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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回FMCTフレンズ外相会合 岩屋外務大臣冒頭挨拶

[場所] 
[年月日] 2025年9月24日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

フレンズ各国の皆様、

 FMCTフレンズ第1回外相会合にお集まりいただき、ありがとうございます。

 現在、国際社会の分断と対立は深まり、我々は厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。また、多国間主義に基づく国際協調の枠組みへの信頼も揺らいでいます。

 軍縮機関における議論が停滞する中、北朝鮮による核・ミサイル開発が一層進み、一部の国による不透明で急速な核戦力の増強が続いています。

 我々が目指すFMCTは、核分裂性物質の生産禁止により核兵器に量的制限をかける枠組みとなるものです。このアイデアは、1953年に当時のアイゼンハワー米大統領が国連で行った「平和のための原子力」演説に遡ります。冷戦期に東西間で何度か交渉開始が提案されたものの、実行に移されることはありませんでした。

 90年代には、国連総会でFMCT決議が採択され、議論が活発化しました。しかし、御承知のとおり、今日まで30年の間、実現には至っておりません。

 本年は、人類初の核実験、そして広島・長崎への原爆投下から80年となります。外務大臣に就任して以来、私は、ノーベル平和賞を受賞された日本被団協を含む多くの被爆者の方々から、核軍縮を切望する声をお聞きしてきました。

 被爆者の方々は、今日まで決して諦めることなく、核兵器のない世界への願いを繋いでこられました。我々政治指導者が諦めてしまえば、国際的な核軍縮・不拡散体制への信頼は失われ、厳しい地政学的環境の中で軍拡競争に火が付きかねない危険な状況に直面してしまいます。我々には、世界各国で平和を希求する多くの人々に対する責任があるのです。

 そうした思いから、私は去る5月、NPT運用検討会議の準備委員会に出席し、「対話と協調の精神」に基づいた合意形成の努力を呼びかけました。

 「今日世界が遭遇している不安と緊張の性質がいかなるものであろうとも、また、その原因がいかなるものであろうとも、国際連合の力によって平和的に処理し得ない問題はあり得ないと信じます。人類の生活が原子力時代にまで発達した現代において、自ら(みずから)破滅の道を辿ることの許されざることは、多言を要しないところであります。」

 これは、私の地元、大分の先達である重光葵外務大臣が、1956年に国連総会で行った演説の一説です。

 この国連本部は核軍縮・不拡散に向けた政治的意志で満ちています。今求められていることは、対話と協調を通じて、こうした意志をFMCTの即時交渉開始に結実させることです。

 アイゼンハワー大統領の演説以来の冷戦期における模索を第1章、そして冷戦後、90年代の国連FMCT決議からの30年を第2章とするならば、FMCTフレンズは、ポスト冷戦期が終焉したとも言われる現在の局面にあって、新たな章を開く試みです。

 我が国は、本日、ここにお集まりいただいているFMCTフレンズの皆様と協力しながら、即時交渉開始に向け着実に前に歩んでいく決意です。この難局において、我々の先達たちの思いを受け継ぎ、新たな章を共に記していけることを楽しみにしています。

 御清聴ありがとうございました。

(了)