データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] セミナー「Well-beingの視点から考える『人口と開発』」での上川外務大臣の講演

[場所] 
[年月日] 2024年6月4日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

●本日、アジア人口・開発協会(APDA)の主催のもと、セミナー「Well-beingの視点から考える『人口と開発』」が開催されることに、心からお祝い申し上げます。

●また、本セミナーの開催にあたりご尽力いただきました、福田康夫元内閣総理大臣・APDA理事長、鼎談にご参加いただきました狩野光伸岡山大学教授、樋口ゆり子京都大学教授、乗竹亮治日本医療政策機構理事の皆様に敬意を表します。

希望の鶴

●皆様の机の上に置かれている小さな折り鶴について一言触れさせてください。

●この鶴は、未来への希望と平和への願いを込めて、一羽一羽、手折りされた鶴で、「希望の鶴」というそうです。

●2021年当時、私自身も法務大臣として、国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)に参加された海外からの閣僚等へお土産としてお配りし、大変喜んでいただきました。

●もともとは2008年の洞爺湖サミットの際に、福田康夫元総理の奥様が各国首脳夫妻をおもてなしする一環として作成されました。

●2011年に起きた東日本大震災の被災者を励ますために、岩手県や宮城県の被災者の方々に独特の折り方を伝えたことで、未来への希望と平和の願いを込めた「希望の鶴」の活動の輪が徐々に広がりました。

●これまでに、10万羽以上がイギリス王室、ローマ教皇、さらには戦禍に苦しむウクライナまで羽ばたいていったと聞いております。

●このことは、折り紙を折るという地道な活動でも、世界の平和と未来への希望の願いを国際社会に発信できることができる一つの例だと思います。

Well-beingに関する日本の発信

●このように、世界の平和や未来の希望について考え、行動を起こすことは、大変重要です。

●本日のセミナーのテーマでもある「Well-being」は、一般に「身体的・精神的・社会的に良好な状態」とされ、この「Well-being」はまさに、未来に向けて我々が考え、行動を起こすべき重要な視点のひとつです。

●コロナ禍を経て、Well-beingの指標や施策、その社会経済的インパクトについての議論が加速しています。

●我が国においても、Well-beingの取組を強化しており、2019年5月には内閣府が1回目の満足度調査報告書を公表し、以後毎年調査を実施、報告を行っております。

●また、2021年7月より「Well-beingに関する関係府省庁連絡会議」が開催されており、Well-beingに関する取組の推進に向けて各府省庁間での情報共有・連携強化・優良事例の横展開が図られています。

●国際的にも、日本が議長国を務めた2023年のG7各会合(財務大臣・中央銀行総裁会合、教育大臣会合)においてWell-beingに焦点を当てた議論が行われました。

●更に、2025年4月から10月にかけて開催される大阪・関西万博では、「健康とウェルビーイングウィーク」「SDGs+Beyondいのち輝く未来社会ウィーク」のように、Well-beingをテーマにした期間が予定されています。

人口とWell-being

●日本国内で個々人の幸福度を表すWell-beingの概念が注目される背景には、我が国を取り巻く少子高齢化社会や人口減少などの人口動態の課題に向き合う上で、その重要性が明らかになりつつあることが挙げられます。

●例えば、内閣府の満足度調査2023年報告書においては、家計や資産といった指標以外にも、例えばワークライフバランスや、コミュニティなど社会とのつながりも、満足度に大きな影響を与えることが示されています。

●より人材を惹きつけ、高い付加価値を生み出す、「満足度」の高い社会を生み出すためにはWell-beingは極めて重要な観点です。

●少子高齢化や人口減少といった人口動態の下、Well-beingの適切な把握やその活用は、人口問題対応に必要な付加価値を何に置くかを考える上で、ますます重要な意味を持つようになると考えられます。

世界的な視点・ポストSDGs

●世界に目を向けると、人口問題、紛争、エネルギーと食糧の危機、気候変動といった地球規模課題の深刻化など、複合的危機に直面する中、SDGsを含め、国際社会全体の持続可能性の確保に向けた取組は大きな困難に直面しています。

●こうした中で、現行SDGsの達成に向けた取組の加速化とともに、SDGsの期限年である2030年以降も見据えながら、国際社会をリードしていくことが強く求められています。

●今般、私の下に、「国際社会の持続可能性に関する有識者懇談会」を立ち上げ、2030年以降も見据えながら、我が国自身の持続的成長と国際社会全体の持続可能性の確保に向け、我が国として国際社会をいかにリードしていくかについて議論を開始したところです。

●こうした取組を進める中で、我が国の産業の強みを活かしつつ、Well-beingの概念も含め、様々な潮流も踏まえながら、長期的な展望を持ってしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

結語

●本日は、ご鼎談者を中心に活発なご議論をしていただき、ありがとうございました。今後ともWell-beingという切り口から、人口と開発の問題への国際的な取り組みの機運を一層高めていただくことを心から祈念いたします。

●御清聴ありがとうございました。