[文書名] 国際文化会館及びジャパン・ソサエティ共催イベントにおける岩屋外務大臣の演説 「日本外交とグローバル・ガバナンス」
1 冒頭
●ジャノウ・ジャパン・ソサエティ会長、
ウォーカー同理事長、
神保国際文化会館常務理事、
ジェーンズ同北米担当ヴァイス・プレジデント、
御列席の皆様、
●日本の外務大臣の岩屋毅です。本年4月に続き、ジャパン・ソサエティを訪問することができ、大変嬉しく思います。
●ジャパン・ソサエティと国際文化会館は、長年にわたり、日本と米国、そして、国際社会との「かけ橋」として、先駆的な役割を果たしてこられました。
●その両団体が、「戦略的フロンティアー分断する世界における日米のリーダーシップ」という誠に時宜を得たテーマの下、本日のイベントを共催し、私に講演の機会を与えてくださったことに心から光栄に思うとともに、感謝申し上げます。
●私は、昨年10月に外務大臣に就任して以来、国際社会を「分断と対立」から「協調と融和」へと導くことが日本外交の使命であると考え、全力で職務に当たってまいりました。
●本日は、私が外務大臣として走り抜けたこの1年間を振り返りながら、まず日本外交の三つの柱について、話をさせていただきたいと思います。
2 日米同盟
●最初に、日本のみならず、地域及び国際社会全体の平和と安定にとって不可欠な日米同盟から始めたいと思います。
●日本の外交・安全保障政策の基軸は日米同盟であることに今後も変わりはありません。米国とのパートナーシップは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための礎であります。
●同時に、国際秩序への挑戦が続き、その根幹が揺らいでいる中、米国にとっても、日米同盟の重要性はかつてなく高まっていると感じています。
●本年1月、私は、日本の外務大臣としては初めて、米国大統領の就任式に出席しました。
●そして、その翌日、ルビオ国務長官の就任初日に、日米豪印、いわゆる「クアッド」外相会合と日米外相会談を行いました。そのことを通じて、米国が、インド太平洋地域、そして、日本との同盟関係をいかに重視しているかを実感することができました。
●一方で、米国の関税措置に関する日米間の協議は、決して容易なものではありませんでした。7月末にようやく合意が成立し、その結果、9月には自動車・自動車部品関税等が引き下げられました。
●日本は今回の合意の誠実かつ速やかな実施に取り組み、日米双方の成長と経済安全保障を実現していきます。
●同盟国であっても、全ての意見や政策が一致するわけではありません。しかし、だからこそ、率直に語り合い、真摯に議論する、それこそが同盟関係のあるべき姿だと考えます。
●その上で、石破総理とトランプ大統領との首脳会談で確認したとおり、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて緊密に協力し、日米同盟を新たな高みに引き上げていきたいと思います。
3 同志国連携、近隣諸国との関係
●次に、二つ目の柱である、同盟国・同志国との連携についてです。日米同盟だけで、すべての課題に対応することはできません。
●先ほど触れた日米豪印の「クアッド」に加えて、日米韓、日米比など、同盟国・同志国とのネットワークを、「縦横十文字、網の目のように」張り巡らせ、協力関係を強化してきました。
●これらのネットワークを通じて、例えば、海上保安機関間の合同訓練や、経済安全保障分野での連携など、実践的な協力が進んでいます。引き続き、日本外交の大きなビジョンであるFOIPの実現に向けて同志国との連携を深めていきます。
●一方、近隣諸国との関係は、時に難しい問題に直面することもあります。日本は、丁寧にかつ粘り強く対話を重ね、未来志向の安定的な関係を近隣諸国と築いていきたいと考えています。
●日韓関係について言えば、私は、前の外交部長官である趙兌烈(チョ・テヨル)長官と非常に率直な対話を重ねてきました。また、7月に最初の外遊先として日本を訪問された趙顕(チョ・ヒョン)新外交部長官とも胸襟を開いてじっくりと議論を行いました。
●日本と韓国は互いに国際社会の様々な課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国です。韓国とは、今後も緊密に意思疎通してまいります。
●さらに、日米韓協力の戦略的重要性についても、3か国で認識が完全に一致しており、更に連携を強化してまいります。今日この後、日米韓外相会合を行う予定です。
●加えて、もう一つの重要な隣国である中国との関係についても触れたいと思います。日中両国は、地域や世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有しています。
●その一方で、中国との間には、尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海における力や威圧による一方的な現状変更の試みや、我が国周辺での一連の軍事活動など、多くの課題や懸案が存在しています。
●中国との間では、原理原則を曲げず、主張すべきは主張してまいります。その上で、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに、「建設的かつ安定的な関係」を築いていきたいと考えています。
●このような観点から、私自身、王毅外交部長と幾度にわたる率直な対話を積み重ねてまいりました。今後もそのような努力を続けてまいります。
4 グローバル・サウスとの関係
●次に、三つ目の柱として、グローバル・サウスとの関係について触れたいと思います。
●国際社会は多極化・多様化しており、グローバル・サウスと呼ばれる国々の中には、急激な経済成長を遂げている国々があります。そして、年々これらの国々の存在感と発言力が増しています。
