データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 明日へのたたかい,未来からの呼びかけにこたえて(佐藤内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 1964年7月
[出典] 佐藤内閣総理大臣演説集,1−20頁.
[備考] 参考資料
[全文]

 前文

 われわれは、今日物質万能の中に埋没した人間の回復こそ政治の使命であると考える。政治の基本はつねに「人間」の尊重にある。人間が人間として生きるためにはまず自然と社会の抑圧に対する「自由」を獲得しなければならない。世界の歴史はこの自由と人間の理念を求める努力の歩みであつた。これは過去から現在、そして未来へつながる人間の歴史の大きな課題である。

 この課題に対しわれわれはつねに「未来からの呼びかけ」にこたえ、世界の平和と繁栄につながる日本の創造に向かつて、前進する。

 われわれは人間不在の政治を排除する。現在の日本は敗戦による精神的空白と物質的廃墟から立ち直り、さらに未来に向かつて出発する歴史的な転換期にある。

 このため政治は、国民全体の利益追及を第一義的な使命と考え、国民各層の幅広い意見を謙虚にきき、国民による国民のための政治に徹する。

 個人と社会、社会と国家、国家と国際社会の「個と全体」の調和をはかり、男女、老若をとわず、また勤労者、農民や学生および、企業活動、さらには国家もそれぞれの主体性と自己責任に立つてこそ、真に愛するにたる豊かな国土と世界の平和にいたる新しい道が開けてくると信ずる。

 世界観

一、戦争を前提に物事を考えていた時代は終わつた。世界の人々は、すべて、平和と、生活の向上を希望する時代になつたとわたくしは思う。世界の人口の三分の二近くが、貧困と飢餓と病気と差別的な生活からぬけだそうとして努力している。この人々の希望と努力を正しく生かすのが、世界各国の政治家の責任である。

 ジュネーブの国連貿易開発会議にみられるように、いまや世界は、富める国も貧しい国も、長い歴史と伝統を持つ国も、新興まもない国も、すべてが一堂に会して自国の悩みを率直に話し合う共通の広場を持つようになつた。

 こうした話し合いを通じて、世界は、もはや戦争のない方向に動いていることを、われわれは感じる。もちろん、現存する核兵器の脅威と、核兵器の分散の危険を無視するわけではない。

 核爆弾の被害をうけ、平和日本に生まれ変つたわが国としては、世界の各国にむかつて、核武装をやめ、核拡散をしないことを呼びかける使命があると思う。

 自由、共産両陣営が接近し、分極化し、多元化している現在、わが国は、いずれの陣営とも、いずれの国とも、平和共存することを内外に明らかにしたいと考える。

一、技術革新の時代に入り、急速に世界が小さくなり、相互理解の機会が増大したこと。

 核兵器の発達により、つぎの世界大戦は人類全体の破滅をまねくという認識が強まつてきたこと。東西両陣営ともその発展につれて大衆消費社会へと移行しつつあり、両体制は競争的共存の可能性を強めていること。

 二十世紀前半まで、戦争の要因の一つであつた「植民地の支配から脱するための戦争」は、しだいになくなりつつあり、東西問題にかわつて南北問題が話し合いによる解決を前提に登場していること。

 国連が十八年間存続し、すでに百二十三か国が参加して国際問題解決に努力していること。

 など、すべて世界が平和の方向へむかつて進んでいるとみたい。

一、わが国が開放経済体制に入つたことは、これを政治的経済的にみると封鎖的な、自給自足の冷戦を前提とした経済体制を放棄し、平和共存の経済体制に入つたことを意味するといえる。これは、世界全体の希望や悩みを、そのまま日本の希望や悩みとして、いままでよりも、はるかに身近に感じることになつたことだと思う。

 この意味からも、わたくしは、世界が、一つの世界にむかつて、平和と生活の向上にむかつて進んでゆくことを確信し、この方向で、日本が積極的な役割りを果せるよう、微力をつくしたいと考えている。

 しかし分裂国家の問題、不安定な東南アジアの情勢など、平和への障害は世界の各地にいぜんとして横たわつている。したがつて、わが国は防衛への努力を持続すべきであるが、同時に、世界の平和への方向や要因を見落すことなくつかみ、自らも世界平和の確立に不断の努力をすべきである。

