データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「自由で開かれたインド太平洋」と、日アフリカ関係の未来を拓く(茂木敏充外務大臣)

[場所] 
[年月日] 2026年5月3日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 「ハムジャンボ」(こんにちは)。

 まずは、今回、私の訪問を温かく受け入れてくださったケニア政府、そしてこのような場を設けて頂いたGLOCEPS始め、関係者の皆様に深く感謝を申し上げます。

 スワヒリ語には、「ミリマ ハイクタニ ラキニ ビナダム フクタナ」、即ち、「山と山は出会わないが、人と人は出会う」という言葉があると伺いました。私が今、皆さんに向かってお話できるのは、私という一人の日本人が、友好の志を抱いて太平洋、インド洋を越えてここに降り立ち、そして日本に関心を抱き親愛の情を感じてくださっているケニア、アフリカの皆さんに温かく迎えていただいているからです。

 今日はこうした感謝の念とともに、日本外交の基本的なビジョンである「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」、そしてその中でも重要な位置を占めるアフリカ外交について、私の考えをお話させていただきたいと思います。

1 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の「進化」

 FOIPは、ちょうど10年前、ここケニアの地で誕生しました。2016年8月、初めてアフリカの地で開催されたTICAD6において、故・安倍晋三総理が、ナイロビのケニヤッタ国際会議場において、歴史に残るスピーチを行いました。

 そのスピーチとは、二つの大陸、アフリカとアジアを結ぶ、二つの大海、太平洋とインド洋を一体として捉え、自由、開放性、多様性、包摂性、法の支配、を中核的理念として、世界の人口の半数以上、GDPの6割近くを擁するこの広大な空間を、人々が出会い、協力して、未来の国際社会の平和と繁栄を築き上げる場所にすることを宣言したものでした。

 それ以降、この考え方は、様々な発展を経て、日本外交の柱として成長するとともに、米国を始めとする様々な国々や、EU・ASEAN等の各地域が、インド太平洋に関する自らのイニシアティブを発表しています。アジアからアフリカに広がるこの地域において、自由で開かれた国際秩序を維持・拡大することが、未来の国際社会の平和と繁栄の鍵となることは、今や広く国際社会の共通認識となっています。

 世界は今、大きな時代の変化に直面しています。地政学的な競争の激化、加速度的な技術革新、アフリカを始めとするグローバル・サウスの台頭、これらの国々の経済成長とそれに伴う社会課題の増加等、国際社会が向き合うべき課題は、今まで以上に多様かつ深刻なものとなっています。

 こうした中で、昨日、高市総理は訪問中のベトナムでスピーチを行い、このFOIPを時代に合わせて進化させていくことを表明しました。

 進化のポイントは、一言で申し上げれば、国際情勢がより一層厳しくなる中にあって、自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくためには、各国の「自律性」、「強靱性」を強化していく必要があり、日本はそのために、経済、社会、安全保障等のあらゆる分野で各国、各地域と手を携え、必要な支援・協力を行っていく、というものです。

 「自由」、「開放性」、「多様性」、「包摂性」、「法の支配」、こうしたFOIPを支える中核的理念は変わりません。

 その上で、新たに進化したFOIPは、時代の変化に合わせ、重要物資のサプライチェーンや海底ケーブル、データセンターといったAI・データ時代の新たな経済基盤の強靱化、官民一体での社会課題解決を通じた経済成長の実現、そして安全保障分野での能力向上と連携強化といった取組に重点を置いていきます。

 もちろん、連結性の強化や、自由貿易や投資促進のためのルール整備といった日本がこれまでも重視してきた分野にも引き続き取り組んでいきます。こうした取組を通じ、アフリカ大陸に、更なる平和と繁栄の機会を提供し、若者に明るい未来を引き継ぎ、日本とアフリカで、「共に、強く、豊かに」なっていければと思います。

2 日本のアフリカ外交三本柱

 では、こうしたFOIPのビジョンの下で、日本は具体的にどのようなアフリカ外交を展開していくのか。

 私は、日本のアフリカ外交を、3本の柱、第一に「平和大陸アフリカの実現」、第二に「アフリカと日本の成長の好循環」、第三に「次世代の共創による誰もが豊かさを実感できる社会の実現」、これらを軸に、積極的に展開していきたいと考えています。

