データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 池田勇人内閣総理大臣の米議会における挨拶

[場所] 米議会
[年月日] 1961年6月22日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),344ー346頁.池田総理の米国及カナダ訪問, 28ー30頁.
[備考] 
[全文]

議長並びに議員の皆様

本日、民主政治の伝統に輝くこの議事堂において、皆様の温い御歓迎をうけ、日本政府及び国民を代表して一言挨拶を申述べますことは、私の深く名誉としまた喜びとするところであります。

 われわれは非常に困難な時代に生きております。即ち、自由を求めるすべての人々にとって、異常な努力が要求されている時代であります。国際間の緊張は或いは高まり、或いは弱まったりするかもしれませんが、根本的な対立は依然として続いているのであります。今日の、或いは明日の情勢がどうあれ、われわれは正義と自由に基づく平和のため、一貫した献身的行動をとらねばならないのであります。

 さて、この変わりやすい不安定な世界にあって、日本はなにをなしつつあり、またなにをなしうるのでありましょうか。

 日本の理想とするところは、民主主義に立脚した強力にして安定した国家をつくりあげることであります。自由と人権の尊重という民主的原則は、今や日本の国民の心の中に固く植えつけられております。

 ただわが国民が真にこれらの原則に従って行動することを学ぶには、まだまだ長い路を歩かねばならぬかもしれません。しかしわれわれはその道程に向って前進中であることを私は確信をもって申し上げたいのあります。

 戦後破壊と貧窮の裡から、勤勉にして進取の気性に富む日本国民は、時宜をえた米国の援助によって鼓舞され、活力に満ちた経済を再建いたしました。過去10年間われわれは、自由企業体制の下において、世界に例のないほどの高度の経済成長率を維持し得たのであります。

 今やわれわれは年間平均7.2パーセントの経済成長率を維持することによって今後10年間或いはそれ以内に国民総所得を2倍にし、もって国民の生活水準を引上げようと努力しているのであります。われわれはこの目的を達成するものと確信しております。

 このようなわれわれの努力は自由にして健全な社会を建設するためのみならず国際社会の平和と進歩とを確保するという偉大な任務において、われわれがより積極的な役割を果すために、われわれ自信の能力を増強させるという目的を実現せんとするものであります。

 戦後私自身も含めて何人かの日本の政治的指導者が日本経済の復興のため米国の援助を要請しにまいりました。私はこの機会に従来の米国の経済援助に対して深甚の感謝の意を表明いたしたいと思います。

 しかし今回の私の訪問はこのような援助の要請にまいったのではありません。むろ、わが国の経済成長に伴い、漸くわが国も、今日世界の平和と安定の問題の鍵をにぎる低開発諸国の経済建設と民生向上をたすけるための自由世界の共同の事業において、例え僅かであってもより多くの貢献を果しうるようになったことを確信をもって申し上げうることを喜ぶものであります。

 私は、ケネディ大統領その他米国の指導者との一連の友好的会談を通じて、相互の理解を深め、われわれの提携関係を一層強めることが出来たと信じております。

 最後に、私は皆様を通じて米国国民に、この偉大な民主国の繁栄を心から願っていることをお伝えしたいと思います。

 更に、また、正義と自由に基づく平和達成のためのケネディ大統領の御努力に敬意を表明するとともに、われわれも協力を惜しまないものであることを重ねて申し上げたいと思います。