 世界の平和は、人類の予想し得ない飛躍的発展の前提となり得ることを信じるからである。

 外交

 世界情勢が、多元化し、分極化し、政治、経済、軍事の各分野で、冷戦体制から平和共存体制へと大きく転換しようとしている現在、わが国は、流動する国際情勢に対応して、新しい角度から、もつとダイナミックな、外交政策を展開すべき時が来たと考える。

 外交問題は国内の政争の具にしないため、きわめて慎重に取り扱う必要があるが、まず外交の基本的姿勢としては、

一、世界各国と平和共存の外交を展開し、国際社会が平和の外交でつながるよう努力する。

一、国民の利益、経済の発展に密着した自主外交を確立する。

一、アジアの発展のために、アジア地域内の敵対関係をたんねんに解消し、アジアの連帯意識を高めて、協力してアジアから貧困を追放する。

一、日米間の信頼と理解をいつそう深め、両国が率直に意思を通じ合うための真のパートナーシツプを確立する。

 国連が認めた集団安全保障体制の一環として、日米安保体制を戦争防止の方法として維持していく。

 個々の外交政策については国民各層の意見をきいた上できめるが、つぎのような方向で国民外交をすすめる。

〔安全のための外交〕

 世界の平和を、従来のように米ソ両大国にまかせておかないで、日本が、アジアの平和のにない手として積極的に動くべきである。

 日本の国際的地位が、経済力とともに高まつている現在、これにふさわしい政治力を国際舞台で発揮しなければならない。

 仏・中など核保有国が新たに増加する情勢には重大な関心を払い、世界の各国に対し、または国連を通じ、軍縮および軍備管理への努力、核拡散の防止を強く呼びかける。

〔経済外交〕

 世界貿易の拡大と発展途上国の開発援助は、日本の生きる道であり、同時に世界平和につながるとの大乗的な立場から、日本経済に密着した外交を進めるばかりでなく、また民間の各層にわたつて、経済外交を推進する施策を講ずる。

 なお、文化人や産業界などのひとびとの外交機能を尊重する。

〔中共政策〕

 中共が核武装をしないで、平和共存の路線をとることを期待し、当面経済、文化、人間の交流など、あらゆる可能な分野で日中間の接触を深める。

〔日米関係〕

 日米間の信頼、友情は深い。これを政府レベルばかりでなく、政界、財界、学界、労働界、文壇など民間の各層の接触を通じてより深め、日本のいうべきところをどしどし米国に伝えることが必要だ。米国のアジア政策は、アジアと日本の平和安定にきわめて関係が深いから、米国が誤らないよう、日米は密接な情報の交換をすべきだと考える。

 日米安保体制は、現状変更をしない。

 経済成長とともに展開する社会開発計画について

〔考え方〕

一、ここ数年間にわれわれが体験したことは、技術革新と近代化の嵐のなかで深刻な社会的摩擦と社会変動がおこつていることだ。そして、はなやかな経済成長の半面で国民生活のうえに大きな“ひずみ”が生じ、繁栄のなかの新しい貧困が問題となつた。

 このような社会的摩擦が起つたのは、二重構造といわれる、わが国独得の複雑な産業構造や社会組織のなかで、急激な近代化が行なわれたためであるが、具体的にあげれば、物価の上昇、中小企業の混乱、斜陽産業、中高年齢層の就職難と若年労働力の不足、過大都市、交通戦争、農村の変貌、大規模な公害、など多くの問題がある。このような社会的摩擦は他面では経済発展の障害となり、また経済発展が国民福祉の向上につながらないことにもなる。戦後日本の経済政策が底の浅いわが国産業の基盤を培養するため、経済開発−つまり生産第一主義へ極端に傾斜せざるをえなかつたことは認めていいだろう。しかし、現在の経済政策や社会的施策にたいし“人間不在”の政策だという批判がでていることも事実である。

 福祉国家への道に新たな展望をもとめるには、現在わが国の経済社会に起つている{前5文字ママ}“変革”にふさわしい社会的施策が実施されなければならない。そのためには経済政策と社会政策が総合的に一体化して実行されることがなによりも大切だと考えられる。

一、真に望ましい姿の安定した社会をつくるには、経済開発とバランスのとれた社会開発が必要である。

 いいかえると、経済政策と一体になつて実施される社会的努力のプログラム(ソーシャル・プランニング)が必要である。バランスのとれた経済発展と社会開発によつて「暮しやすい生活環境」と「豊かで愛するに足る国土」がつくられる。