(1)平和大陸アフリカの実現

 第一に、「平和大陸アフリカの実現」です。日本は、度重なる内戦や虐殺を経験したアフリカ諸国の悲しみに寄り添いながら、日本自ら第二次世界大戦後の荒廃から立ち上がった経験も踏まえて、アフリカの平和と安定に協力していきます。

これまでも日本は、アフリカ14か国のPKO訓練センターに対する総額7,500万ドルの支援や、240名以上の教官派遣等を通じ、アフリカの平和と安定を守る人材の育成に協力してきました。

 日本の支援は、ここケニアにある国際平和支援訓練センターをはじめ、エジプト、ガーナ、マリ、エチオピア、ルワンダ、ベナン、ジブチ、カメルーン、ナイジェリア、タンザニア、トーゴ、ギニア、そして南アフリカに及びます。

 また、AUソマリア支援安定化ミッション(AUSSOM)を通じたソマリアの平和と安定に向けた支援や、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)への人的貢献は現在も継続中です。

さら に、2023年に創設した新たな支援スキーム、政府安全保障能力強化支援(OSA)をジブチに対して実施し、今後ケニアにも拡大するための調整を進めているところです。

 そして、平和大陸の実現には、紛争の予防と早期収束が不可欠です。こうした考えの下、本年3月、日本政府内に新たに「国際和平調停ユニット」を設置しました。アフリカを含む世界の平和と安定に、より積極的且つ機動的に関与していく考えです。

 また、国際の平和と安全に主要な責任を負う国連安保理が今日の国際社会の実体を真に反映したものとなるよう、安保理改革においても日本はアフリカと一層協力を深めていきたいと考えています。

(2)アフリカと日本の成長の好循環

 第二の柱、「アフリカと日本の成長の好循環」では、アフリカと日本が力を合わせて経済成長の波を作り出すことを目指します。

 そのために、まず、技術と人材を育てます。例えば、トヨタは南アフリカのダーバンに、いすゞはケニアのナイロビに、またサラヤはウガンダのジンジャに製造拠点を構え、9千人にも及ぶ現地の雇用を生み出しながら、日本の技術を活用した高品質な製品を、アフリカのみならず世界の市場に届けています。

 さらに「日本アフリカ産業共創イニシアティブ」によるスタートアップ支援や3年間で3万人のAI人材育成といった、新しい日本の取組も前進しています。

 同時に、アフリカ各地で沸き起こる経済成長の波が、より力強い大波となって、アフリカ大陸全体を澱みなく潤すためには、それぞれの活力が、アフリカ大陸内で、さらには大陸を越えた地域とも、自由に行き来し、しっかりと結び付いていくことが不可欠です。

 このため、日本は、アフリカの経済統合・産業発展、及び域内・域外との連結性向上に向け、昨年のTICAD9で「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」を発表しました。

 このイニシアティブの下、ケニアのモンバサ港を起点とする東アフリカ北部回廊、モザンビークのナカラ港を起点とするナカラ回廊、ナイジェリアやコートジボワール等を繋ぐ西アフリカ成長リングをはじめとする、アフリカ各地の交通網整備や輸出入拠点の機能強化を支援し、物流や人の往来を支える基盤整備を進めていきます。

 また、「アフリカ大陸自由貿易圏」実現に向けた協力も、引き続き進めていきます。

 また、今回、私は、ここに来る前にザンビアとアンゴラを訪問し、この後は南アフリカを訪問する予定ですが、先ほど申し上げた重要物資のサプライチェーン強靭化においても、レアアースや銅といった経済活動に不可欠な資源を豊富に有するアフリカ諸国との協力強化は極めて重要だと考えています。

 重要鉱物の採掘、精錬から部品製造、最終製品の完成まで、様々なプロセスで信頼できる協力を進めていきたいと思います。

 このように、アフリカと日本の結びつきが強まることは、アフリカのさらなる経済成長に資するのみならず、日本自身の成長にも直結します。

 そして、日本の成長が新たな、そしてより大規模なアフリカ投資を生み出し、その投資が更にアフリカの成長を押し上げる。こうした日本とアフリカ、双方の成長の好循環を大胆に創り出していくことが重要だと考えています。

