データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岩屋外務大臣による基調講演(宮路外務副大臣代読)

[場所] 
[年月日] 2024年12月17日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

冒頭発言

●日本の国際協力は今年で70周年を迎えました。本日は皆様と共に、これまでの経験も踏まえ、新しい時代の国際協力の可能性について考えたいと思います。

国際情勢の変化

●近年、国際情勢は大きく変化しています。ロシアによるウクライナ侵略や現下の中東情勢、また、感染症や気候変動をはじめとする地球規模課題など、国際社会は複合的な危機に直面しています。

●我々は、急速な成長を遂げ、国際社会の重要なプレイヤーになったグローバル・サウスとも協力し、価値観や利害の相違を乗り越え、国際社会を「分断と対立」から「対話と協調」へと導いていかねばなりません。

ウクライナ訪問及び復興支援

●先月、私は、外務大臣に就任後初の外遊においてウクライナを訪問し、ロシアによる侵略の生々しい傷痕を直接目のあたりにしました。

●冬が本格化する中、ウクライナの人々が冬を越すためには、エネルギー分野への支援が不可欠です。今後もUNDPと連携して、電力関連機材を供与していきます。

●さらに、ウクライナの未来にとって、復旧・復興も重要です。JICAの研修では同国の行政官を福島県に招き、東日本大震災からの農業再生に向けた取組を視察していただきました。

●本年2月のウクライナ復興支援会議では、日本の民間企業の先端技術や投資を通じた、復興への道筋も示すことができました。ウクライナの人々に、引き続き明日への希望を示していきたいと思います。

中東情勢を踏まえた人道支援

●また、ガザ情勢に関しては、一刻も早い停戦を確保し、人質を解放し、人間の尊厳を確保する必要があります。

●日本は、脆弱な状況にある国や地域に対し、復興後の開発を見据えた包括的な人道支援を実施してきました。こうした「人道と開発と平和の連携」の取組を通じて、平和構築と持続可能な成長を実現していきます。

「協力」を進めるべき分野としての地球規模課題、防災

●次に、地球規模課題について申し上げます。日本は「人間の安全保障」の理念を重視し、SDGsの達成に取り組んできました。

●これからも民間の知見や資金を最大限動員し、この分野での国際協力を進めていきます。また、ポストSDGsも見据え、国際的なルール形成に関する議論を主導していきます。

●その一つが防災です。防災大国である日本は、「仙台防災枠組」をはじめ、国際的な防災の議論や協力を主導してきました。

●例えば、フィリピンと1970年代から進めている協力により、2020年の台風「ユリシーズ」の被害額を約85%、被災人数を約97%削減することができました。

●また、モルディブでは、1980年代から支援してきた護岸整備により、2004年のスマトラ沖地震の津波から、多くの住民の命が守られました。

●自然災害が深刻化する中、日本は引き続き、国際社会における防災の主流化を主導していきます。

新しい時代の国際協力とODA

●国際協力70周年を迎え、新しい時代の国際協力の可能性とは何でしょうか。

●現在、途上国は、生活習慣病の増加、急速な都市化に伴う交通渋滞、GX、DXなど、日本と共通の社会課題に直面しています。

●すなわち、世界の課題解決が、実は日本自身のためにもなるのです。支援する側とされる側という伝統的な構図ではなく、共通の課題の解決に向けて知恵を出し合うことが重要になっています。

●こうした考えに基づき、相手国との共通の課題に対する解決策を共に創り出すため、「オファー型協力」を推進しています。多様な主体と連携しつつ、ODAを触媒として、民間資金の動員につなげていく考えです。

●もう一つの新しい可能性は、「三角協力」の拡大です。日本が地雷対策を支援してきたカンボジアは、今やその知見を他国に共有しています。ラオスにおける不発弾対策もその一つです。

●平和のための取組を面で広げていく、いわば「平和の連結性」の構築は、国を超えた連携と、社会や地域の強靱で持続可能な成長の基盤をもたらすものです。

「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて

●こうした新しい国際協力を推進し、国際社会を対立から協調へと導く上での基礎となるのが、「自由で開かれたインド太平洋」、FOIPというビジョンです。

●FOIPは、インド太平洋地域の連結性を高め、力や威圧とは無縁で、自由や法の支配が尊重される、豊かな地域にすることを目指すものです。

●日本は、ASEANによる連結性強化の取組をハードとソフトの両面で支援し、南西アジア地域では道路、港湾などのインフラ整備を進めてきました。

●南西アジアからインド洋を越えた先には、人口の過半が若者であり、大きなエネルギーを持つアフリカが存在します。インド洋を通じたアフリカとの海の連結性、そして、それを支えるヒトや制度、価値の連結性が、日本と世界の成長に向けた新たな地平を開きます。

●来年8月には、横浜で第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を開催します。アフリカの課題に取り組む際には、民間の活力を動員し、若者や女性の人材育成を進めることが鍵となります。そして、日本とアフリカとの共創により、国際社会の共通課題への革新的な解決策を生み出していきたいと思います。

●アフリカは「JICA海外協力隊」の最大の派遣先です。来年で発足60周年を迎える海外協力隊は、人と人とを信頼でつないできました。こうしたつながりが、共創の原動力となると考えます。

結語

●結びに、変化する国際社会にあっても、相互理解と信頼の重要性は変わりません。

●国際社会を「分断と対立」から「対話と協調」へと導くため、本日お集まりの皆様のお力添えを頂きながら、新たな時代の国際協力を実施していきます。御清聴ありがとうございました。