた役割を互いに見直すことから始めることも重要です。日本のWPS行動計画でも、特に男性の関与の必要性に言及し、男性へのアドボカシーを強化することを重要な行動として挙げています。更なる多様性のために、若者の視点を取り込んでいくことも重要です。
●外交でもビジネスでも、「人」を大切にし、ダイバーシティを尊重する組織こそ、成長を続け、生き残っていくことが出来るのではないでしょうか。本日のイベントの成功、そして、本日の議論が「ダイバーシティ経営」に有機的につながることを祈念して、私の御挨拶とさせていただきます。
●ありがとうございました。
(了)