(3)次世代の共創による誰もが豊かさを実感できる社会の実現

 最後に、「次世代の共創による誰もが豊かさを実感できる社会の実現」です。

 社会の豊かさとは、GDPや経済成長率といった数字だけで測れるものではありません。一人一人が日々を安心して暮らすことができ、それぞれの能力を伸ばし、様々な分野で活躍できること。そして、次の世代が、自分たちの未来はきっと良くなると確信できること。

 それこそが真の豊かさだと考えます。日本は、日本とアフリカの未来をつなぐ主役たる若い世代が、希望を胸に、共に手を携え、豊かな社会を創っていける環境づくりを目指します。

 日本は、これまでも、ケニア中央医学研究所(KEMRI)、ジョモ・ケニヤッタ農工大学や、エジプト日本科学技術大学をはじめ、アフリカでの保健・医療研究や高等教育の向上を実現してきました。そして、それを支えたのは、長崎大学、京都大学、岡山大学をはじめとする、大学関係者・研究者の、アフリカへの熱い想いです。

 また、日本がアフリカに派遣した海外協力隊員の総数は1万6,000人を越え、世界トップです。彼らは、日本とアフリカが、より良い社会と未来のために一緒に働くことの素晴らしさを伝えてくれています。

3 アフリカ開発会議(TICAD)

 日本のアフリカ外交の3本柱をご説明したところで、その主要な舞台となるTICADについて一言お話ししたいと思います。

 日本が、アフリカ開発会議、通称TICAD、を始めたのは1993年です。世界が冷戦終結後のアフリカの将来を見通せずにいた中、日本は、アフリカの地平線に曙の光が差すのを捉えたのです。

 以来、TICADは、日本のアフリカ外交の中核的取組として機能してきました。「平和と安定」、「経済」、そして「社会」を議論の柱に据え、日本とアフリカの首脳間の率直且つ建設的な議論の場を提供してきています。

 また、このTICADプロセスは、今や、先ほどご紹介したFOIPという大きなビジョンを支える、重要な柱の一つとなっています。

 その後、TICADは日本とアフリカ双方での開催となり、2016年には、ここケニアでTICAD6、2022年にはチュニジアでTICAD8が開催されました。

 そして、昨年8月には、横浜でTICAD9が開催され、アフリカ49カ国、うち首脳級33名の参加を得て、活発な議論が行われ、「横浜宣言」が採択されました。

 また、成長するアフリカ市場への日本企業の関心の高まりを反映して、324件ものビジネス関連の協力文書が署名され、国際機関、民間企業、市民団体等が主催したテーマ別イベントは200件を超えました。

 古代エジプト文明の中心にあったのは、太陽の動きでした。そして、33年前に日本が捉えたアフリカの朝の太陽は、今や空高く昇って、アフリカは次の世界の成長センターとして眩しい光を放ち、熱い注目を浴びています。

 日本は、アフリカがアフリカらしく発展するために、TICADの基本理念である「アフリカのオーナーシップと国際社会とのパートナーシップ」の下に、日本とアフリカで未来を「共創」していきます。

 次回のTICAD10は、アフリカで2年後に開催されます。急速に変化する国際社会とアフリカの進歩を踏まえ、この「共創」の精神の下で、TICAD自身も、アフリカと手を携えながら、進化させていく考えです。

4 結び

 アフリカの成長は日本の成長であり、日本の未来はアフリカの未来です。アフリカが平和大陸となり、日本とアフリカが一緒に起こす成長と技術革新の大波がこの大陸と世界を潤し、そしてアフリカの若者と日本の若者が、この広い海と空を、自由に動いて、飛んで、その出会いから生まれる様々な輝きを共有し、共に世界の未来を切り開いていくこと、これが私の心からの願いです。

 「ムトゥニワトゥ」。「人は、人々である」。人は、つながりの中でこそ生き、前に進むことができる。

 まさに、ここアフリカを発祥の地とする我々の祖先、ホモ・サピエンスが、広い大地や海原を越え、世界中に拡がっていけたのも、その集団行動の力でした。

 さあ、再びこのケニアの地から、一緒に歴史の新たなページを開きましょう。

 「アサンテサーナ」(ありがとうございます)。ご静聴、ありがとうございました。

(了)