[文書名] 2026年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会岩屋外務大臣一般討論演説
議長、
各国代表団の皆様、
まず、ハロルド・アジマン大使の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会会合議長就任に心からの祝意を表します。我が国代表団は、議長の取組を最大限支援させていただく所存です。
(冒頭:多国間主義に基づく国際協調の枠組みとしてのNPT)議長、
80年前、我々は原子力が解き放つ凄まじい力を目の当たりにしました。それ以来、我々は、人類の破滅を回避するためにその力を管理しつつ、社会の発展のために適切に役立てるべく、取り組んできました。NPTは、そのような努力の結果として作られた核軍縮・不拡散に関する唯一の普遍的な枠組みであり、人類の知恵の結晶であると言えます。
現在、法の支配に基づく国際秩序がゆらぎ、我々は非常に厳しい安全保障環境に直面しています。不透明な核戦力の増強や北朝鮮による核・ミサイル活動の進展といった、核軍縮の歩みに逆行する、あるいは核不拡散体制を脅す動きも加速しています。NPTを始め、多国間主義に基づく国際協調の枠組みも困難に直面しています。
我々は、法の支配に基づく国際秩序を守り、育てていかなければなりません。いま、国際社会の分断を緩和し、多国間主義に基づく国際協調の枠組みの機能を回復し、強化する努力が必要とされています。
我々NPT締約国は、過去2回の運用検討会議において成果文書を採択することができませんでした。それが故に、NPT体制は危機に瀕しているとも言われます。この運用検討プロセスは、NPTの三本柱について国際社会を束ね続ける上で極めて重要な役割を果たします。対話と協調の精神を最大限発揮し、来年の運用検討会議で一致団結しようではありませんか。
(「核兵器のない世界」を求める声)
議長、
昨年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞しました。被爆者の方々は、核兵器がもたらす惨禍への理解を広めるべく、深い傷を負った身で、力を振り絞って取り組んでこられました。1982年の第2回国連軍縮特別総会の場で、一人の被爆者が本会議場の演壇に立ち、「ノー・モア・ヒロシマ、ノー・モア・ナガサキ」と力強く各国に訴えた様子を御記憶の方も多いでしょう。
今日、核兵器による惨劇を二度と繰り返してはならないと求める声、そして「核兵器のない世界」を求める声は、これまで以上に大きなものとなっています。NPT体制がこのような世界の人々の切なる願いに応え続けるよう、締約国の間で一つずつ一致点を見いだしていくことは、我々全員が共有する責任であり、道徳的な要請でもあります。
(「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議による提言)
本日、私は、我が国が2022年に立ち上げた国際賢人会議の提言を持参しました。この提
言は、5つの核兵器国を含む12か国の賢人たちが「核兵器のない世界」の実現という目標を共有する中で、2年半にわたり議論を重ね、コンセンサスでまとめたものです。
この提言には、現下の厳しい国際情勢において、現実的かつ実践的なアプローチで「核兵器のない世界」を実現するための様々な提案が含まれています。これは、分断が深まる世界にあっても、真摯な対話と建設的な議論を通じて知恵を生みだした一つの好例です。我々NPT締約国としても、NPTの原点に立ち返り、一致点を見いだしていこうではありませんか。
(結語:2026年運用検討会議に向けた対話と協調)
議長、
ここ国連本部会議棟の2階にあるノース・デリゲート・ラウンジには、ルーマニアの詩人による一節が記されたタペストリーが飾られています。「人類への讃歌」と題されたこの一節は、プロメテウスの神話を原子力の発見がもたらす可能性の話にかけています。NPTが成立した年でもある1968年、寄贈式が行われました。当時のウ・タント事務総長は、このタペストリーが破壊と平和及び豊穣のバランスを示すものだと述べました。原子力が平和と繁栄をもたらすか、破壊と破滅をもたらすかは、今ここにいる我々にかかっています。
先人達は、過去の戦禍や犠牲をふまえ、NPTという国際協調の枠組みを創造しました。我々は、この枠組みを、何としても維持し、強化しなければなりません。来年の運用検討会議は、そのためにこそあるのです。我が国も、NPTを維持し、透明性や説明責任を高めつつ、より良く機能させるために、最大限の取組を講じていきます。そして、来年開催される運用検討会議の議長に対する惜しみない支援をお約束します。
2026年の運用検討会議が、核軍縮・核不拡散・原子力の平和利用分野における普遍的な枠組みの再生の一歩であったと後世に語られるよう、全てのNPT締約国に対して対話と協調の精神に基づく協力を要請します。今できることは、我々の理想からすれば、小さな一歩かもしれませんが、重要な一歩です。皆さん、一緒に取り組みましょう。大きな飛躍に向けて。
御静聴ありがとうございました。
(了)