 社会保障はもとより、社会福祉、公衆衛生、人口問題への政策、教育、住宅、都市計画から中小企業、農業問題まで、経済社会の調和のとれた発展に必要と考えられる施策がすべてこのなかに入つてくる。学校、幼稚園、公園、保健所、遊園地、音楽堂から道路、資源の開発までを個々ばらばらに考えないで総合的に取り上げようということである。これに応じて新しい視野に立つた行政機構の再編成も検討の必要があろう。

一、社会保障という言葉は、第二次大戦のなかから生まれた言葉だという。つまり戦争の原因となつた“貧困”−そのうえに生まれたフアシズムに対し、自由主義諸国がかかげた理念である。戦争の原因となつた大量失業と貧困を追放して平和な世界をつくろう−という社会哲学にもとづく施策である。

しかし、社会保障は発生する事故(老後、疾病、廃疾、遺族、育児、失業など)にたいする救済的保障であり、いつてみれば受け身の施策体系であつた。

 福祉国家実現のため、さらに一歩すすめ、貧困の原因を除き、予防し、さらに国民福祉を向上しようという施策の体系が必要となつてくるわけである。社会開発計画はこれにたいする回答である。これによつてわれわれは、これまでの社会保障計画を再編成し新しい展開をもとめたい。

〔中高年齢層対策〕

一、はじめに強調した経済政策と社会政策の総合一体的な展開という立場でみれば、例えば中高年齢層対策や、教育保障の問題についてはつぎのように考える。

 急激な技術革新と近代化は中小企業の分野で大きな摩擦を起しており、ことに開放経済体制を迎えてこんご離職する中高年齢層の問題が深刻となる。これはわが国の人口構造の面からも指摘できる。それはいわゆる生産年齢人口(満十五歳から六十歳)の増加が年平均百二十万人でわが国総人口の増加率九十万人を大きく上回つていること、さらに満十四歳以下の年齢階層が減少し、全体として人口の老齢化をまねいていることからも推定できる。近代的な産業社会がもとめているのは若年労働力であり、深刻な若年労働力不足はいまでも社会問題化している。中高年層と若年層のあいだに雇用問題での摩擦が予測される理由である。

一、また、年功序列賃金から職務給への賃金体系の変化も徐々におこつている。社会保障関係者の間では、一九七○年代は中高年齢層にとつて貸金の停滞などでひとつの試練の時期になるだろうとみられている。

 したがつて現在の職業訓練のあり方を再検討するとともに、中高年齢層のための職場づくりに新しいアイデアを導入する必要があろう。ひとつの考え方として行政のサービス面や、窓口事務への登用、さらに相談事業や、社会福祉事業、さらに技術指導(農業、社会保険、労使問題)部門を拡充し、中高年齢層の新職場とすることである。また労働力流動化対策を強化するため、児童手当制度の創設準備を軌道にのせる必要もあろう。また定年制延長問題も検討すべきことである。そして老後に安らぎを−、これがわれわれの課題である。

〔教育保障〕

 最近の傾向としていわれることは生活費のなかにしめる教育費の増大である。とくに中高年齢層対策とも関連するが、賃金体系が中高年齢層につらい形になれば、教育費の父兄負担軽減は大きな課題である。

 義務教育費で国が負担する部分を明らかにして、これを完全負担に近づけること、教育の機会均等のため、育英制度の画期的拡充、そして児童手当制度創設によつて義務教育児童の最低生活費を保障する−この三つが中心となろう。

 育英制度については高校生のばあいは量の拡大、大学生については貸与額の大幅引き上げが必要である。

 経済・財政政策の基本的考え方

 「国民の手に財産をのこす。国民が自らの勤勉で、営々と蓄積した所得は、減税で国民に還元し、国民は財産をつくる。政府は、この国民の財産を借りて適正規模の公債を発行することを検討し、公共的性格の事業や、サービスにつとめる。政府も国民も、この理想が円滑に実現されるよう、それそれ理解と責任をもつようにする」