●こうした中、我々人類が立ち向かうべき課題は、気候変動や国際保健といった伝統的な課題から、AIやバイオなどの新興技術から生じる課題に至るまで、ますます多様かつ複雑になってきています。
●これらの課題に対処するため、グローバル・サウスとの協働は、かつてなく重要となっていますが、グローバル・サウスも決して一枚岩ではなく、その利害は複雑に絡み合っています。
●したがって、重要なことは、グローバル・サウスと呼ばれる国々とそれぞれにきめ細やかに意思疎通を行い、お互いがそれぞれのポジションにおける責任をきちんと果たすという関係を築いていくことであると思います。
●このような観点から、私自身、グローバル・サウス諸国との丁寧な対話に努めてまいりました。
●例えば、先月横浜で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の際には、アフリカ22か国と会談を行いました。また、大阪・関西万博に多くの要人が訪日された機会も活用して、この1年間で延べ200回以上の外相会談を行うことができました。
●これらの対話を通じて、日本外交がこれまで積み上げてきた信頼、そして、現下の国際情勢において日本が果たす役割への期待の大きさを肌で感じることができました。一方的に支援をするという関係ではなくて、共に課題解決に取り組む姿勢が大切です。引き続き、各国からの期待に応えられる日本であり続けたいと思います。
5 グローバル・ガバナンス
●続いて、グローバル・ガバナンスの問題についても話をさせていただきだいと思います。
●現在、国連、WTO(世界貿易機関)、WHO(世界保健機関)など、多くの国際機関やフォーラムに課題が指摘されてきており、効率性の改善を含めた改革が求められています。
(国連改革)
●1945年に、加盟国数51か国で始まった国連は
創設80周年を迎え、この間、国連を取り巻く国際情勢は大きく変化しました。今や、国連加盟国は193か国にまで増えています。
●特に、平和と安全の維持に主要な責任を有する安保理の改革、国連の機能強化は緊急の課題です。日本は、常任・非常任理事国の双方を拡大する安保理改革の実現に向け、具体的進展を得るべく貢献してまいります。
●今日、世界が直面する課題は複合的に絡みあっており、いかなる国も、一か国だけでは問題を解決することはできません。にもかかわらず、安保理が機能不全に陥っているなど、国連が加盟国を糾合する力を十分に発揮できているとは言えないのが現状です。
●日本は戦後80年間、一貫して平和国家として歩み、国際の平和と安全に積極的に貢献してきました。今後とも国連と多国間主義にしっかりとコミットし、自らにふさわしい役割を果たしていく決意です。
(開発協力)
●平和と安全に並び、国連の大きな役割の一つである開発協力も、大きな転換期にあります。ドナーによる公的な開発資金が、減少傾向にある中、民間資金の更なる動員が必要となっています。
●日本は、民間の資金と技術力を動員し、開発途上国の自律的な経済成長を引き続き後押ししていきます。また、丁寧な対話を通じて、開発途上国と日本の双方に資する課題解決型のODAを展開していく考えです。
●先ほど述べたTICAD9においても、AI等のテクノロジーやデジタル医療など、日本の技術や知見を活かしながら、日本とアフリカ双方の繁栄につながるような革新的な解決策を打ち出すことに努めました。
●現場の声に寄り添い、相手国の主体性を尊重する、そして何よりも、効果的な協力を有言実行する。こうした日本の開発協力の強みを、これからも大切にしていきたいと考えています。
(人間の安全保障)
●グローバル・ガバナンスは、国家だけに関わる問題ではありません。国家を形作っているのは一人ひとりの人間だからです。
●日本が重視してきた「人間の安全保障」の理念は、人間一人ひとりの尊厳に着目し、平和、開発、人道といった国連の各分野での取組を効果的に結びつける概念です。
●日本は、引き続きこの理念の下に実践的な取組を推進してまいります。
●気候変動の影響もあり、世界各地で災害が頻発し、大規模化しています。日本は、災害の多い国ですが、だからこそ防災大国として、我が国が有する知見・技術を国際社会と共有し、共に世界の持続可能な開発に貢献してまいります。
●気候変動に脆弱な大洋州島嶼国では、日本の気象衛星「ひまわり」を活用した気象予報の精度向上により、防災能力の強化に貢献してきています。さらに、位置情報を提供する、準天頂衛星「みちびき」を活用し、地域の早期警戒体制の更なる高度化に貢献していきます。
●誰一人見捨てず、誰一人取り残さない。日本は、そのような「人間の安全保障」の理念を、言葉だけでなく具体的に実践し続ける国でありたいと思います。
6 結語
●日本が国連に加盟した1956年は、ハンガリー動乱やスエズ動乱が勃発し、国際社会が大きく揺らいだ年でした。それから来年で70年を迎えます。
●私と同郷・大分県出身の重光葵外務大臣は、国連加盟時の演説で、「平和は分割を許されない(Peace is one and indivisible)」と言った上で、「日本は東西のかけ橋」になると述べられました。
●今日、ウクライナや中東情勢をはじめ、国際社会の分断と対立は、むしろ深まっています。そして、重光外相が看破したとおり、欧州、中東、アジアといった各地域の安全保障は、まさに密接不可分となっています。
●だからこそ、「対話と協調の外交」によって、分断を融和へ、対立を協力へと導いていかなければなりません。
●日本は、「分断し、対立する世界」において、各国を結びつける「結節点」となるべく、皆様と共に行動してまいる決意です。
●今こそ、重光大臣の言葉に恥じぬ日本外交を展開していかなければなりません。ここにその決意を改めて表明し、私の講演の結びとさせていただきます。
●御清聴、誠にありがとうございました。