 このためとくに重要なのはつぎの諸点である。

一、いよいよ開放体制にのり出した以上、わが国のこれからの経済政策は、原則として先進諸国の常識と慣行にあう“オーソドックス”な経済観でこれを律すべきである。

要約すれば

 (1) 一国ないし一経済圏の自給度は問題にしない。国際分業による相互依存、合理的な融けあいをはかる。

 (2) 政治の経済にたいする責任は、経済の面における国民の創意と工夫がじゆうぶん発揚され、自発的な能率のよい経済活動が行なわれるようにすることである。

 そのためには長期的な展望と、総合的判断に立つて、日本経済のむかうべき方向と、その大局的な青写真とを示して、経済を誘導しなければならない。

 一方、現在の実情からみて、経済活動の支障となつている各種の制約は、早急にとり除かなければならない。

 政府は、統一的な政策を、機動的に行いうるよう自らの体制を整えるべきである。

 (3) 企業については創意と能率がフルに発揮出来るよう自己責任体制が強調されねばならない。たとえば政府依存からの脱却であり、過度の借金経営の自制である。

 (4) 右の総合として、新しい産業社会にふさわしい政府と企業のパートナーシツプを確立する必要がある。

 (5) 労働組合には、開放体制下における社会的責任の自覚のもとに、政府、企業とともに国民経済を支えるパートナーであることを期待する。

 (6) 中小零細企業、農林漁業については、とくに前向きの指導と手厚い保護政策が要請される。ただしこの問題については、新しい視野のうえに社会開発政策的観点などと併せて、総合的に向上発展の措置を講ずるよう漸新な方法が立案されねばならない。

一、通貨の価値維持、物価水準の安定は経済政策の根本であり、このためにはあらゆる努力が継続してたゆまなくつづけられねばならない。

 (1) 日本銀行の中立性確保、金利機能の回復、金融の正常化、金融機関の行きすぎた系列融資の自制などオーソドックスな金融政策をとらねはならない。そして、この一見古風に見える道を進むことによつて、金融機構全体の発達が促進され、それによってわが国民の旺盛なる経済力に適応する安定した金融が行なわれるようになることを期待する。また国際金融界との協力関係を一層緊密にすることが肝要である。

 (2) 物価については、従来高度経済成長の過程において消費者物価の上昇は当然であるとの見解が余りにも強調されすぎたことを率直に反省してバランスのとれた安定成長の理念に徹しなければならない。物価の安定は、合理的で自由な経済運営の基盤の上に、中小企業の体質改善・新しい農業政策の展開・流通機構の合理化・健全な賃金政策、労働移動の円滑化のための住宅建設・地価の抑制策など、いま欠けている部面に対する総合的な根本対策が実行されることによつて得られる。また消費者行政を積極的に展開せねばならない。

 (3) 地価の騰貴は国民経済の上で大きなロスになつている。政府や都市の公共事業は同じ予算でも、地価上昇の分だけ事業量が減る計算になる。また産業の資本蓄積が乏しい日本で土地投資に大量のカネが流れるのは不自然だ。庶民は土地が高くて住宅がもてない実情でもある。土地対策は難かしいが、現在のように公有地を払い下げるという考え方ではなく、逆に公有土地をふやして公共のために利用する考えをとつたらどうだろうか。

 (4) 物価、賃金、利潤は相互の関係を安定させる方策を検討されなければならない。生産性向上の成果を賃金、価格引き下げのいずれに分配するかが、国民経済の立場に立つて適正に行なわれることを期待する。

 (5) 国際収支については貿易・貿易外を通じて経常収支が均衡することを目途にその改善につとめ、政府も企業も組合も消費者も全国民あげての理解と協力を求めうるよう工夫をこらさればならない。

 (6) 景気の調節については金融のほか、税制、公債等の財政政策を活用することがたいせつである。

一、財政については健全財政主義を堅持することは通貨価値の安定からしても当然の要請である。他面財政の性格は近来いちじるしく変貌しつつあり、社会保障関係などの歳出増は必然の傾向である。これは社会資本の充実、公共消費の増大とともに福祉国家の建設を目ざす以上当然の結果である。さらに、国民の租税負担は現在すでに相当の重圧である。したがつて財政については新しい構想と工夫を考えればならない。

 (1) まず財政支出について政府支出の効率を重視すべきである。このため官庁機構を整理すべきものは整理して新設すべきものは新設して再編成しなければならない。

 (2) 財源については公共投資のごとくつぎの世代にまで便益のおよぶものに現世代の租税のみで負担する根拠は乏しいのみならず、租税によつて公共投資の財源を調達することは個人消費の圧迫になり、国民資源の効率的配分をはかるゆえんでもない。また公共事業などについては、租税という無利子の資金によるよりは、公債財源によつてコスト観念を明確にし、国民資源の効率的配分をはかることがより合理的である。さらに金融政策上オペレーション機能を増大させ得る点からしても、ある程度の公債発行に踏み切ることが適当であろう。もつとも、インフレのおそれがないようにその限度を確定する等の必要があることはいうまでもない。

 なお、国土の総合開発計画を雄大につくりあげ、その基盤の上に世界的規模で合理的な外資の導入をはかるべきである。

 (3) 税制については、現在までの静態的なマンネリズムの税制から動態的なものに改めることにし、将来の望ましい経済構造のあり方に適応するよう、長期間展望に立つて思い切つた改革を指向すべきである。

 ただし、当面重点をおくべきは所得税の減税であり、少なくとも課税最低限度と標準給与家族の場合の標準生計費(三十八年に四十七万円)の間に、若干のマージンをおき、中産階級の税負担を軽減すべきである。また資本の蓄積、企業の自己資本充実、技術の開発などに役立つよう適切な措置を講ずることも当面緊急の要請である。

 農業問題

一、農業については農業基本法によつて農業の構造改善が行なわれ、安定した自立農家を育成する方針が示されている。この方向にそいさらに自立への努力を助ける。農業は天候などによつて作柄が左右され、経済性で不利な立場にある。このような農業の性格を考慮して、農民の生活に急激な変化を起こす恐れのある政策転換は行なわない。

一、農民、農家、農村に対する対策は農業分野だけに局限して考えるのは不十分ではなかろうか。たとえば医療、農民教育、文化活動などの社会政策を推進したい。

一、最近の農業には兼業化の傾向が目立つている。兼業農家についても、実情に即し、農業分野だけにとらわれない対策が必要だと思う。

一、貿易自由化によつて、農産物は近い将来一○○%自由化しなければならないという考え方が支配的である。しかし、各国とも農産物については実情によつて保護政策をとつており、一○○%自由化の前提は間違つていると思う。かりに自由化するものがあるとしても、その時は事前に計画を示して、農民が転換する準備が十分できるようにしなければならない。

一、国民の主食である米については、国内自給の原則をとる。だがこれは日本の需要の全部をどうしても国内産米でまかなうということではない。安心して米を作り、米を食べるようにするということである。

 消費者米価の引上げは賃金の上昇に波及するなど、社会的影響は大きい。生産者米価が上がれば当然消費者米価も上がるという考え方はとらない。消費者米価は生産者米価との関連を離れて慎重に検討する。

 中小企業対策

 中小企業対策は国民経済に占める比重から見ても、国際競争力強化にとつても、大きな問題である。

 資本蓄積が大企業に片寄つた結果、中小企業の大企業に対する生産額は五対四であるにもかかわらず、総投資額では四対一と大きな不均衡を示している。

 さらに産業構造、労働需給の変化などの諸条件により発展と停滞の部分の区分が目立ち始めている。このようなヒズミを解決するためにはまず中小企業の近代化を推進することが前提となる。

 中小企業の弱点は低生産性、経営の不安定、劣悪な労働条件などにあらわれている。近代化のためには(1)生産性の向上 (2)経営の安定 (3)労働条件の改善が急務である。

 日本の中小企業対策の機能は各国に例がないほど完備しているが、問題はその運用である。相対的に資本不足なわが国では中小企業向けの資本装備率の低下を防ぐには「政策金融」を行なうほかない。

 中小企業近代化のための財政投融資を画期的に増額したい。

 中小企業の経営放漫が問題になつているが、経営放漫を責める前に、愛情ある協力の手をさしのべるべきである。このため、中小企業指導センターの業務を拡充し、新たに各業種にわたる市場調査、経営相談などの機能を整備し、経営者がほしがつている相談相手を、政府の手でつくるべきだ。

 中小企業の技術の相談相手として、西独などでは国立の技術研究機関をもつている。日本ではこの面の配慮が足りない。国立、地方の研究機関、大学の技術知能を総合的に活用してこれが国民経済の発展につながるようにしたい。

 大企業の支払い、下請け関係で中小企業はきびしいしわよせを受けている。大企業の成長は中小企業の成長と不可分である。これらのしわ寄せを政府と大企業が協力してなくすように考えて行きたい。

 教育・文化

 わが国がアジア的貧困といわれる環境のなかで、唯一の先進国として発展してきたのは、単一民族国家としての長い歴史と伝統をもつ文化と、明治いらいの教育制度の充実に負うところが多い。

 教育の問題はこんごよりいつそう重視しなければならない。しかしわれわれは当面、教育制度の改革を取り上げない。われわれが考えていることは、よき国民、市民として国際的にも通用する人間を育てる教育、創造的人材の養成を主眼とする教育、−つまり人間形成の教育を行なうため国がじゆうぶんな援助をするということである。したがつて施設と、教育担当者の待遇をさらに充実したものにする。

一、行政的には

 (1) 義務教育の段階まで完全国庫支弁を実現するよう努力する

 (2) 教職員の待遇を大幅に改善する

 (3) 学術研究にたいして継続性をもつた研究費の助成をする

 (4) 私学の保護助成(必要な財政援助、税制上の優遇措置)−などに配慮する。

 この場合、それぞれの学校がそれぞれの伝統と責任にもとづいて教育することが望ましい。政府は“金は出すが口は出さない”ことをたてまえとする。

一、よき社会人、市民として必要な公徳心を養う教育をどのようにして行なうかは、これまでのように日教組と文部省が対立したかたちや、方法によらずに解決する。われわれは、公徳心を養う教育をどのようにして行なわなければならぬか−まず現場で実際に教育を担当している教師から意見をもとめたい。

一、技術革新のテンポは、われわれが想像する以上の早さで進んでいる。科学技術の進歩に対応した教育をよりいつそう充実する必要がある。

一、次代の指導者となり、次代の文化を創造する優秀な人材を育てるため、画期的な“奨学制度”を創設する。これは、国際人を育てるための留学制度と、日本の優秀な頭脳を育てるフェローシップの二つの制度である。

 この二つの制度創設のため、税制上の措置、財政援助などあらゆる便宜が必要である。

一、文化の面で国が果しうる役割りは、文化の興隆に必要な援助と保障をすることである。しかし政府がよりよき理解をしめし、国民の文化への関心を高めるため、新しく「文化省」または、文部省、総理府に「文化局」をもうける構想を検討する。

 国土開発

 豊かで、真に愛するにたる国土−。これが国土開発についてわれわれのえがくビジョンである。われわれが住む国土は、美しく、そして豊かでなければならない。

 経済と技術の巨大な歩みのなかで、すべての国民が幸福を約束される国土であつてほしい。そのためには、開発計画が策定されるとき、計画実現の過程でおこる社会的摩擦変動を予測し、問題解決のために必要な社会施策のプログラムが用意されねばならない。そして、開発計画は、二十一世紀の日本までを展望した“国土構造改革”ともいうべき雄大なプランとなる。

一、国土開発のための計画は、すでに新産都市建設などいくつかの計画が実施にうつされている。しかしこうした開発計画には各所に障害があり、現に新産都市建設にはスタートとともに難しい諸問題がおきている現状である。しかし、新産都市建設が目標としてかかげる「地域格差是正」を果すため、積極的に既定の年次計画を完成する必要がある。

一、国土開発は、その計画内容において各省にまたがる問題をかかえている。したがつて総合的な計画の実施と、調整機能がきわめて重視されねばならない。このようなところから行政機構上の問題として経済企画庁の指示権を強め、拡大する必要もあるが、これと並行してこれまでの国土開発計画について総合的な再検討を加えたうえ、新しい総合計画の具体案を早急にまとめるべきである。

 そして、このような大きなプラン実現のため米欧からの外資調達を推進することに国民的支持をうけるであろう。

 市民生活の安全

 経済社会の高度化にともない、市民生活の不安が増大している。

 交通災害の防止、野放しの精神異常者取り締まり、産業災害、公害などの防止、麻薬対策、小暴力、組織暴力の絶滅など当面の問題は多い。

 法と秩序を守り、社会環境を改善して、これらの不安を解消するため国民と協力したい。善い政治こそ、市民生活の安全を保障するものである。

 憲法問題

 新憲法制定によつて民主日本は誕生した。その後、われわれは国際社会の中で地位を高め、自由経済による驚異の経済復興を果してきた。これは現行憲法の下で戦後を生きぬいた国民の努力の成果である。われわれはここからさらに「真の進歩は秩序と価値ある伝統の中で可能である」(自民党基本憲章草案)との歴史観に立つて、現行憲法の平和、国民主権、基本的人権などの精神をよりよく守り抜かねばならない。

 国民は国の生命である。憲法はこれを支える柱である。したがつて憲法は国民と一体のものでなければならない。しかし戦後の精神的空白と社会混乱のなかで、政治への無関心と不信が広がつている。この危機を乗り越えた時に、国民は新しい憲法のあり方を見出していくであろう。このような立場に立つて、わたくしは憲法がどうあるべきかについて国民とともに考えていきたい。

{(1)は原文ではマル1}